第254話

アヤトと出会った次の日。


コンコン


「アヤトさーん!」


「おー、勝手に入ってくれ~。」


室内からそう言う声が聞こえたので、「お邪魔します。」と日本にいた時のように挨拶をして室内に入る。


室内は昨日の実験の失敗など無かったかの様に、綺麗に片づけられていた。


「よく来てくれた。んじゃ地下室に行くぞ~。」


ラグナの目から見ても、今日のアヤトは物凄く浮かれている様に見える。


『実験って言葉を聞くと、確かにワクワクする気持ちはわかるけど……あそこまで浮かれるのは……』


物凄くニコニコとした笑顔で、すぐに実験したい!ってオーラをバンバン放っていた。


地下室にある実験場に降りると、そこには様々な形の魔道具が壁に掛けられていた。


中には手裏剣やら手甲鉤やらクナイなど忍者の武器から、モーニングスターや鉄扇など日本人が好きそうな武器が様々並んでいる。


もちろん武器だけでなく、怪しい形をした鎧から明らかにロケットの様な形状の物体が取り付けられている籠手など……


真っ当な形の魔道具はほとんど無かった。


「ま、まさかこれ全部負荷実験とでも……?」


「いや、違うぞ?」


違うと言われてホッとするラグナ。


アヤトが気を利かせて様々な魔道具を見せてくれていると思っていたが、現実はそこまで甘くなかった。


「これ以上持ってくると置き場が足りないから、今回はこれだけで我慢したんだよ。いや~、悩んだぜ。どれもこれも、負荷稼働時にどんな威力を発揮できるのか気になっていたからな。」


しかし、ありがたいことに今日中にこの量をこなせと言っている訳じゃないだけ良かったと考えることにした。


とりあえず、実験場の一番奥へと移動する。


「それじゃあ、始めるとするか。まずはこれから行ってみよう。」


そう言ってラグナに手渡したのは……


「何です、これ。」


思わず?が浮かんでしまった。


どう見てもただのソフトボールサイズの鉄球にしか見えない。


しかも中々にずっしりとくる重さ。


「魔力を流せば判るよ。そんなに危険なもんじゃねぇから。」


アヤトがそう言うのでゆっくりと魔力を流していく。


すると本当に微量な魔力を流しただけで、ほのかに鉄球が光り始めた。


「それはライトの魔法を再現した魔道具だ。魔力を流すだけで発光するんだぜ。しかも自前の魔力だから魔石の残量の心配もいらねぇ。更に魔法の訓練もしてない一般の人間でも6時間前後は軽く使えるほどの超低燃費仕様の魔道具なんだ。どうよ?」


確かに本当に極僅かな魔力しか使用していない。


でもこれなら自分でも負荷稼働実験が出来るのでは?と思っていると、アヤトがテーブルに置いてあったゴーグルの様な物を2つ手に取る。


そして、その片方を手渡してきた。


「この超低燃費仕様の魔道具は先日完成したばっかりなんだ。んで、その時に負荷稼働実験やったんだけどよ……盛大に失敗したんだ。」


「失敗……?」


魔力を注ぎ込んでも負荷稼働まで持っていけなかったのかと思っていたが、予想外の返答だった。


「あんまりにも眩しすぎて、魔道具の状態なんか一切見れなかったんだわ。」


と笑いながら答えてくれた。


それでこのゴーグル状の魔道具を作ったらしい。


このゴーグルに魔力を流すと、流した魔力量に応じて明るさを押さえてくれる魔道具だとか。


もしも眩しいと感じたら、魔力を継ぎ足していけば徐々に眩しく無くなるとの説明を受けた。


「それじゃあ、頼む。」


アヤトからゴーサインが出たので、徐々に流す魔力量を増やしていく。


もちろんゴーグルに流す魔力量の調節も行いながら。


徐々に魔道具を持つ手に熱を感じてきた。


一応、保険として身体強化魔法と手のひらの上に魔力障壁を張っておく事にした。


明るかった鉄球が徐々に赤熱化してきている。


部屋の温度も上がっていき、まるで暖房器具の様にもなってきていた。


それでもアヤトは、「もっともっと」と指示を出してくる。


「そんなんじゃまだまだ!限界には程遠いぞ!」


ビビってるんじゃねぇ!


もっと流せ!


そんな指示ばかり。


そこでラグナは少しビビりながらも、流す量を一気に増やしていく。


ガタガタと鉄球が振動を始めた。


室内はかなり蒸し暑くなっている。


その状況でもアヤトはもっとだ!と指示をしてくる。


『もうどうにでもなれ!』


半ばヤケクソになったラグナは、ぐんぐんと魔力を更に流していく。


その流れ込んでいる魔力量にアヤトはあ然としてしまい……


ストップの指示をする事を忘れ、見とれてしまっていた。


そしてアヤトからストップが無いラグナは、どんどん魔力を流していき……


アヤトが正気に戻り「ス、ストップだ!」と指示をした時には既に手後れだった。


ガタガタと震えていた魔道具が、急にピタッと制止した。


「えっ!?」


ラグナが一瞬驚いた瞬間に、アヤトからのストップの指示。


慌てて魔力を流すことを止める。


止めたのに……


更に発光する鉄球。


「やべぇ!?」


そう叫ぶアヤトの声。


明らかな異常を感じたラグナは慌てて壁に向かって魔道具を投げると、全力で魔力障壁を張り自身とアヤトの身を守る。


ラグナの手を離れた鉄球は放物線を描きながらさらに発光する。


そして壁に接触すると……


一気に光が収まり、そして……


ドカァァァァァン


という爆発音と共に爆風がラグナ達がいる方へと向かって来るが……


そこにはラグナが全力で張った魔力障壁が。


爆風は逃げ道を失う。


逃げ道を失った爆風は、強度が弱い天井やラグナ達の反対側の壁へと襲いかかる。


そのあまりの威力に反対側の壁が耐えられずに崩壊。


激しい砂埃が舞い、魔力障壁の先にある視界が砂埃によって失われてしまったのだった。


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