第227話
「ギルド長、お連れしました。」
ガチガチに緊張している職員が扉をノックし、部屋の主へとラグナを連れてきた事を告げる。
「わかった。入りたまえ。」
すると扉の中からガチャリとロックが外れるような音がした。
そして扉の先には明らかに偉そうな立場の人物が。
「少し2人で話がしたい。下がってくれ。」
「わかりました。」
ラグナを連れてきた職員はすぐに部屋を退出する。
「初めまして、だな。商業ギルド代表のケーヴィンだ。よろしく。」
少し強面のダンディーな白髪混じりの金髪の50代前後のオジサマが全国の商業ギルドを束ねるトップ。
「ラグナです。初めまして。」
手を伸ばして握手を交わす。
「まぁ座りたまえ。」
椅子に座るように促されたラグナは素直に座ると急にあの声が……
『ハロォ~!昨日はお楽しみでしたね!』
「リオさん!?」
『そだよ~!あなたの思い人。賢者リオとは私の事だ!』
代表は深いため息を吐くと、
「賢者様、これから真面目な話をしようかとしていたのですが。」
『も~!な~にぃ?ケー坊はいっちょ前に嫉妬してるのかしら?』
「さすがにこの歳になってケー坊は勘弁して欲しいのですが……」
賢者リオが急に会話に割り込んで来たお陰で緊張が少し和らいだ。
『だ~か~ら~。言ったじゃん~。ラグナ君を警戒する必要なんて無いよ~って。』
ケーヴィンはマリオン様の使徒であるラグナを警戒していたようだった。
「……賢者様。それを本人の前で言うのは無しでしょう。」
『だってしょーがないじゃーん。私のラグナ君の事を警戒し過ぎなんだもーん。ラグナ君は君が言うようなことなんてしないよ~!!」
「えーっと……」
全く話がわからない。
ケーヴィンさんは俺の何を警戒しているんだろう。
『ほら~。ラグナ君の顔を見てごらんよ~。私達の会話を聞いてぽか~んとしてるよ?』
「だからと言って……」
『ぽか~んとしてるラグナ君にケー坊が何を警戒していたのか教えてあげる!』
「賢者様!!」
『だってこの子にそんな気は無いのに疑ってたら可哀想じゃないか~。ケーヴィンはね、君がマリオン様の使徒という立場を使ってこの国の国民を意のままに操るんじゃ無いかって警戒してるんだよ~。』
「えっ!?しませんよ!?そんな事をしたらここまで目立たないようにコソコソしてた意味無いじゃないですか!!せっかくコソコソしていたのに身に余る宿泊先を用意してくれた方に一言申したい気持ちはありますけどね。」
『ほらぁ~。この子は大丈夫だって~。本当に必死にこの街までコソコソしてたんだよ~。街への移動も乗り合い馬車なんて使わないで、人気のない場所で夜営してまでさぁ。判る?たかが11歳の子供がヒノハバラからこの街までほぼ1ヶ月ほとんど1人で旅をしてきたんだよ?普通なら出来るもんじゃないよ~。』
確かにリオさんの言う通り。
普通の11歳ならばこんなにも長期に渡って1人旅なんて出来るわけ無い。
その前にリオさんに聞かなければいけないことが出来た。
「ねぇ、賢者様……なんで僕の行動把握してるの?」
『内緒だよ~。トップシークレット!!』
つまりはこの国に来てからの行動は全部リオさんに見られてたって事か。
『まだ疑うの~?時間の無駄だと思うけどなぁ。ケー坊は本当に昔っから心配性なんだからぁ。』
「職務上仕方ないじゃないですか。はぁぁ……わかりましたよ。あなたがそこまで言うならば信じることにしますよ。」
『うむ。それで良いのじゃ。そ~だ~、ラグナ君や。ヨハムのクソ野郎からかっぱらってきた机を出してくれるかい~?』
「……ここで、ですか?」
『そだよ~!ここで~。』
つまりはケーヴィンさんに収納スキルの保有者だと教えろって事なんだろう。
『ラグナ君もそんなに警戒しなくて良いじゃないか~。ケー坊なら大丈夫だよ~。それに万が一の時は私が始末してあげるから~。』
そっちの方が問題になりそうな気がする。
「じゃあ出しますよ。あそこが開いてるのでそこに出してもいいですかね?」
ラグナとリオの問答をよく理解出来なかったケーヴィンは空返事をする。
「あ、あぁ。構わんが……机を出すってどういう事だ?」
ケーヴィンもさすがに理解が出来なかった。
「んじゃ。ここでっと。よっこらしょっと。」
突然何もないところから机が出現した。
あまりの衝撃にケーヴィンは呆然としてしまうのだった。
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