第246話

「ま、まぁ……詳しくは言えないのですが……リオ、ラグナ君。私を助けてくれませんか?」


まさかのマリオン様からの救援要請に戸惑う2人。


「出来れば、マリオン様のお手伝いをしたいという気持ちはあるのですが……私はあの装置から出ることは出来ませんし……」


「そ、そうだ!なんでリオさんが普通に神殿の中を歩いていたんですか!その言い方だと、身体はまだ装置の中って事ですよね?」


ふふっと笑うマリオン様。


「リオはラグナ君と共に行動したいからと、以前より開発していた自分の意識をゴーレムへと転写する技術を急ピッチで仕上げたのですよ。」


「マリオン様!?」


マリオン様のまさかの発言に慌てるリオ。


「冗談です。リオには既に想い人が居ますものね。冗談はこれくらいにして……リオ、今はまだ開発段階のその技術ですが、完成の見込みはありますか?」


リオはうーんと考え込むと首を振る。


「今すぐ完成という訳にはいかないでしょうね。まず意識を転写と言っても完全にゴーレムに意識を映している訳ではなくて、どちらかと言えば操っている状態。マリオネットの様なものですから。今はまだ教会内を動かすのがギリギリって所です。さらに問題なのがゴーレムのエネルギーですね。そこまで長時間稼働出来る程の魔力を溜め込むことが出来ません。」


はぁー、とため息を吐くリオ。


改めて口にすると、まだまだ完成までは程遠い道のりだと感じてしまう。


「そうですか……ではリオには出来るだけ早くその技術が完成する様に頑張って貰うとして、次はラグナ君ですね。ラグナ君には一年後を目途に深緑の森 アルテリオンと鍛冶の国 ガッデスに向かって欲しいのです。」


新緑の森 アルテリオンと鍛冶の国 ガッデスと言えば、現在進行形で救済国家ミラージュと戦争が行われている国。


「救済国家ミラージュと戦争中の国へですか……?」


「えぇ。危険なお願いになってしまうのはわかっているのですが……あの2国を救って欲しいのです。」


「救ってと言われても……僕一人の力なんて数の前には微々たるものですよ?」


確かに他人よりも魔力は多いかもしれないが、それでも数千、数万の人間相手に戦えるとは思えない。


むしろ同じ人間と戦争だなんて……


「何も戦力として戦えと言っている訳ではありません。初代勇者であったヒノと同じようにあの2国に向けて物資の輸送と水の供給をお願いしたいのですよ。」


マリオン様からのまさかの提案。


経済的にも食料自給率にも余裕があるシーカリオンからの支援物資の輸送及び神具を用いての水の供給。


更にキャンプスキルで作り出せる備長炭なども支援物資として供給して欲しいとの事だった。


「今すぐに向かわなくてもいいのですか?」


「今すぐにあの2国が亡ぶという訳でもありませんし……それに、いろいろ辛い経験をされたラグナ君にも休息が必要でしょう。1年くらいしかのんびりとさせてあげられませんが、この国でゆっくりと休んでください。ラグナ君の生活及び身分に関してはリオ、頼みましたよ?」


「わかりました。確かに身分に関してはすぐに動く必要がありますね。シーカリオンの物資を運ぶにしてもそれなりの身分は必要でしょうし。住む場所についてもすぐに手配させて頂きます。ラグナ君もそれでいいかな?」


「あっ、はい。出来るだけ目立たないようにしてくれると助かります。」


「そこは任せたまえ。謎の特急宅配人って肩書とかカッコいいよね?」


リオはマリオン様からの久々の神託に少し浮かれていた。


最近ではマリオン様と会うことも呼ばれることもめっきりと減っていた。


こんな身体ではマリオン様の手助けなど出来ないとリオは理解していたから。


でも……まだマリオン様は私の事を見ていてくれた。


頼ってくれたということが嬉しかった。


「マリオン様、一つ質問いいですか?」


話がひと段落ついた所で、ラグナがマリオン様に質問する。


「言えることと言えないことがあってもいいのなら、いいですよ?」


ずっと気になっていたこと。


「直接マリオン様と会えなかったのはどうしてですか……?」


ラグナは心のどこかで、マリオン様に実は避けられているんじゃないかと感じていた。


連絡が来ても手紙や伝言などで終わり。


突き放されているような気持ちになっていた。


「ラグナ君が感じているような気持ちは一切ありませんよ。本当に忙しかったのです……本当に……」


マリオン様が深い深いため息を吐く。


「じゃあ本当に秩序の女神エミア様が言っていた様に、女神様や神様が忙しくなるほどの何かがあったって事ですね?」


マリオンはラグナがエミアの名前を出した事に驚く。


「まさかラグナ君がエミアと出会っていたとは……よく無事でしたね。彼女はその……女神の中でも変わり者ですから。」


「いろいろありましたが、何とか無事でした。やはり神界で何かあったのですよね?」


「答えることは出来ませんが……エミアがラグナ君に話した事は事実ということだけお教えしましょう。」


答えを教えてくれた様なものだけど、どうやら本当に神界で何かがあったらしい。


それで女神様や神様は、その何かに対処しているから話す時間すらなかったのか。


「はぁ……そろそろ仕事に戻らなければならないので今日はここまでと言うことで。」


「わかりました。その……あまり無理はしないでくださいね?」


「ありがとうございます。あっ、ラグナ君と共に来た少女にはあなたの思いは伝わりましたと伝えて下さい。あとはこれを彼女に。」


マリオン様が手のひらの上に水色の小さい宝石の付いた髪留めを発現させるとラグナへと手渡す。


「これは……?」


「ラグナ君は少なからず彼女の事も大切に思っているようなのでお守りみたいなものですよ。」


マリオン様は彼女の事もの「も」の部分を強調しながらラグナに髪留めを手渡した。


「それでは、また会いましょう。リオ、ラグナ君。頼みましたよ。」


マリオン様がそう言うと視界が真っ白に覆われていくのだった。

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