第272話

「ここで大人しくしていろ。」


「わかりました。」


牢へと案内されたのだが、少しおとぎ話の様な作りで感動してしまった。


少し大きめの幹の木に案内されたのでどこに牢があるんだろうとキョロキョロしていると、ガンマと呼ばれている男エルフが手を伸ばし木の幹に触れた。


するとあら不思議。


木の幹に扉が現れた。


そして扉を開くと、地下へと向かう階段が現れたのだった。


まさにファンタジーと呼べる作りで牢に入るはずなのに、ワクワクしてしまった。


しかも地下なのに真っ暗ではなく、きちんと照明が設置されているので部屋が明るい。


牢の中に入ると手枷が外された。


そしてガチャリと牢の扉が閉められる。


『まさかこの歳でまた牢の中にぶち込まれるとは思わなかったなぁ……』


12歳。


人生2度目の牢生活。


まぁ1度目の時に比べたら殴る蹴るの暴力も無いし、悲壮感を全く感じていない。


そんな事を考えていると、ぐぅっとお腹が鳴った。


『そう言えば、まだご飯食べてなかったか。』


周囲には人の気配が無いことを確認したラグナは、収納からどこかの街の出店で買ったグーナパンを取り出すといそいそと食べ始めた。


「ごちそうさまでした。」


そして暇を持て余す。


『生活リズムを夜から昼に無理矢理変えたから眠いや。』


生活リズムを急に変えたので身体が慣れていない。


どうせする事なんて無いしと思ったラグナは寝ることにした。


『Zzz…….』


「おい、起きろ!」


誰かの声が聞こえる。


目を擦りながら声の方を見ると、そこには女エルフが仁王立ちで立っていた。


「まさかのん気に寝てるとはな。子供の癖に神経が図太い。付いてこい。」


寝起き早々に軽く罵倒された。


ガチャリと手枷をされる。


そして再び地上へと出ることが出来た。


外は日が落ち始めており、夕方近くになっていた。


『結構爆睡しちゃってたのか。』


思っていたよりも寝ていたらしい。


女エルフに着いていくと身体チェックをした広場に到着。


新たに広場に設置されていた椅子に座るように指示されたので素直に指示に従う。


しばらく座って待っていると、女エルフが役人風の服装のエルフと言い争いながらこっちへと近付いてきた。


そして役人風のエルフが俺の側まで来ると手枷がされている事に驚いていた。


「カルミラ隊長、今すぐにコレを外して下され!話が違うでは無いか!不審者とはいえまだ子供。その子供に対してやって良いことではありませんぞ!」


女エルフはカルミラという名前らしい。


「ふんっ。」


と言いながらやや雑に手枷を外してくれた。


「ここに2人残す。我らは持ち場に戻るからな。」


そう言うとカルミラと呼ばれた女エルフは俺の前から立ち去っていったのだった。


「ウチの国の者が申し訳ない。それじゃあ取り調べを始めたいと思います。まずはアルテリオンに来た目的を。」


「先ほどの女性にも伝えたのですが……シーカリオンよりアルテリオンへの物資の輸送の為に来ました。」


ラグナが目の前にいるエルフにそう伝えると目を見開いて驚いていた。


『あれは機密事項のハズ……何故こんな子供がその事を……』


「物資の輸送ですか……失礼ですがシーカリオンより何か手紙などは……」


そう言われたラグナは「ちょっと失礼。」と言いながら収納スキルを発動。


中から手紙を取り出していた。


「こちらがシーカリオンからの手紙と目録の一覧に……」


ラグナが手紙を手渡そうとエルフの顔をみて言葉を止めた。


目の前のエルフが……


口を大きく開けて白目になったまま意識を失っていたのだった。


残された護衛の1人であるガンマと呼ばれていたエルフに目で助けを求めるラグナ。


ガンマは自身のポケットから小さな小瓶の様な物を取り出すと意識を失っているエルフの鼻元へ。


そして蓋を開けると匂いを嗅がせるのだった。


鼻をヒクヒクとしながら匂いを嗅いだエルフさん……


ギャァァァという魂のこもった絶叫。


そして椅子から転げ落ちて鼻を押さえながら悶絶。


落ち着きを取り戻すのに暫くの時間が必要だった。


「お見苦しい姿を見せてしまい本当に申し訳ありません!それに数々の失礼な対応に関しても本当に申し訳ありませんでした、勇者様!」


落ち着いたのはいいものの……


役人風のエルフさんは土下座スタイルのままペコペコと謝るばかり。


勇者では無いと否定しても、そのスキルが何よりの証拠ですと取り合って貰えなかった。


「とりあえず椅子に座って落ち着きましょう。話が進みませんし!」


ラグナは何とか目の前のエルフを椅子に座らせると話し合いを再開するのだった。

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