第284話

「急いで消すんだ!」


ミラージュの兵士達の食料が置かれている置き場に着火材ジェル&ファイアーボールをプレゼントしたラグナは、必死に消火活動をしている兵士達の様子をハンモックで寝っ転がりながら観察していた。


「う、嘘だろ!?何で消えないんだよ!!」

 

水を掛けても消えない火に動揺している様子。


「どけ!!俺が魔法を使う!!」


上官らしき人物が魔法を使い消火を始めるが……


火は消えることなく、燃え続けるのだった。


『へ~……ミラージュの人達も魔法が使えるのか。』


ヒノハバラ特有だと思っていたけど、ミラージュの兵士達も使えるらしい。


その後も火を消そうと頑張るミラージュの兵士達を眺めていた。


「くっそぉ!全然消える気配が無いぞ!どうなってんだよ!!」


しばらく頑張っていたが、上官の魔力が尽きたのか呆然とした様子で自分達の荷が燃えているのをただ眺めていた。


そして……


「……お、俺達の飯が……全部炭に……」


「こんなのどうやって報告すりゃあいいんだよ……」


絶望に打ちひしがれているミラージュの兵士達。


「何故燃えたかについては後だ!!今すぐに撤退する!!」


先ほどまで呆然としていた上官らしき人物はそう言うと、慌ただしく撤退準備にかかった。


さすが上官。


切り替えが早いな。


「しかし……このままでは……」


「言うな。理由など、どうにでもなる。

「わかりました。」


「準備急げ!!」


兵士達はライトの魔法を展開し周囲を明るくすると、慌ただしく撤退準備が完了。


そして……


「全員急ぎ出発だ!」


その言葉と同時に兵士全員が暗い森の中、何処かへと歩いて消えるのだった。


『ふぅ……何とかなったみたいだな。』


ミラージュの兵士全員が消えた事を確認すると、ラグナはゆっくりと眠りに付くのだった。


翌朝。


『あれから周囲に誰か来た?』


『誰も来てないよ。燃えた荷物もそのまま。』


ラグナはハンモックの上から周囲に人が居ないか確認すると、ゆっくりと降りる。


『魔道書、周囲の警戒ありがとうね。』


『うん。それよりも何か食べたい。』


ラグナは収納から出来立ての料理を取り出すと魔道書の前へ。


そしてラグナ自身も簡単に食事を済ますと、ガッデスへと出発するのだった。


アルテリオンを出発して6日目。


あれ以来ミラージュの兵士達と出会う事は無かったが……


たき火をしていたであろう痕跡は何ヶ所か発見していた。


「あの山がそうかな?」


ガッデスは山をくり抜いて作られた国だと聞いていたので少し楽しみだった。


山を目指して歩いていると、やがて大きな門が見えてきた。


「あそこがガッデスの入り口かな。」


門に近寄ると背が低いガッシリとした体型の兵士らしき姿が見えるが……


様子がおかしい。


フラフラと揺れていた。


槍を杖代わりにしてなんとか立っているような雰囲気。


今にも倒れそうだった。


慌てて駆け寄るラグナ。


『もしかして、既にミラージュの作戦は始まっていたのか!?』


街道を封鎖し食糧難に陥らせるという作戦を。


慌てて駆け寄るラグナの姿を見て警戒し、槍を構えようとした兵士だったが……


そのまま倒れてしまう。


「大丈夫ですか!?」


倒れた兵士を必死に介抱するラグナ。


「…………さ……」


何かをラグナに伝えようとしている。


ラグナは兵士の声が聞こえるように耳を近付けると


「…………さ……」


「さ?さの次は!?」


「…………け……」



「け?……さ・け……?」


ラグナがその二文字を繋げて声を出すとコクンと頷く兵士。


「さ……け……って酒かよ!?」


思わず介抱している兵士を地面に叩きつけそうになる。


ラグナは収納から預かっていた酒を取り出す。


するとその取り出した存在に気が付いた兵士の目がくわっと見開く。


そして一瞬にしてラグナの手から奪い取ると、封を開けゴクゴクと飲み始めた。


そして……


「酒じゃぁぁぁぁぁぁ!!」


その小さい身体から発せられたとは思えぬほど、怒号のような叫びにラグナはビクッと驚いてしまう。


すると突然大きな門がゆっくりと開いていく。


「ヒィィ!?」


突然開いた門の先にある風景にラグナは悲鳴を上げてしまい、腰が抜けたように地面へと座り込んでしまう。


それも仕方ないだろう。


「……さけぇ……」


「酒じゃぁ……」


「酒の匂いじゃぁ……」


「ワシらの命の水の匂いじゃぁ……」



目の前にはまるでゾンビの様に酒、酒、酒と呟きフラフラになりながらも必死に何かを杖代わりにして向かって来る者や、地面へと倒れ込むものの這いつくばりながらこっちへ向かって来る者まで。


まさに某ゾンビ映画のワンシーンの様な光景にラグナは恐怖し、腰が抜けてしまうのだった。


「さけぇ……」


「酒をくれぇ……」


ラグナは必死に収納からドンドン酒の瓶やら樽やらを取り出すと、更に恐怖に襲われる。


「さけ……酒じゃぁ……酒があるぞぉぉーー!!」


先ほどまでフラフラだったゾンビ状態のドワーフ達が、全速力で走りながらこちらへと向かって来るのだから。


「いぃぃぃぃやぁぁぁぁ!!!!」


あまりの恐ろしさにラグナは叫び声をあげてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る