第225話

鬼の形相、鬼のようなご尊顔でエチゴヤ商店を飛び出して行ったエイミーを、ラグナは慌てて追い掛ける。


「ひぃぃ!化け物ぉぉ!!」


エイミーは既にエチゴヤ商店を飛び出して、隣のエチゴヤの宿へと突入していた。


「あ゛あ゛あ゛!誰が化け物じゃぼけぇ!乙女だろうがぁぁ!」 


エイミーはラグナの事を追い出した警備員の胸ぐらを掴むと、そのまま持ち上げていた。


「てめぇ、客かどうかもきちんと調べないで勝手に判断して追い出してるんじゃねぇよ!!お前を紹介したアタシの顔に泥を塗る積もりか!?」


エイミーさんが激怒していた理由判明。


警備として雇ってもらえるようにエイミーさんが紹介していたらしい。


胸ぐらを掴んだままブンブン振り回していた。


なんの騒ぎだろうと人が集まってきている。


『エチゴヤの宿の前でこれはヤバい!』


ラグナが慌てて止めに入ろうとすると、


「なんだ、エイミーちゃんが暴れてるだけか。」


「何の騒ぎかと思ったけど、エイミーちゃんか。」


騒ぎを起こしてる人物がエイミーだと判ると、何の騒ぎだろうと集まっていた住人達がサーッとはけていくのだった。


「えっ……止めなくていいの……?」


呆然とするラグナに、集まっていた住人の1人が話し掛けてきた。


「どうせ持ち上げられてる奴がエイミーちゃんを怒らせたんだろ?ならほっとけ~。こんなん何時もの事だ。」


どうやらエイミーさんは定期的にエチゴヤ商店や宿で暴れてるらしい。


近隣の住民は慣れているのか、ふだんの生活へと戻って行くのだった。


「な、何の騒ぎですか!?ってエイミー様!!お止め下さい!!」


騒ぎに気がついたエチゴヤの宿の従業員達が慌てて出てくると、皆で必死の顔でエイミーを止めにかかる。


何人かは怒り狂う化粧が崩れたエイミーの顔を見て『ひぃぃっ。』と声をあげていたが、従業員根性で必死に止めに入っていた。


従業員達が止めに入っていようが関係無しに暴れ続けたエイミーさんは10分ほど暴れ続けた。


そして急に動きを止めて警備員を投げ捨てた。


「あらやだぁ、アタシったら。ついつい怒っちゃったわぁ。だめねぇ、もう。まだまだアタシも若いわねぇ。気をつけなくちゃ。」


エイミーさんは警備員を投げ捨てると、急に元の乙女モードへと戻るのだった。


「これでいいかしらぁ?本当にごめんなさいねぇ、うちの従業員が迷惑をかけてぇ。」


唖然としているラグナにエイミーは謝罪する。


そして……


エイミーさんは転がっている警備員をひょいっと持ち上げると、


「ちょっと2人で話し合うからこいつ持っていくわねぇ?いいかしらぁ?」


エチゴヤの宿の従業員は、顔を真っ青にしながらもぶんぶんと激しく頷くのだった。


「ありがとう♪それじゃあ借りていくわねぇ。明日の朝になったら返すわね♪」


エイミーさんに捕まった警備員さんは顔を真っ青にしながらジタバタ暴れていたが、耳元でエイミーさんに何かを囁かれると大人しくなり震えているようだった。


「すぐに警備員の手配を。」


エチゴヤの宿の従業員はテキパキと再起動する。


「お騒がせして申し訳ありません。とりあえず宿の中へどうぞ。」


ラグナが客だろうと判断した従業員はすぐに宿の中へと案内する。


しばらくお待ち下さいと、高そうな装飾品が並ぶ部屋へと案内された。


そして5分もせずに宿の関係者だろうか?


ちょっと上の立場のような人が慌てて入って来るとすぐに土下座モードへ。


「この度はうちの従業員がとんだご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした!」


地面に額を擦り付けていた。


すぐにラグナは止めに入る。


「だ、大丈夫ですから!誰にでもミスはありますから!」


あまりにも必死な従業員をなんとかラグナは宥める。


「まさか代表の関係者にこの様な失態をしてしまうとは……本当に申し訳ありませんでした。」


どうやら先ほどから必死に謝罪していた人物は、このエチゴヤの宿マリンルー店の支配人らしい。


ぶつぶつと小さい声で『終わりかもしれない。』と呟いている。


どうやらこの件がブリットさんに伝わった時の事を考えているようだった。


「そ、それで本日はエチゴヤの宿にご宿泊との事ですがご予約名などはわかりますでしょうか?」


後から部屋に入ってきた従業員に支配人は支えられながら、ラグナの宿泊の確認をする。


こんな状態の支配人に見せても大丈夫なのだろうかと内心心配しながらも、賢者リオから受け取った高級感漂う装飾がされている木札を取り出して支配人に見せる。


すると支配人がただ一言。


「あっ、終わった。」


そう言い残し、意識を失うのだった。

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