第285話
「がははは!!すまんのぉ!!」
「い、いえ……気にしないで下さい……」
ガッデスの山の中に作られた王宮にて。
豪快な笑い声と共に謝罪をするガッデス王を前に、ラグナは苦笑しながら答えるのだった。
あの後、ゾンビ集団に囲まれたラグナは必死に収納から酒を取り出してはゾンビと化したドワーフ達に酒を求められ続けた。
ゾンビ化した集団の中に、今目の前にいる王も紛れていたという訳だ。
「いや~、2日ほど前に国中の酒の在庫が無くなってな。我らドワーフにとって酒とは命の水なんじゃ。全く、面倒な嫌がらせばかりしてくる。本当、あのミラージュという国は。」
「そ、それは災難でしたね……」
あの時のドワーフ達の姿は本当に恐怖でしかなかった。
ドワーフ達にとって酒は命の水って事は何かしら、身体的に摂取しなきゃいけないって事なのだろうか?
酒が切れたからあんなにフラフラになったという事か……?
「まぁ、そんな話はどうでもええわい。それよりお前さんが例のシーカリオンからの使者って事でいいのか?」
「はい。シーカリオンからの物資の輸送を頼まれました。こちらが女王様からのお手紙と目録になっているのですが……」
「わかってるわい。酒の在庫についてはワシ等がいけないんじゃ。気にすることはないぞ。」
ガッデス王はそう言うと、手紙と目録を受け取り目を通していくと……
ぷるぷると身体中が震え始める。
そして……
「酒の材料が届いたぞぉぉぉぅぅぅぅ!!!!」
ガッデス王がそう叫ぶと、ガッデス城内に響き渡る程の大音量で歓声が上がるのだった。
『すげぇ……お酒一つでここまで変わるのかよ。』
まるでお祭り騒ぎだ。
まずは物資をという流れになり、ラグナはシーカリオンとアルテリオンから渡されていた物資を次々と受け渡していく。
「これは変わった炭じゃのぅ。」
ガッデス王はラグナのスキルから産み出された白炭を手に取ると感触を確かめていた。
「おい。これをヤツに持っていってくれ。」
手に持っていた白炭を兵士に手渡していた。
「その炭が何か……?」
「ん?あぁ、あれが鍛冶に使えるかと思ってのぅ。黒い炭なら使えるんじゃが、白い炭など初めて見たからのぅ。」
そう言われてドキッとするラグナ。
アルテリオンではそんな事を一言も言われなかったので、ちょっと動揺してしまう。
「それにしても、こんなにも大量の食料を運んで来てくれるとはありがたいのぅ。」
背中をバンバンと叩いてくるが、パワーが強い。
痛かった……
ラグナの耳元へガッデス王が顔を近付けると
「さすが、使徒様じゃ。」
と小さな声で呟き、ニカッと笑うのだった。
「それじゃ、次はワシらドワーフの工房に案内するぞ。」
そう言うと、ガッデス王に連れられ地下へと降りていく。
すると、そこには大きな空間が広がっていた。
「うわぁ……凄いな……」
まるで工場の様な広い空間に所狭しと並べられている素材の数々。
見たこともない素材ばかり。
そして完成品と思われる武器の数々も綺麗に並べられていた。
「ここがワシらの自慢の工房じゃ。」
立派な炉が何基も並んでおり、凄まじい存在感を示していた。
「おう、兄者!」
立派な炉を遠くから眺めていると、ガッデス王と似たような顔のドワーフが笑顔でやってきた。
「どうじゃった?」
「あの白い炭は鍛冶には適さねぇな。黒炭よりも熱さが足りねぇ。でも料理にならいいんじゃねぇかと思うぞ。火持ちは抜群だ。」
「ほぅ。それならば薪の節約になるのぅ。」
ガッデス王はラグナの方を向くと
「コイツはワシの弟のルヴァンじゃ。ドワーフ国の鍛冶部門の代表をしておる。そして今更ではあるが、ワシはルヴェイド。ルヴェイドでもガッデス王でも好きに呼んでいいぞ。何て言ったってワシ等ドワーフの救世主じゃからな!」
「もしかして酒を持って来たのはお前だったか!!本当に助かったぜ!!」
本当にドワーフの人達は力が強い。
バシバシ叩かれる背中がジンジンと痛む。
「ドワーフの方々はお酒が無いと先ほどの様に命の危機を迎えてしまうのですか?」
急にドワーフの人達の顔付きが真顔になる。
「あれは本当に辛いんじゃ……のぅ?」
ガッデス王は弟であるルヴァンにそう言うと、コクンと力強く首を縦に振るのだった。
「そうじゃのぅ。ドワーフにとって酒は命の水。だが、酒を飲まなければ死に至るという訳ではない。でもな、1日でも酒を抜くと徐々に体調に異変が現れるのだ。」
それからどんな症状が現れるのか深刻な表情で語ってくれた。
・手や指が震えてくる
・集中力が無くなる
・無気力になる
・頭痛や吐き気に襲われる
・幻覚や幻聴が聞こえたりする
『……それってアルコール依存症じゃねーか!!』
ラグナはそう突っ込みたい気持ちを堪えると「大変ですね。」と答えるのだった。
「あの症状は辛いが、酒さえ飲めればすぐに治るんじゃ。」
「あぁ。だからワシ等ドワーフにとって酒とは命の水なんじゃよ。」
ラグナは笑顔で酒について語る2人の姿を残念な気持ちで見つめるのだった。
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