第276話

反人族派閥のエルフ達が俺のことを苦々しい表情で見つめていた。


いくら国が違うとはいえ、人族であることには変わりない。


しかし、その人族に手を差し伸べて貰わなければその先に待っているのは滅び。


だが、同じ人族であるミラージュから受けた仕打ちを許すことなど出来ない。


反人族派閥のエルフ達はその現実に葛藤していた。


「もうよい。反人族派閥のメンバーに関しては調べがついている。今日の所は謹慎処分とする!事態が落ち着き次第、改めて処分を下す!」


そう言い放つと王宮から兵士達がぞろぞろと現れた。


「王よ!我ら同胞であるエルフに対してこの様な仕打ちをするのですか!」


「横暴だ!」


「意見する事すら許されないのか!」


王と呼ばれたエルフはその様子に首を振りながらため息を吐くと、兵士達に捕縛するように命令。


多少の抵抗はあったものの、反人族派閥のエルフ達はあっという間に捕縛されどこかへと連行されていくのだった。


そして王と呼ばれていたエルフがラグナの元へとやってくる。


「この度の無礼な振る舞い、誠に申し訳ございませんでした。女神マリオン様の使者様。」


王が謝罪すると同時に深々と頭を下げるエルフ達。


「今回の事件を引き起こしたメンバーに関しては後ほど厳しい処分を下します。」


さすがに全てを無かった事には出来ない。


「わかりました。女神マリオン様を罵倒した件に関しては許されることでは無いのでよろしくお願いします。」


俺を罵倒するのはまだ構わない。


しかし、女神であるマリオン様を罵倒するのは如何なものかという気持ちが大きい。


確かにどこか抜けていて、やらかしてばっかりな駄女神かも知れないけど。


精霊神ルテリオが助けを求めた際に、それに答えるためにわざわざ俺とリオさんに協力して欲しいと女神自らが強制ではなくお願いという形でわざわざ声をかけてきた。


本来ならば神託として俺達に命令すればいいだけなのだから。


「この件に関しては後日決まり次第報告致します。身内だからと甘い処分には決してするつもりはありません。」


そして精霊神ルテリオの方を向くエルフ。


「我らエルフを救うために動いて下さったというのに、この様な事態を引き起こしてしまい申し訳ありません。」


精霊神ルテリオに対しても同様に謝罪するエルフの王様。


「以前より反人族派閥が存在している事に関しては承知していました。手を打っていない訳ではないのですが、ここ最近急速に勢力を伸ばしています。しかし、まさかこの様な愚かな事を引き起こすとは思ってもいませんでした……」


精霊神ルテリオもその意見には同意だった。


「人族に対して恨みを持つなとは言えません。戦争中なのですから。でも、同じ人族だからとシーカリオンと争う姿勢まで見せるとは……何故彼らはあそこまで強気なのでしょうか?」


「……わかりません。まさか我らが神であるルテリオ様に対してもあの様な態度を取るとは。」


精霊神ルテリオ……


どっかで聞いたことがある名前なんだよなぁ……


ラグナは2人の会話を聞きながら、ずっと頭の中で引っかかっていた。


「どうしたの~?」


「何か気になるの~?」


小さな精霊達は精霊神ルテリオの近くで大人しくしているのに飽きたのか、ラグナの目の前に飛んできたのだった。


「精霊神ルテリオ様の名前ってどっかで聞いたことがあるんだけど、それが思い出せなくて。」


「ルテリオ~?」


「ルテリオの事が知りたいの~?」


「ルテリオはねぇ~。」


「「元エルフだよ~!!」」


元エルフ……!?


ルテリオって名前。


つまり……


「精霊魔法師のルテリオ!!」


やっと思い出せたとラグナは喜んでいたが、


「あっ……ごめんなさい。」


エルフの王様と精霊神ルテリオ様が目の前で話し合っていたのに、つい声を出してしまった。


「懐かしい呼び名ですね。ふふっ、込み入った話は後でしましょう。さぁ、アリッサム。分かっていますね?謝罪の意味も込めて使徒ラグナをおもてなしするのですよ?」


「はっ!!ラグナ様、今更ながら自己紹介を。私はエルフの王をしておりますアリッサム。この度は我らが同胞が本当に申し訳ありませんでした。」


「マリオン様の願いにより物資の輸送を任されましたラグナです。僕自身についての謝罪は先ほどの謝罪で受け入れましたので、マリオン様の件に関して対応して頂ければ大丈夫です。」


今更ながらお互いに自己紹介をするアリッサムとラグナ。


「ほら、またこんな所で立ち話をして。そういうのは王宮に入ってからにしましょう?」


そう言われてはっとするアリッサム。


「そ、そうでした。それではご案内します。」


ルテリオは再びラグナの肩に座ると共に王宮の中へと入るのだった。

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