第282話

「彼女のおかげでヒノは立ち直る事が出来たの。」


立ち直ったヒノはそれまで国を支え続けてくれた官僚、エチゴヤ商会、そして国民の前に姿を表すと、今まで国を支えてくれたことに関する感謝と、荒れてしまった事、心配を掛けてしまった事を国民の目の前で頭を下げて謝罪。


改めて共に国を支えて欲しいと国民全員に頼んだ。


その言葉に市民や官僚、そしてエチゴヤ商会の人達は大喜び。


やっと勇者が帰ってきてくれたと。


みんなが喜ぶ姿を見ながら勇者は更に驚くべき事を発表する。


それは、国民が見守る中行われた公開プロポーズだった。


「俺はとある女性が自らの命を賭けて行動してくれたおかげで立ち直る事が出来た。恥ずかしい話だが、彼女が勇気を持って行動してくれなければ未だに俺は苦しんでいたと思う。そんな彼女の勇気ある行動に俺は惚れてしまったんだ。」


突然の公開告白に市民達は驚きの声を上げる。



サナリィはメイドの同僚達に背中を押され、勇者であるヒノの前へと姿を現わした。


突然の事に混乱しているサナリィに対して勇者は片膝を付くとポケットから指輪が入ったケースを取り出す。


「サナリィ、俺と結婚して欲しい。情けない俺かもしれないが君と共に歩んで行きたいんだ。」


プロポーズをされるなど思ってもいなかったサナリィは……


「わ、私はただの村人ですよ?」


と答えてしまう。


それに対してヒノは


「俺なんてこの世界の人間ですら無いんだぞ?それでも一緒に居てくれるか?」


とサナリィの手を取を取る。


サナリィは涙を流しながら


「はい。喜んでお受け致します。」


こうして二人は国民に見守られる中、夫婦になった。


国民達はそんな2人の姿に大歓声を上げた。


そんな祝福ムードの中、驚くべき事が起きた。


『勇者ヒノ、そしてサナリィよ、おめでとうございます。』


何処からともなく女性の声が聞こえてきたのだ。


勇者はすぐに声の主に気が付く。


「マリオン様が何故……」


驚く勇者をよそにマリオンは驚くべき事を発表する。


それは聖女アージュによる策略の暴露。


勇者ヒノへの薬物の使用。


そして禁術でもある魅了の魔法を用いてヒノを操った事。


魔法によってヒノは聖女アージュを女神サイオンと認識させられてしまい愛してしまった事。


魅了魔法によってヒノはその件の記憶を消されてしまっている事を。


先ほどまで2人を祝福していた国民もまさかの事態に驚き、言葉を失う。


「で、では……アイツの子供は本当に俺の……」


ヒノがそう呟くと


「えぇ、残念ながらあなたとの間に出来た子供となります。」


何故今このタイミングでマリオン様はヒノに真実を伝えたのか。


ヒノは市民達の前から姿を消し、王城の中へと戻る。


『……これまで連絡を取れなかった件に関しては謝罪いたします。』


そしてここからの話はヒノだけにと、マリオンは声を届ける。


『女神サイオンはアナタとの間に出来た子供を神界にて無事出産しました。しかし、サイオンはアージュの策略によりアナタが関係を持ってしまった事実を受け止めきれずに……負の感情に飲み込まれ、闇落ちしてしまいました。その結果、暴走してしまい神界で暴れまわり……現在、創造神様の手により封印されております。』


「嘘だろう……」


やっと立ち直る事が出来たヒノに対して

残酷な事実を伝える。


『祝福ムードの中、このタイミングでの報告でごめんなさい。でも、どうしてもこのタイミングしか無くて……』


「……サイオンと俺の子供は。」


『その件については話をする事が出来ません……本当に申し訳ありません。そしてこれを持ってあなたと会話をするのも最後となります。現在、地上の方との連絡を取るのを禁止されているのです。きっと私もこれを持って処罰される事でしょう……』


「そんな……」


あまりにも突然の申し出にヒノは動揺する。



『勇者ヒノよ、地上を救って頂き本当にありがとうございます。神界を代表してお礼申し上げます。』


「待って!待ってくれ!!」


『待てないねぇ。ルールを破ったんだ。マリオン、わかっているね?』


勇者ヒノの声を遮るように、知らぬ声が介入してきた。


「誰だ!!」


『ん?誰だっていいだろぅ?それじゃあ行くよ。』


『はい……勇者ヒノよ、さようなら。』


「ま、待ってくれ!!頼む!!!」


ヒノの必死の叫びも虚しく、それ以来声が届く事は一度として無かったのだった。



……


あまりにも衝撃的な内容にラグナは絶句する。


そして確かめなければいけないことが出来た。


サリオラ……


確か彼女は女神サイオンの娘。


つまり……


勇者ヒノとサイオンの間に出来た子供というのは……



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