第280話

宴の後、客室へと案内され一泊。


何故かルテリオ様も一緒に部屋に入ってきた。


「どうしたんですか?」


ちょっとドキドキする。


「2人っきりで話がしたくて。」


ルテリオ様にそう言われると更にドキドキしてきてしまった。


「リオは元気だった?」


ドキドキしていた自分が恥ずかしくなる。


頑張って冷静を装いながら


「元気ですよ。むしろ元気過ぎて振り回されてます。」


「そっか、それは良かった。」


ルテリオ様が少し悲しい顔をする。


「あの当時を知るのは私達2人だけ。結局ヒノが危惧していた通りになってしまったわ……」


人族至上主義の考えが広まり異種族を排除に向けて行動するってやつか。


「ミラージュが宗教国家だというのは知っているんですけど、あの国は何を信仰しているんですか?」


ミラージュが宗教国家だという事以外何も知らない。


「……あの国が崇めているのは大天使アージュ。」


ルテリオ様の表情が苦々しいものに変わる。


「大天使アージュ?そんな方いるのですか?」


この世界には天使って存在がリアルにいたって事だろうか。


「大天使アージュの正体。それは、聖女アージュの事です。」


ルテリオ様がアージュについて詳しく教えてくれた。


聖女アージュは魔王討伐後、自らを信仰する民を集めて国作りを行ったらしい。


しかしアージュはどうしても欲しい物があった。


それを手に入れる為に行動を開始する。


とある禁術の会得。


そして非合法な材料を元に完成した薬物。


2つの武器を手に獲物へと狙いを定めた。


彼女が狙っていた物。


それは勇者。


ミラージュが無事に建国出来たので一度演説にきて欲しいと勇者を誘う。


その頃、極秘ではあったが女神サイオンは勇者ヒノの子供を身ごもっておりその件について相談の為に神界へと帰っていた。


その為、普段よりも勇者ヒノの隙を突くことなど簡単だった。


ミラージュでの演説後の宴にてアージュがそれとなくヒノを誘うが勇者ヒノはきっぱりと突き放していた。



しかし既にアージュの作戦は始まっていたのだった。


「残念ですわ。それじゃあせめて乾杯でもしましょう?」


「……それくらいならば。」


「ありがとうございますわ。ねぇ、私達にも貰えるかしら?」


アージュが側で飲み物を配っていた人物に声を掛けると2人分の飲み物を手渡してきた。


疑うことなく手に取る勇者ヒノ。


「2人のこれからに乾杯。」


「……世界の平和に乾杯。」


ちょうど一気飲みで飲めそうな分しか注がれていなかった飲み物だったので、勇者ヒノは一気飲みでソレを飲み干してしまった。


その様子をみてニヤリと笑うアージュ。


しばらくして勇者ヒノはぼんやりとしてきているように感じた。


『飲みすぎたか?何時もより飲む量は少ない気がするが……』


すでにその時には薬物の影響が出ていた。


その薬物は使用した本人が違和感をあまり感じないように徐々に身体を蝕んでいく。


その効能は思考の低下。


「少し酔ってしまったらしい。先に休ませてもらう。」


勇者ヒノは護衛を引き連れて用意された部屋へと戻るのだった。


そしてしばらくして勇者ヒノの休む部屋に近寄る人物が。


「何者だ!」


勇者ヒノが休む部屋の扉の前で護衛していた2人の前に姿を現わしたのは


「聖女アージュ……」


絶対に部屋に近寄らせるなと厳命されていた人物がやってきてしまった。


「勇者ヒノはこちらに?」


聖女アージュと目が合う2人。


「勇者ヒノ様は現在この部屋にてお休みになられております。」


「そう。部屋に入れて貰えるかしら?」


「どうぞ。」


あれだけ厳命されていたにも関わらず、すんなりと部屋に入れてしまう護衛達。



「勇者様……」


アージュはすーすーと寝息をたてて寝ている勇者の唇に自身の唇を重ねる。


「んぐ!?」


いきなり口の中に何かが侵入してくる感触に驚き目を開ける勇者。


「何故、アージュがここに!?」


薬の影響で思考が低下しているとはいえ、寝ている部屋にアージュが侵入してきた事くらいは把握していた。


しかし……


「何を言ってるの?私はサイオンよ?」


勇者と見つめ合うアージュ。


「……あぁ、サイオンだったか。ごめんよ。どうしたの?」


勇者は何故かアージュをサイオンとして認識してしまった。


そして再び口づけをする2人。


そのままの流れで激しく愛し合うのだった……


愛し合った後、再び見つめ合う2人。


「勇者様、ありがとうございますわ。あなたはこの件を夢だと思いながら朝起きるのです。わかりましたか?」


コクンと頷く勇者。


「それではおやすみなさい。」


アージュの言葉により勇者は眠くなり意識を失う。


そして翌朝目覚めて愕然とする事になるだろう。


聖女アージュは勇者ヒノが眠るベットから離れ、部屋を退出する。


部屋を護衛する2人に対して


「あなた達は何も見ていない。ずっと護衛をしていた。わかりましたか?」


護衛の2人は頷くとアージュの存在を認識しなくなり、任務を全うしていた。


アージュはその顔は満面の笑みを浮かべてその場を立ち去るのだった。


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