第226話

従業員に担がれて運ばれていく支配人を見送ったラグナ。


すぐに別の従業員が現れて対応してくれる事になった。


「お、お客様。大変申し訳ございませんでした。」


「こ、こちらこそ。なんかごめんなさい。」


別に悪いことをしたつもりはないけど、木札を見せた後に意識を失った支配人の姿を見ると罪悪感を感じてしまう。


「そ、それで……失礼ですがご予約名などはわかりますでしょうか?」


この流れはデジャヴだろうか。


頼むから倒れませんようにと祈りながら木札を取り出す。


「これを宿で見せてくれと言われたんですけど……」


木札を従業員に見せると、その従業員の目が見開く。


小さい声で『本当にあったんだ。』って呟いた声が聞こえた。


「すぐに確認してまいります。」


そういうとやや駆け足で従業員さんが走り去っていった。


「確認が取れました。お部屋へと案内致します。」


戻ってきた従業員さんはさっきよりもガチガチに緊張している様子。


歩き方が少し変。


『あの木札ってそもそもなんなんだ?それになんであんなに緊張してるんだろう。」


疑問ばかり。


エチゴヤの宿マリンルー店は五階建て。


そして案内されたのは最上階である五階。


「こちらのお部屋になります。」


扉を開いて室内へ。


「わぁぁ!」


思わず声が出てしまった。


扉を開くと、広い室内。


そして目の前に広がる景色は広大な海!


この時点でラグナは違和感に気がつく。


海……


海……?


「すみません。あの目の前に広がっている湖はいったい……」 


「あ、あちらに見えますのは、湖ではなく海と呼ばれているものになります。」


やはり目の前に広がっているのは海らしい。


ならば違和感の正体は……


「海って独特の匂いがするって聞いていたんですけど。」


「それは賢者リオ様がお作りになられた防臭の魔導具によって、海の匂いが街に入らないように遮断しているからです。」


潮の香りが無い理由判明。


「賢者様は本当に凄いですね。」


まさか街全体を海の香りが入らないようにするなんて。


慣れていれば気にならないかもしれないけど、初めて来た人にはきつい人もいるだろうし。


さすが賢者様って事かな。


部屋の中を進んでいくと、目の前に広がる景色を見てラグナは圧倒される。


「こちらがオーシャンビューの露天風呂になります。」


最上階には海が見渡せるように巨大な露天風呂が設置されていた。


しかも周りからは見えないように仕切られている。


「以上がお部屋の説明になります。ご質問などはございますでしょうか?」


むしろ突っ込み所しか無いんだが……


この階に来てからずっと気になっていた事。


「この階ってもしかして……」


「全てお客様専用のフロアとなっております。」


リオさーん!!


気持ちは嬉しいけどやり過ぎだぁぁぁ!!


絶対今あなた笑ってるよね!


外に向かってそう叫びたい気持ちでいっぱいだった。


「お食事は全てお部屋へとお運びします。ご希望の時間などはございますでしょうか?」


夜と朝の食事の時間を伝えると従業員さんは部屋から立ち去っていった。


「……まじで?」


寝室は何個もあるし、主寝室には何人寝れるんだろうって突っ込みたくなるような巨大なベッド。


そして執務も出来るような机と椅子。


椅子に座ると目の前に広がるオーシャンビュー。


「なに、この勝ち組の部屋は……」


この巨大な部屋に1人で泊まるのか……とため息が出てしまう。





「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」


なんだかんだと昨日は何回も露天風呂に入って楽しんでいたラグナ。


翌朝、食事の最中に従業員さんがやってきた。


「後1時間ほどで商業ギルドから迎えが来るそうです。」


わざわざ商業ギルドから迎え?と疑問に思っていたが、わかりましたと伝えるとそのまま食事を継続していた。


そして今。


たいした距離も無いのにわざわざ馬車に乗っている。


しかも、何だかガチガチに緊張している御者さん。


そして迎えに来た職員さんもずっと一点を見つめたまま固まっている。


本当にすぐに馬車は商業ギルドへと到着した。


『わざわざ馬車に乗って移動する距離でも無いだろうに。』


ご丁寧に裏口から商業ギルドへと入る。


そして、一般の人に一切見られることが無いまま階段を上がっていくのだった。


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