第273話
椅子に座り、ようやく落ち着いてくれた役人風のエルフ。
「まずは数々のご無礼、本当に申し訳ありません。私はアルテリオンの外務担当をしております、マルガと申します。」
「俺はラグナといいます。決して勇者様ではないのでそこの所はよろしくお願いします。」
「えぇ、分かっております。勇者様という事実が広まることのない様に私は心の奥底にガッチリと仕舞わせていただきます。
いくら否定しても分かっておりますから安心して下さいと言われるだけ。
ラグナは説得を一時諦める事にして、ずっと手に持ったままの手紙を手渡すことにした。
「確認させて頂きます」とマルガは丁寧な手つきで手紙を広げると内容を確認していく。
そして読み終えた後に「はぁぁ」と溜め息を吐く。
「ラグナ様の身分の確認も出来ました。本当にこの度はうちの者がご無礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした。」
マルガは席から立ち上がると深く頭を下げて謝罪する。
そしてマルガはガンマに手紙を渡すと読むように促す。
先ほどまではクールな印象のガンマだったが、手紙を読んでいくうちに少し顔色が悪くなってきていた。
そして手紙を読み終えた後、ガンマはマルガに何かを耳打ちしていた。
「な、何て事をしてくれたんですか!」
マルガはガンマに対して怒鳴り散らし始めた。
どうやら昼にはラグナを捕縛していたが、それを先ほど捕まえたと虚偽の報告をしていたらしい。
「今すぐカルミラ隊長をここに連れてくるように!」
ガンマと呼ばれているエルフはもう1人のエルフに目で合図すると、合図されたエルフは物凄くイヤな顔をしながら呼びに行ったのだった。
10分ほどでカルミラと呼ばれていた女エルフが物凄く不機嫌そうな顔をしながらこちらへとやってきた。
「用とは何だ?私だって忙しいんだ。」
「何ですか、その態度は!この方はシーカリオンからの正式なお客様だというのに、貴女という方は虚偽の報告までして!」
マルガはカルミラに対して怒鳴るが、
「それがどうした?所詮人族の子供だろう?」
と突き放す。
「なっ!?」
機密事項とはいえカルミラもシーカリオンからの物資の援助があることは知っているはず。
知っているのにも関わらず、この態度。
「何故人族に媚びなければいけないんだ。私は忙しい。失礼する!」
そうマルガに対して言い放つとその場を立ち去って行くのだった。
呼び止めようとしたマルガに対してラグナは
「構いませんよ。特に暴力を振るわれた訳でも無いですし。」
と問題にするつもりは無かった。
「本当に申し訳ありません。」
「大丈夫ですよ。それよりも彼女は何故そこまで人族を……?」
初めて会った時から敵意が凄まじかった。
明らかに恨みを持った眼をしていた。
「それは……」
マルガが言いにくそうにしていると、
「アイツは両親や妹の命を人族に奪われたのだ。」
ガンマがそう教えてくれた。
父親は戦闘中に命を落とし、母親と妹は食料の採取中に隠れ潜んでいた兵士達によって捕まり慰み者に。
その後、人族との戦闘にて捕らえた兵士からの情報でヒノハバラへと売られたという所までは分かったが……
ヒノハバラへと売られた後、どうなったのかは判らないとのことだった。
「アイツも元々は採取をする仕事をしていたのだ。母親と妹が捕まったあの日、彼女だけはたまたま体調を崩して家で休んでいたんだ。だから捕まらなかった。あの事件をきっかけに彼女は変わってしまった。俺も変わった1人だがな……」
「それは……」
人族を恨んでも仕方ないのかもしれない。
『だからこそのあの眼、あの態度だったのか。』
それにしてもまたヒノハバラ。
見た目麗しいエルフが捕らえられ、ミラージュからヒノハバラへと人身売買が行われていると聞いていたが……
実際の被害者に会うと何とも言えない気持ちになる。
「僕は本当に気にしていないので大丈夫ですよ。それに……」
俺自身も思うことがある。
ヒノハバラの貴族やらなんやらのせいで故郷は無くなり、両親は行方不明。
自分自身もあの国の神殿によって殺されかけた。
正直復讐したい気持ちが全く無い訳ではない。
ただ、それをしたら最後。
きっと、俺は止まれなくなる。
「僕自身にもミラージュやヒノハバラに対しては色々と思う所があるので。」
ラグナから急に発せられた強烈な殺意にマルガは恐れを抱き、ガンマやもう1人の護衛は思わず後ろに引き下がりそうになったほどだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます