第283話
「……という事です。」
ルテリオ様からの衝撃的な話を聞いてしまったラグナは複雑な心境だった。
魔王を倒してハッピーエンドとはならなかった、勇者ヒノ……
彼はその後、どう生きたのだろうか……
知りたいような、知りたくないような……
そんなモヤモヤした気持ちのまま、僕は眠りについた。
翌日、王城やその周囲にある倉庫にシーカリオンからの支援物資を手渡した。
穀物や魔道具でカチコチに凍らせてある肉。
それに俺がスキルで作り出した、大量の備長炭なども。
炭については想像以上に喜ばれた。
これで周囲の木を伐採せずに済むと。
確かにアルテリオンの周囲は切り株だらけになっていたから。
「少ないですが、これをお持ち下さい。」
と感謝とお詫びにと手渡されたのが、大量のキノコ。
あとは精霊樹の小枝とガッデスへと手渡して欲しいと渡された支援物資。
ルテリオ様とは既に別れを済ませてある。
今頃、彼女は俺から得た魔力を使って精霊樹に祈りを捧げている頃だろう。
「それでは、また来ます。」
「この度は本申し訳無かった。ガッデスについてもよろしく頼む。旅の安全を祈っている。」
エルフの王や関係者に見送られ、ラグナはガッデスへと向かう。
アルテリオンを出国し、すぐに周囲の景色が変化した。
「これは凄いな。」
後ろを振り向くとアルテリオンの姿はどこにも無く、森が広がっていた。
精霊樹の力によってアルテリオンの姿が見えないようになっているらしい。
シーカリオンからの輸送隊については常に周囲を監視しているので大丈夫とのことだった。
ラグナは正体を隠す為に顔を布で覆い、目だけを出して移動する事にした。
この先、ガッデスへと向かう道にはミラージュから送られた兵士達が潜んでいる可能性があると言われたからだ。
そのため魔道具を使用しての高速移動も控えることにした。
あの魔道具は騒音が凄まじいから、万が一ミラージュの兵が近くにいた場合すぐにバレてしまう。
その場で逃げ切るのは簡単だと思うけど、ガッデスから再びシーカリオンへと向かう際に警戒されてしまっては面倒な事になる。
シーカリオンを出発して数時間。
徐々に日が落ちてきた。
本当ならば、火を使って料理したい所だけど……
ミラージュからの兵がいると困るので収納してある料理を取り出して食べると、魔道書に頼みハンモックへと姿を変えてもらい木の上の方で結びゴロンと寝っ転がる。
そしてカモフラージュローブを羽織り就寝。
「それじゃあ、頼んだよ。」
『わかった。』
俺が寝ている間はキャンプスキルの魔道書が俺の代わりに周囲を警戒してくれるので本当に助かった。
そんな移動生活をする事3日目の夜。
ユサユサ。
ユサユサ。
ん?
『ラグナ、近くに誰かきたかも。いっぱい音がする。』
キャンプスキルの魔道書が異変を知らせてくれた。
確かにガシャガシャという音が聞こえる。
なるべく音を出さないようにカモフラージュローブの隙間から周囲を覗くと……
「今日はここらで休むぞ!」
「あ~、疲れたぁぁ。」
総勢20人ほどの人間達がラグナが休む木の近くに集まってきていた。
「まだ休むな!まずは枝拾いだ。後は調理当番は食事の支度を。」
「へ~い。」
「了解しました!」
『やべぇ……まさかハンモックを仕掛けた真下で休憩されるとか思ってもいなかったわ。』
完全に身動きが取れなくなったラグナは、ただ周囲を観察するしか無かった。
『あれはミラージュの兵士って事かな。』
全員が同じ鎧を装着している。
それに鎧に刻まれた紋章はミラージュの国を示す羽の紋章。
何でミラージュは天使の羽の紋章なんだろうと思っていたけど、ルテリオ様からの話を聞いて納得。
枝拾いが終わったのか、たき火を始めたのだった。
俺はその様子を眺めながら、ため息をつく。
朝までここから動けないんだけど……
真下にミラージュの兵士がいる状況下では安心して寝るに寝れないし……
しばらくして料理が完成したのか、食事をする音が聞いてきた。
「また、味のしないスープかよ。パンも固いし。」
「仕方ないだろう、遠征なんだから。」
「つべこべ言うな。大天使様の恵みに感謝を。」
「「感謝を。」」
ラグナはその光景を見て勇者ヒノの事を思い出していた。
『何が大天使様だ。勇者ヒノを苦しめた存在の癖に。』
そう思いつつも、今ここで何か行動を起こすわけにもいかない。
『とりあえず、明日までは様子見かな。』
ゆっくりと寝れるような状態じゃないのでボーッとしながら兵士達の会話を聞いていた。
「おい、知ってるか?」
「何をだよ。」
「ガッデスとアルテリオンに対して街道を完全に封鎖して、兵糧攻めを計画してるらしいぞ。」
「まじか。それじゃあ俺達は国でのんびりする暇も無いって事かよ……」
「食糧難になっちまえば簡単に落とせるだろう。もうちょっとの辛抱だ。」
「早く戦争なんて終わらせたいぜ。」
「全くだ。エルフとドワーフの奴隷が手に入らねぇかな。」
「相変わらず、お前は物好きだなぁ。あんなんのどこがいいんだよ。」
「どこって……えへへ。壊しても罰せられないからな。」
ゲラゲラと下品な笑い声が周囲に響く。
『うっわ……最悪。やっぱりこいつらはクズだ。』
あまりの嫌悪感にイライラが募る。
ラグナは嫌がらせをする事を決意。
食料と思わしき荷が置かれている場所が現在いる場所から数メートル先に乱雑に置かれている。
そっと手を出すと液体状の着火材を荷物に向けて一気に発射する。
「ん?なんか今音がしなかったか?」
「気のせいだろ。動物じゃないか?」
着火材のジェルが荷物に掛かった際の音に寝ずの番をしていた兵士が反応してしまった。
ドキドキしながらラグナは様子を見る。
兵士達は再び話し始めたので、着火材を撒いた荷物に対して極小のファイアーボールを発射。
「か、火事だぁぁぁ!!」
荷物にファイアーボールが命中すると一気に燃え広がるのだった。
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