第279話

「彼にあの件について話をしてもいいだろうか?」


ミーシャさんそっくりなメイドはコクリと頷く。


そしてアリッサム王から語られた真実。


メイドである彼女の名前はメリルリ。


エルフにとっては珍しいのだが、彼女には双子の妹がいた。


当時はまだミラージュとの戦争が始まる前。


ミラージュとの戦争が噂されていた頃に事件があった。


それが採取や狩猟へと赴いたエルフ達の謎の失踪事件。


目の前にいる彼女の双子の妹もその時に行方不明に。


そして失踪した仲間を捜しに出掛けた住人もそのまま行方不明になっていた。


「最初は魔物が現れたのかも知れないと疑っていたのだ。」


アルテリオンの周囲から魔物が姿を消して数百年。


その魔物が数百年ぶりに現れて、エルフ達を襲ったのではないかと。


兵士達を集め周囲の探索をしたが、血痕などの痕跡は一つも見つからなかった。



魔物に襲われたのであれば血痕の一つでも残ってるはず。


「ではどこに消えたのだと探索を続けていると、エルフの死体が発見されたのだ。」


それは行方不明になった友人を探しに出かけたまま同じく行方不明になった女エルフの変わり果てた姿だった。


衣服は何も身に付けていなく、遺体の近くに切り裂かれていた。


顔や身体には痛々しいほどの痣。


心臓に突き刺さったままのナイフ。


そして……


明らかに乱暴されたであろう形跡が嫌でも目に入っていた。


「クソがっ!!」


あまりにも惨い仕打ちに犯人に対しての怒りがこみ上げてきていたが、被害にあったエルフをこのままにしておくわけにはいかない。


何人かの上着を使い、亡くなったエルフを包み埋葬のために運ぶことにした。


警戒の為に周囲を探索していたエルフが、縄で結ばれて無理やり歩かされている同胞とそれを引っ張る人族達を発見。


エルフ達は人族達を強襲し仲間を奪回したのだった。


「その時に捕縛した人族からの証言によってミラージュが国ぐるみでエルフを拉致していた事実が判明したのだ。ガッデスにも問い合わせた所、ドワーフにも同様に行方不明になっている同胞が何人もいるとの事だった。」


ミラージュに対して捕縛した人族からの証言を突き付け同胞を帰すように2国揃って使者を出した所、返事として返ってきたのは使者の遺体だった。


それがキッカケで戦争へと突入したのだった。


「彼女の妹はそれ以来行方不明のままなのだ。ラグナ様の知り合いのエルフはその時に拉致されたエルフの可能性もある。」


アリッサムがラグナへそう伝えるが、ラグナは首を振る。


「僕の知り合いのミーシャさんはメリルリさんの妹ではありません。」


ラグナはそう断言する。



「何故そう思ったのだ。」


ラグナがキッパリと否定した事に驚く王と周囲のエルフ達。


「だってミーシャさんは自分の事をハーフエルフだと言っていましたから。」


ラグナがそう発言すると周囲が静まり返る。


「そうか……」


王の両手からはポタポタと血が流れ落ちている。


王はグッと拳を握りしめていた。


周囲のエルフ達も悔しそうにしている。


メリルリさんが悔しがる王の方を向くと


「発言をお許し下さい。」


と王に声を掛けた。


アリッサム王が頷くとメリルリはラグナへと質問するのだった。


「使徒様、ミーシャという方の年齢は分かりますでしょうか?」


ミーシャさんの年齢……


「確か初めて出会った頃に45歳と言っていたので記憶が間違っていなければ47歳だと思います。」


メリルリさんは深いため息をつくと涙を堪えながら


「ミーシャという方は私の妹の子供である可能性が高いと思います。行方不明になった時点では、私達姉妹はまだ子供でした。妊娠する事などありません。ミーシャさんの年齢から逆算するとちょうど子を持てる年齢を迎えた頃と一致します。」


「そうか……ラグナ様、ミーシャと言うハーフエルフについてもう少し話を聞いてもいいだろうか?」


ラグナはミーシャについて知っていることを話すが……


彼女と共にいたのは1年。


1年で訳あって学園を去ったのでその後はどうなったかわからないと伝えた。


「そうですか……話をしていただき本当にありがとうございます。」


そういうとメリルリさんは涙を零しながら部屋から退出する。


王は目を瞑りながらラグナの話を聞いていた。


そして側近へと耳打ちすると、王と王妃を残して他のエルフ達は部屋から退出するのだった。


「えっと……?」


急に王と王妃、それに精霊神ルテリオだけを残して退出していったエルフ達の行動に困惑するラグナ。


「実は我々王家だけは、ラグナ様が処刑されたはずの使徒様だと言うことを知っているのだ。」


マリオン様は精霊神ルテリオに対して王家にのみこの事実を伝えても構わないと許可していたとか。


ラグナがエルフの国で不当な扱いを受けないようにと。


しかし反人族派閥の企てによりラグナが到着したという事が隠蔽され、王家が事態を把握するのに遅れが生じた結果、今回の事件へと発展してしまったとの事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る