第274話
「ふぅ……ごめんなさい。」
あの国の事を思い出していたら思わず殺気立ってしまった。
「い、いえ、お気になさらずに。」
少し顔色が悪くなったマルガだったが、
何とか強烈な殺意に耐えきっていた。
「それよりも本来の目的である物資の受け渡しを行いたいのですが、どこに置けばいいでしょうか?」
ラグナのその問いに対してポカンとしてしまうマルガ。
「そ、そうでした!ラグナ様、この件に関しまして上に報告したいので王宮までご足労願いますでしょうか?」
そう言うと深々と頭を下げるマルガ。
マルガ曰くアルテリオンの上層部にはラグナが物資の輸送に来た件を把握していないらしい。
あくまでも不審な人族の子供がアルテリオンに接近してきたので捕縛したとしか報告されていないので、一度報告したいとのことだった。
「分かりました。それでは案内をお願いします。」
こうしてマルガに連れられて王宮へと向かうラグナ。
エルフの街並みをのんびりと見たいとは思うが……
やはり住人からの敵意は凄まじい。
マルガがいくらシーカリオンからの使者だと説明しながら街中を進んでも、ラグナに対して睨み付けたり罵声を飛ばしたりと全く歓迎されていなかった。
さすがのラグナも物資をさっさと引き渡してガッデスへと向かいたい気持ちが大きくなって来ていた。
そしてやっと到着した王宮。
門の前では物々しい雰囲気の兵士達が立っていた。
マルガは少々お待ち下さいといい、王宮の中へと消えていった。
しばらくすると、先ほどのマルガよりも上等な服を着ているエルフの男性が現れた。
「これはシーカリオンからの使者殿。よくぞおいで下された。」
男性は恭しく礼をしながら話しかけてくる。
『表面上はニコニコしているけど……』
本心ではどう思っているのかわからない。
ラグナがそんな事を思っていると、
『なんか来た~。』
『人間の子供~?』
『人間とは違う気がする?』
『何か面白い存在だよ~?』
『懐かしい匂いも感じる~。』
「えっ……?」
ラグナは急に頭の中に響いた声に驚きを隠せないのであった。
『何だ?この頭に響くような感じは……』
突然聞こえて来た謎の声達。
周囲のエルフ達も動揺している様子。
ラグナは周囲を警戒していると
肩にぽふっという効果音が……
その音に驚きながら肩に視線を向けると
「うわぁぁ!」
いつの間にかラグナの肩に座っていた存在に驚いて尻餅を付いてしまう。
エルフ達はラグナの肩に座る存在を目にした途端、地面に膝を付き祈り始めた。
「えっ!?どういう事!?君は誰!?」
急に祈り始めたエルフ達にも驚きを隠せないが、それよりも肩に座っている存在に一番驚く。
「驚かせてしまったかな?」
そう謝罪するその存在。
何とも美しい美貌を持つ20センチほどの大きさの小さな少女。
さらにその少女の背中からは半透明な羽
が生えていた。
「妖精……?」
その存在を見て、ラグナは思わずそう呟いてしまった。
「妖精……妖精か……その呼び名を聞いたのは本当に久々ね。」
ラグナが肩に座る存在に驚いていると、
『ルテリオだけずるーい!』
『楽しそうー!』
『人間の前に出ても大丈夫かなぁ?』
『これ人間かなぁ?』
『人間じゃないかも~?』
『『じゃあ大丈夫か!』』
再び頭の中に声が響きわたる。
そして……
ぽふっという音が連続してラグナの目の前で鳴り響く。
「なっ!?」
先ほどから驚いてばかりだが、それも仕方ないと思う。
先ほどの妖精よりも小さな様々な髪色の少年、少女が目の前に現れて空を飛んでいるのだから。
「びっくりした~?」
「ねぇ、君って人間~?」
「人間なの~?」
「こら、お客様に失礼でしょ。」
「「は~い!」」
肩に乗る少女が注意すると、ふわふわと飛びながら好き勝手喋っていた妖精達が大人しくなった。
「ごめんなさいね。ほら貴方達も謝りなさい。」
「「ごめんなさい~!」」
小さな妖精達は声を揃えてラグナに謝罪する。
「い、いや、別に気にしてないので……」
まだ何が何だか理解できないラグナだったが、
「せ、精霊神ルテリオ様、その様な人間の側に居ては危険です。」
上等な服を着たエルフが妖精に対して意見するが……
「この子は大丈夫。そもそも、マリオン様に支援を願い出たのは私なのよ?それを貴方達は何をしているのかしら?」
「それは……」
悔しげな顔をするエルフ達。
どうやら肩に乗っている少女は精霊神ルテリオと言う名前らしい……
「……精霊神!?」
まさかの神様だった!?
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