第277話
王宮の中に入り、客間へと通される。
「宴の準備が終わるまでこちらの部屋にて少々お待ち下さい。」
「わかりました。」
エルフのメイドさんに案内されて部屋へと案内されたのはいいのだが……
「えっと……」
精霊神ルテリオ様は俺の肩に乗ったまま。
残りの精霊達も頭の上やら反対側の肩やら背中にへばりついたりと好き放題。
「ねぇ、人間モドキ~。ちょっと魔力ちょーだい?」
人間モドキと言われて顔がヒキツるラグナ。
「こら、ダメでしょう!ちゃんと名前で呼びなさい!」
ルテリオ様が精霊達に注意するのだが……
『魔力を欲しがるのは注意しないのか。』
と内心思ってしまった。
「これでどうかな?」
魔力を手のひらの上に練ると精霊達が近寄ってきた。
そしておねだりしてきた精霊が魔力に触れると……
口をつけて魔力を吸った。
「何これ!?ラグナの魔力凄い!ねっとり甘くて、まるでお花の蜜を舐めてるみたい!もっとちょーだい!!」
「甘いの!?僕も欲しい!」
「私にもちょーだい!!」
ラグナの魔力を吸った精霊が絶賛した後、様子を見ていた残りの精霊達もラグナに群がる。
「わ、わかったから。」
目の前に精霊達が群がってきたので慌ててかなりの魔力を練って浮かべる。
「それじゃあ私も一口。」
精霊達がはしゃぎながらラグナの魔力を吸っていると、いつの間にかルテリオもちゃっかりとラグナの魔力に口を付けていた。
「これほど濃厚な魔力は精霊になってから初めて。この子達が騒ぐのも無理ないわ。本当に美味しいもの。」
精霊達がラグナの魔力を吸いながらキャッキャしていると、
キャンプスキルの魔道書がラグナの体内から急に飛び出してきた。
魔道書がばっさばっさっと音を立てて、まるで羽ばたいているような雰囲気。
そして威嚇しているようにも見えた。
「ぬ!?急に出てきたと思ったら邪魔だよ。そこどいて!魔力食べれないじゃん!」
「そーだ、そーだ!」
「早く魔力ちょうだい!!」
「はい、そこまで!!」
ルテリオ様がそう言うと、え~と言いながらも精霊達は素直にラグナの魔力から離れていった。
「ごめんなさいね。別にあなたのご主人様を奪おうとした訳じゃないの。許してくれるかしら?」
魔道書がクネクネと動きながら悩んでいる様子。
『俺は一体何を見せられているんだろうか。』
ラグナは精霊神と魔道書のやり取りを見ながらそんな風に思っていた。
しばらく魔道書が悩んだ後、
『許してあげる。』
とルテリオに伝えていた。
『伝えていた……??』
「ちょっ!?」
魔道書が話せることは内緒だと先日注意されたばかり。
「話し掛けたらダメでしょ!!」
ラグナが慌てて魔道書に注意すると、
『大丈夫。人じゃないから。それにこの方は神様。周りにいるちっこいのはその神様の眷属だから大丈夫。』
「言われてみれば確かに人では無いけど……」
ラグナがそう言いながらルテリオを見ると、ルテリオは両手を組み祈り始める。
そして、ものの数十秒でルテリオの周囲がぴかーっと微かに発光し、ルテリオが放出した神聖な気をラグナは感じ取る事が出来た。
神聖な気にラグナは思わず祈ってしまいそうになる。
「それにしても、まさか精霊が人の魔力を食べるなんて知りませんでした。」
「普通は食べませんよ?普通の人間やエルフの魔力を精霊が食べたら、あっという間に魔力欠乏症になってしまいますから。普段は他の生物と同じ様に食事をして、ごく偶に精霊樹が精霊達の為に体内の魔力で作った蜜を分け与えていたくらいですもの。」
普通は人の魔力を食べないと言われ何とも言えぬ表情になるラグナ。
そして精霊達がちょくちょく言っていたセリフが頭に浮かぶ。
「そう言えば精霊達が僕に対してまるで人間じゃないような事を何度も言っていたんですけど……僕は自分の事を人間だと思っていたのですが、違うのですか?」
ラグナが深刻そうな表情でルテリオに相談すると、ルテリオは目から涙を流すほど大笑いしていた。
「あははは!!精霊達が言った事ですね。それはあなたの身に纏う魔力量が桁外れに多いから精霊達は疑っただけですよ。」
ルテリオからそう伝えられ安堵する。
「あなたは間違いなく人間。安心して大丈夫ですよ。それに、私には貴方以上の魔力を持った人族の知り合いも居ましたから。」
「僕以上の魔力の持ち主ですか?」
魔力量だけは自信があったラグナだったが、それ以上の魔力を持った知り合いがいると言われて驚く。
『魔力量だけは自信があったんだけどなぁ。』
上には上がいるとションボリしていると
「そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。貴方以上の魔力の持ち主、それは勇者ですもの。」
「勇者かぁぁぁ。」
安堵してソファーへと座り込むラグナ。
確かに勇者にならば負けて当然。
向こうは勇者として転移。
俺は謝罪の意味で転生だからな。
この世界に来た役割が違う。
安堵しながらルテリオと話をしていると
コンコン
ドアがノックされた。
慌てて俺の身体に戻る魔道書。
「どうぞ~。」
ガチャリと扉が開いて室内に入ってきたのはメイドさんだった。
「準備が整いました。案内いたします。」
そのメイドさんの顔を見てラグナは驚愕するのだった。
「な、なんで……なんでこんな所にミーシャさんが……」
まさかこんな所で再会出来るなんて……
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