第275話
「初めまして、使徒ラグナよ。私は精霊神ルテリオ。精霊神と言っても女神様達に比べたらずーっと下の立場になります。」
ラグナの肩に乗っていた少女はふわりと空を飛ぶとぺこりとラグナにお辞儀をする。
「初めまして、ラグナです。」
ラグナも同様に精霊神ルテリオへ挨拶。
精霊神ルテリオはくるっと回るとエルフ達の方を向く。
「精霊樹への祈りを終えてこちらへと戻って来たら……貴方達は一体何をしているのでしょうか?」
「い、今から事実確認を行い、確認出来次第宴の準備をと……」
上等な服を着たエルフがそう説明するが……
「あれれ~?」
「僕達が聞いていたのと違うよ~。」
小さな妖精達が騒ぎ始める。
そして2人の妖精が完コピでモノマネを始めた。
「所詮は人族の子供だ。物資を全て出した後、我々の手で処分してしまえば構わないだろう。精霊神様に気が付かれる前にやるぞ。」
「ほ、本当にやるのですか……?」
「何を怖じ気づいているんだ。まさか、お前は憎き人族を庇うとでも言うのか!?」
「い、いえ、そうでは……そうでは無いのですが……」
「じゃあ構わんだろう!急ぎ準備をせよ!」
「ってハザーフとマルガが話してたよ~。」
「だよねぇ~!」
完全に声は本人達そっくりだった。
ラグナは話の内容よりもあまりにも完璧にコピーされた演技に驚いていた。
「これはどういう事ですか?シーカリオンからの援助、つまり女神マリオン様からの施しを貴方達エルフは無碍にすると?」
俯くエルフ達。
「反人族派閥が増えているのは知っています。しかし我が国を苦しめているのは救済国家ミラージュ。そして裏で協力しているヒノハバラの2国のみ。シーカリオンは我が国に対しては一切攻撃などしていません!何かあればいつでも協力するとの連絡が来ていたのは貴方達も知っているはずです!シーカリオン、そして女神マリオン様を敵に回すつもりですか!!」
意を決して1人のエルフがルテリオに異を唱える。
「何故、人族に縋らねばならないのですか!私の息子を殺した人族に!」
「女神マリオン様は人族に信仰されている女神様じゃないですか!!」
「私は婚約者を人族に殺された!許せるわけが無いです!」
そうだ、そうだとルテリオに対して声を荒げるエルフ達。
その様子に激しく落胆するルテリオ。
「貴方達は気が付いているのですか……?徐々に食料の備蓄が減っていることを。薪の供給が間に合わなくなっている事を。そして……井戸が枯渇しかけている事を……」
「それは……」
それはエルフ達も薄々気が付いていた。
ルテリオが精霊樹へと祈りを捧げ、精霊樹はエルフ達に水や木々の実り、成長の促進を与えていたが……
長きに渡る負荷によって精霊樹が疲弊していた。
そのせいで精霊樹の加護が弱体化している事も。
「だからと言って人族に頼るなど!!」
そう反論するエルフに対してルテリオは
「じゃあ滅びなさい。それが貴方達の願いなのでしょう?」
そう突き放すのだった。
絶句するエルフ達。
『俺はどうしたらいいんだ……?』
ラグナはその様子を呆然と見ていることしか出来なかった。
そんな時、王宮から数人の男女が現れた。
「これは何の騒ぎだ!」
声を荒げるのは完全武装をした、エルフにしては強面の雰囲気を持つ兵士。
「それは、そいつらから聞きなさい。」
そう言って突き放すルテリオ。
「ルテリオ様!?どうしてこの様な場所に……」
王宮から現れた男女のエルフ達はルテリオの姿に驚く。
そして俺の姿を見て何かを悟ったのか、ため息を吐きながら集団の中から1人のエルフを呼び寄せて話を聞くのだった。
しばらくして……
「愚か者共が!」
と一番偉そうな服を着ているエルフが目の前にいる集団に怒鳴る。
「シーカリオンからの使者であり、女神マリオン様の使者でもある御方を害そうなどと……何て愚かな事をしようとするのだ!我が国は今現在滅亡の危機であると何故理解していない!」
反人族派閥の集団は下を向きながらグッと堪えている。
「今我が国は皆が一致団結して動かねばならない時期だと何故理解出来ない!もはや我々やガッデスだけではミラージュに立ち向かうことが叶わぬのだ!」
「何故なのです!以前は互角に戦えていたではありませんか!」
反人族派閥のエルフがそう反論する。
すると苦々しい表情をしながらこう答えたのだった。
「……ヒノハバラだ。」
何でここでヒノハバラの名前を出すんだと驚くラグナ。
「あの国の上層部が一新されたのは知っているだろう……それからだ。ミラージュとヒノハバラの結束が一気に強まったのだ。」
その言葉に絶句するエルフ達とラグナ。
「今まではヒノハバラの上層部が何とか貴族達を抑えてくれていた。それが突如一新されてしまったのだ!それにあの国の王はもはや傀儡。以前とは別人の様になってしまったとの情報がある!」
『嘘だろ……でも……』
ラグナが王を見たのは処刑されたあの日。
ずっと違和感があった。
以前の王ならばあの様な神殿の暴走を許したのだろうかと。
あの人が傀儡に……
信じたくない真実を聞いてしまったラグナなのだった。
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