第278話
ラグナが部屋に入ってきたメイドに対してミーシャと名前を呼んだが……
「えっと……」
困惑している様子をみて、人違いだった事に気が付く。
「ごめんなさい。人違いでした。知り合いの方に本当に似ていましたので。」
ちょっと困った表情も本当にミーシャさんそっくりだった。
「そうでしたか……それではご用意が出来ましたのでご案内いたします。」
そう言って歩き出したメイドさんの後に着いていくラグナ達。
精霊神ルテリオは再びラグナの肩へと座る。
精霊達はラグナの魔力を大量に食べた結果、お腹がパンパンに膨れており、動けないのでそのまま部屋でゴロンとしているようだ。
しばらく歩いていくと、大きな両開きの豪華な扉が見えてきた。
ラグナの事を案内していたメイドがその扉の前に立つと、 ギィィー と音を立ててゆっくりと開く。
中に入るとそこには巨大なテーブルとイスが並べられていた。
そして部屋の奥にはエルフの王であるアリッサムが席に座っていた。
そして横には王妃と思われる女性が。
「お待たせして申し訳ありません。本来ならばもっと大規模な宴をという所なのですが……戦時中であること、そして先ほどの愚か者達の処分によりゴタゴタしておりまして……」
「い、いえ、お気になさらず。本来ならば食料を受け渡したらすぐにでもガッデスへと向かう予定でしたので……」
ラグナがそう言うと、
「そうですか……ありがとうございます。そして改めてエルフを代表し謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした。」
とエルフの王アリッサムと王妃が席を立ち上がると謝罪するのだった。
「もうわかりましたから!!顔を上げてください!!」
ラグナが慌てて止める。
流石に王という立場の方に何度も謝罪されるとラグナのメンタルが持たない。
それに改めてこの様な歓迎をほとんど受けたことが無いラグナは緊張し始めるのだった。
「アリッサム。今回の件、元エルフ族である私も正直落胆いたしました。元エルフという事もあり精霊神となり数百年。永き時に渡り元同胞であるエルフを見守って来ましたが、まさか私の苦労を無碍にする輩がこんなにもいるとは思いませんでした。」
精霊神ルテリオは呆れた顔をして、ため息を吐く仕草をする。
「長きに渡る戦争によって憎しみが募るのは理解しています。戦争相手であるミラージュを憎しむのならば否定しません。しかし……全く無関係であり、わが国や同盟国の支援を決めたシーカリオンに対しても人族だからと憎み争っていてはエルフやドワーフの未来は無いと何故わからないのですか!」
精霊神のあまりの怒りに部屋の空気が震えているようであった。
反人族派閥を押さえきれず、暴走を止めることが出来なかった王や王妃、そしてこの場にいる立場あるエルフ達を精霊神であるルテリオは許す事が出来なかったのだ。
「精霊神様のお怒りはもっともです。我々が至らぬばかりに……」
「ルテリオ様。申し訳ございません。」
王達が再び頭を下げる。
「はぁ……次が無いことを本当に祈っています。次は無いですよ?」
精霊神ルテリオの言葉は重く、その場の全員を黙らせるには十分なものであった。
「さて、まずは食事にしましょう。せっかく用意してくれた料理が冷めてしまいますからね。」
精霊神であるルテリオがパンパンと手を叩くと重苦しい空気のまま宴が開始したのだった。
「美味しいですね!」
出された食事を一口食べて、思わず感嘆の声を上げるラグナ。
「お口に合ったようで何よりです。」
と微笑むのは精霊神ルテリオだ。
出された食事は野菜や木の実のような物が使われたサラダやキノコのステーキ。
野菜やキノコの出汁がよく出てるスープ。
それにパンも柔らかい。
お肉などはほとんど使われていないけど……
『現状ではそう簡単に狩猟とかも行けないだろうし……それに……』
この国の周囲の木々はかなりの広範囲で切り倒されており、切り株だらけになっていた。
そんな状況では動物達も食料の確保なんて出来ないから、余計に肉は貴重品になっているんだろう。
ラグナはそんな事を考えながら目の前に置かれた料理を食べ続けるのだった。
「ふぅ~。ごちそうさまでした。」
用意された食事を全て平らげ満足するラグナ。
ルテリオ様は食事を最初から辞退しており、ラグナが再び練った魔力をちゅうちゅうと吸っていた。
ルテリオ様のその食事風景に驚いていたエルフ達。
ヒソヒソとエルフのお偉いさん達が話をしている声が聞こえた。
「なんて魔力量だ……」
「あれだけくっきりと練られた魔力を子供が出せるなんて……」
「本当に人族なのか……?」
再び人族なのか疑う発言だよ。
「ゴホン。」
王が咳払いをすると再びシーンと静かになる。
「食事は楽しめて頂けましたかな?」
「はい!野菜や木の実、それにキノコの味が今まで食べてきた物よりもかなりしっかりと味がして美味しかったです。特にキノコは個人的に欲しいくらいです。」
ラグナが本当に喜んだ様子にホッとする王とお供達。
「それならば良かった。ところで、ラグナ様はうちのメイドと似たような人物を知っていると聞いたのだが……」
ミーシャさんと勘違いしたメイドさんの事か。
「はい。本当にそっくりで驚きました。」
「そうか……彼女を呼んでくれ。」
アリッサム王がメイドをこの場へと呼ぶのだった。
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