第257話

「よし!」


エイミーさんから一通り釣り具やらなんやらを受け取ったラグナは、再び海へと戻ってきていた。


「とりあえず、やってみるか。」


前世でも釣りの経験は数えるほど。


この世界とあの世界では釣りの道具の発達具合も違う。


この世界の釣り。


まさかの魔道具を使っての釣りでした。


釣り糸は蜘蛛の魔物の糸を加工したもの。


それに浮きと釣り針とガン玉と呼ばれる小さな重り。


釣り針に餌を取り付けて筒の中にセット。


発射距離を指定したらボタンを押すだけ。


ポチッと。


パシュンという音と共に50メートルほど先まで仕掛けが飛んで行った。


この魔道具にはリールと呼ばれる糸を巻き取る機構も無ければ、そもそもロッドと呼ばれる釣り竿すら無い。


ただ糸を手に取り獲物が掛かるのを待つだけ。


「思っていたのと……なんか違う……」


違和感は感じるものの、この世界の釣りはこれが当たり前なんだと思うことにした。


…………


ふわふわと浮くウキを見ること数十分。


「うん?」


微かにぴくぴくとした振動が糸越しに伝わってきた。


「うぉりゃ!」


浮きが一気に沈んだ瞬間に力一杯グイッと糸を引っ張るラグナ。


……


この世界に来て初めての釣り。


初めてだから仕方ないよね?


……


思っていたよりも力んでいたらしい。


最近では常時展開したままの身体強化魔法。


その力を思う存分発揮してしまった。


糸の先にぶら下がる『それ』は……


魚の口らしき破片。


あまりにも強く引っ張り過ぎた為、針が掛かった口の部分だけが千切れてしまったらしい。


「ま、まぁ……初心者だし?」


そう自分に言い聞かせる事しか出来ない。


再び針に餌をセットし発射。


ゆらゆらと揺れる浮きをのんびりと見る。


しばらくして、再びピクリとした感触が伝わる。


『慌てたらダメ。落ち着け、落ち着くんだ、俺。』


じっと浮きを見ながら手に伝わる感触に集中する。


ピクッ


ピクッ


グッ


『今っ!』


一気に浮きが沈み込んだタイミングで糸を引っ張る。


「おっ!?」


糸が引っ張られていき、どんどん水中へと潜って行こうとする。


右へ左へと糸が走る。


ラグナは慎重に糸を引っ張っていく。


格闘すること5分。


徐々に魚の姿が見えてきた。


慎重に魚を引き上げる。


「……アジ?」


釣れたのはアジの様な魚。


「食べれる……のか?」


アジの様な見た目ではあるものの、世界が違うので何とも言えない。


こんな時にアニメとかでお馴染みの……


「あっ……俺持ってたわ……」


どうしても使用時の感覚になれないまま、すっかり使うことを忘れていた。


創造神様、ごめんなさい。


『鑑定の神眼』


一気に情報が頭の中に流れ込んで来る。


『アジ』


元は異世界から持ち込まれた種


食用可


毒は無し


※半魔物化


気持ち悪い感覚に耐えながら説明分を目で追っていく。


そして最後の一文。


「ん?」


その文章に思わず目を見開いた瞬間!


ブシャー!!


見開いた目に向かって大量の海水が襲いかかる。


「いってぇぇ!!」


反応に遅れてしまったラグナは目に海水が直撃してしまい、あまりの痛さに転がり悶える。


何とか収納からウォータージャグを取り出すと、必死に目を洗う。


バシャバシャと何度か洗ううちに、徐々にだが痛みが引いてきた。


そして……


「絶対にゆるさねぇ!すぐに焼いて食って……」


この痛みの元凶たるアジに視線を合わせるが、


「くそがぁぁぁぁ!」


がっつりと針が突き刺さっていたはずのアジの姿が。


見えなくなっていたのだった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る