第258話
あれから釣りを続けること2時間。
「……。」
あれ以来、一切コツコツとした小さい当たりすら来ない。
ただ、時間だけが無駄に経過していた。
「お~い、釣れてるだがぁ?」
遠くの方から年配のおじいさんがこっちに向かって来るのが見えた。
「何度か当たりが来たんですけどね……今はその当たりすら全く来なくなりましたよ。」
俺がそう言うと、おじいさんが笑いながら教えてくれた。
「そりゃ、そうだっぺよ~。人間にも若干判るくらい殺気をバンバン出してたら、敏感な魚なんて逃げてまうだがよ。」
あの憎き半魔物化したアジの攻撃により悶えた結果、イライラしながら次の魚が掛かるのを待っていた。
どうやらそれが原因で魚達が逃げてしまったらしい。
「んでも、そんなにイライラしながら釣りをするなんてどうしたんだっぺ?」
ラグナは先ほど受けた屈辱を、おじいさんに話してみた。
「ほぇ~、そりゃついてねぇべ。オラもたまに釣りさすっけども、半魔物化した魚なんて数えるくらいしかあった事がねぇど。」
おじいさん曰く、船でちょっと遠くで漁をするならまだしも、釣りくらいで半魔物化した魚に会うなんて数年~十数年に一度くらいしか普通は無いらしい。
「まぁ、怪我がねがっただけども良かったと思わねば。目さやられて見えなくなった奴もいるし、指を飛ばされた奴もいる。だから怪我も無く無事に済んだだけども良かったべ。」
そう言われると、確かに今回は痛いで済んで良かったのかもしれない。
「あとな、釣りってのは何も考えねぇ~でのんびりぼーっとしながらやるのが1番だべ。釣れるも釣れねぇも女神様次第ってな。」
この国では釣れるか釣れないかは神様ではなく、女神様次第って事になるらしい。
「この後も釣りさやりてぇなら、ちょっと遠くまで移動してやるのがいいべ。ここの魚は今日戻ってこねぇ。もしやるならあっちの岩場の方がいいど。まぁ足場が悪いから落ちねぇ様に気をつけねばいけねぇけどもな。」
そう言っておじいさんは浜辺の先にある岩場を指さす。
「いいか?イライラしたら負けだべ。ゆっくり楽しむもんだ。まぁ年寄りの戯れ言だけんどもな~。」
そう言っておじいさんは笑いながら去っていった。
確かにイライラしていたかもしれない。
アイツをまた釣り上げて今度こそ食ってやるって気持ちがあった事は否定出来ない。
「ふぅ……」
そもそも今回の釣りだって、釣ったばかりの魚で海鮮BBQをやって食べたいって思ったのがきっかけだし。
リラックス、リラックスして行こう。
何事も楽しまなきゃ。
おじいさんに言われたとおりにラグナは岩場へと向かうのだった。
一方でラグナにアドバイスをした老人は
『あの小童が使徒様け。驕ってる小童かとも思ってたけんども……あぁしてると素直な普通の小童だべ。マリオン様の使徒は善玉って事でとりあえずは大丈夫そうだな。』
にこにこと笑いながらラグナの元から去っていくのだった。
岩場に到着したラグナは、再び魔道具を設置すると餌を取り付けて発射させる。
糸を手に取り、おじいさんに言われた通りぼーっと海を眺める。
ゆらゆらと揺れる浮き。
時折コツコツとした感触を指に感じる。
コツコツとした感触の回数が増えてきた。
それでもラグナは焦らずにぼーっと食いつくのを待つ。
コツコツ……
コツ……
コツコツ……
グッ
浮きが一気に海の中へと引きずり込まれたのを確認して、糸を引っ張る。
先ほどよりも少し引きが強い。
右へ左へ。
一気に軽くなったと思ったら、いきなり糸を引っ張ろうとしたり。
少しずつ糸をたぐり寄せる。
うっすらと見えてくる魚影。
ゆっくりと海面から糸を引き上げる。
そして海から離れた場所で恐る恐る鑑定する。
『鑑定の神眼』
『オジサン』
元は異世界から持ち込まれた種
食用可 内臓に臭みがあるので処理に注意
無毒
「やったぁぁぁぁ!!」
釣りを初めてから数時間。
やっと手に入れた魚。
名前についてはあれだけど……
確かテレビでも見たことがある。
無人島で生活するやつで。
エイミーさんから教わった簡単な魚の締め方をすぐに実践。
ナイフで頭を落として内臓を取り出す。
そしてウォータージャグの水で洗浄。
風の魔法で簡単に水気を飛ばすと収納スキルで保管。
再び釣りへと戻るのだった。
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