第260話

どこを探しても貝毒表示の貝しか出てこない事に絶望するラグナ。


「おめぇさん、今度は何してんだ?」


砂を掘っていると急に話し掛けられたのでビクッとしてしまった。


振り向くとそこにいたのはさっきの漁師のおじさん。


「貝を穫ろうかなぁと思ったんですけど……」


流石に鑑定したら貝毒が……とは言えない。


「貝かぁ……今の時期は止めとけぇ。腹壊すか身体が痺れちまうぞ。」


「そうなんですか!?」


「そんな事も知らねぇって事はここには来たばっかりか?」


「今までは他の所に住んでたので……」


流石にヒノハバラから来ましたとは言えないけど。


「はぁ……だからあんなとこまで泳いでたのか。浅瀬なら大丈夫だけんども、今日泳いでた辺りになると魔物が出てくる場合もあるんだ。本当に気をつけろよ?」


「はい。本当にごめんなさい。」


「んで貝だけんども、海の水が暖かくなってきてっから貝が毒を持ち始めるんだ。んでその毒を持った貝を食べちまうと、さっき言ったみたいに腹をこわすか痺れて死んじまう事もあんだ。」


貝に当たってお腹を下すことは知っていたけど、痺れたりするなんて知らなかった。


「あとな、その毒を持った貝はいくら焼こうが毒を持ったままなんだ。だから気をつけーよ?魚が食いてぇなら市場を覗いてみるのもいいと思うぞ。」


「わかりました。わざわざありがとうございます。」


最初はいきなり怒ってきたおじさんだと萎縮していたラグナだったが、いろいろ親切に教えてくれるので素直に感謝していた。


「さてと……貝はサザエだけで諦めるか。あとはさっきのおじさんが言っていた市場か。ちょっと覗いてみるかな。」


海水で濡れた身体を水魔法でさっと洗い流すと、風魔法で乾かしていく。


そしておじさんが教えてくれた市場へと向かう。


「おぉ~。」


おじさんが教えてくれた市場。


前世と同じ様な作りになっていたので正直驚いた。


一度だけ朝市に行ったことがあったけど、正直それと近い。


魚は魔法でカチコチに冷凍されていたり、生け簀の中を泳いでいたりしている。


「すっげぇ……」


奥に進むと5メートル近いでっかい魚がカチコチに凍っていた。


「初めて見たのか?でけぇだろ!」


筋肉ムキムキのお兄さんが得意げな顔をしていた。


『マグロキング』


元は異世界から持ち込まれた種が魔物化し大型化した。


食用可


「こいつは完全に魔物化した魚だ。マグロの中の王様、マグロキング。俺達の船でとったんだぜ!」


「こ、これを船で……」


こんなに大型の魚を釣り上げるにはそれ相応の大きさの船に乗ってるって事だよなぁ。


値段がチラッと見えたので確認。


「大金貨3枚……」


まじかよ……3000万円もするのか……


ラグナが呆然としながら見ていると聞いたことがあるような声がした。


「う~ん。大金貨3枚ねぇ。」


「今日穫ったばかりで新鮮ですよ!血抜きもしてあります!」


さっきまで得意げに説明してくれていたお兄さんの態度が一変。


急にペコペコとし始めたので驚いた。


「大金貨2枚と金貨8枚なら買うわ。ってあら、ラグナくん?」


「どうも、エイミーさん。もしかしてこの魚を?」


聞いたことがある声の正体はエイミーさんだった。


「えぇ、マグロキングが入荷したって連絡が来たから直接見に来たの。」


「もしかして、そこの坊ちゃんは関係者様で……?」


「ちょーっと違うけど、まぁ知り合いって感じよ。」


エイミーさんがそう言うと先ほどまでの態度とは一変。


「先ほどのご無礼な態度、申し訳ありませんでした!」


「いやいやいや!別に僕はエイミーさんの知り合いってだけですから!」


流石に俺に対してペコペコされても困る。


「それで、大金貨2枚と金貨8枚で良いのかしら?」


「船長にすぐに確認してきます!」


そう言うとダッシュでどこかへと向かって行くのだった。


「まさか、こんな所で会うなんてね。釣りはどうだったのかしらぁ?」


「一応釣れたのは釣れたんですけどね……オジサンって魚しか釣れなかったんですよ。」


「オジサンねぇ。でも、あれって美味しいわよ?」


エイミーさんはオジサンを食べたことがあるらしい。


「お待たせしやした!エイミー様のお値段で構わないとの事です!」


お兄さんが再びダッシュで戻ってきた。


「ありがとね♪輸送はいつも通りでよろしく頼むわぁ。」


エイミーさんはバチコンとウィンクをお兄さんにすると俺の肩に手を回して一言。


「それじゃあ私達は市場デートでも楽しみましょう?」


えっ?と思ったが、エイミーさんの笑顔の迫力に逆らえることなど出来るわけ無く……


市場デート?をする事になったのだった。

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