第224話

「さてと。とりあえず自己紹介しちゃうわねぇ。アタシはエチゴヤ商店マリンルー店の店長の『エイミーよ。よろしくね?」


「ラグナです。こちらこそ、よろしくお願いします。」


エイミーが手を差し出してきていたのでラグナも手を伸ばして握手を交わす。


ねっとりと絡み付くように握手をしてきた。


「まさかあの方からこんな手紙が来るなんてね。本当に驚いちゃうわぁ。君はいったい何者?ブリット様からはあなたの事をサポートするようにとの事だしねぇ。それがエチゴヤとしての決定だって言うのだから、私はそれに従うけどさぁ。あっ、もう一つの手紙はアナタ宛みたいよ~。」


ブリットさんから渡された封筒には2通の手紙が入っていたらしい。


エイミーさん宛と俺宛で。


とりあえず手紙を読むことに。


『無事にマリンルーに到着したようだね。どうかな?水の都は。さて、きっと目の前にいるであろう彼には驚いてくれたかな?彼とは昔からいろいろ繋がりがあってね。信じるに値する人間だと思ってマリンルー店の店長をお願いしたんだ。彼の手紙にはラグナ君の事については一切記していないんだよ。彼に君の存在について、明かすも明かさないも全て任せるよ。きっと明かさない選択をしても彼は全力でサポートしてくれると思うから。それじゃあ、いつかまた会える日まで。』


手紙にはこう書かれていた。


きっとブリットさんはエイミーさんにだけは俺のことを話して欲しいんだろうな。


そんな気がする。


「でも急にサポートって言われてもねぇ……何をどうしたらいいってのよ……ラグナ君だっけ?何かうちにしてもらっ……ラグナ……?ん~??」


エイミーは『ラグナ……?ん?どっかで聞いたことがあるような……ん~??』っと記憶を辿っているような様子だった。


『どっちにしろ気がついちゃいそうだよ、ブリットさん。』


ラグナは心の中で苦笑いしながらも、ブリットさんが信用してる人だから言ってもいいかなという気持ちに傾いていた。


「そんなつもりは無いので自分で言うのも恥ずかしいのですが……ヒノハバラでは一応マリオン様の使徒と一部の方に呼ばれていました。」


エイミーの頭の中でさっきまで思い出そうとしていた事がカチリとハマる。


そして女性の声色から野太い男性の声色へと変化。


「よくぞ!よくぞ、生き残ってくれたぁ!」


オネエサンことエイミーは化粧が崩れるもの気にしないで号泣しながら、その腕力そのままに全力でラグナを抱擁。


あまりの力の強さにラグナは驚く。


『後少しでも身体強化が遅れてたら骨折れてたって!ピキッて音したから!』


少し力を弱めてもらおうとエイミーさんの顔を見てしまった……


「ひぃぃっ……」


我ながら情けない声が出てしまったと思う。


でも仕方ないじゃないか……


エイミーさんの顔は目を中心に化粧が流れており……


夜遅くに出会ってしまったら気を失ってしまうんじゃないだろうかという迫力に満ちたお顔へと変化してしまっているのだから。


「あらやだぁ、アタシったら。ついうっかり力が入っちゃったわね。ごめんなさいねぇ。」


ラグナの悲鳴に気がついたエイミーは慌てて力を緩める。


この時のラグナは決して化粧が崩れたお顔を見てしまったからと突っ込むような事は出来なかった……


「処刑されたって噂が流れたから王都の住民、皆が悲しみに包まれたのよ。ヒノハバラとの武力の差がそこまで無ければ、それこそ本当に戦争になるんじゃないかってくらいにね。アタシだって万が一の時は大暴れしてやるんだからって気持ちになっていたんだもの。」


「本当に処刑場で処刑はされたんですけど……マリオン様から授かったお力のおかげで生き残る事が出来ました。」


ラグナはエイミーの顔の状態には一切触れることなく、ブリットさんとの出会いからこの国に来るまでの事柄を語った。


「アナタもいろいろあったのね……決めた。アタシも全力でアナタをサポートするわ。まずは……ご両親の特長とか教えてくれるかしら?全国にいる仲間に連絡を取ってあなたの両親をアタシも探してみるわ。」


両親を探してくれるというエイミーからの提案にラグナはこみ上げるものがあったが、ぐっと堪えて両親の特長を伝えていく。


「後は何かあるかしら?両親はエーミルダの元貴族で、一時期冒険者だったって言ってたわよね。なんて呼ばれていたか、わかるかしらぁ?」


「確か冒険者仲間からは、疾風とクラッシャーレディーって呼ばれていたと聞いたことがあります。」


「あ゛あ゛ぁ゛?あの2人の子供ってことなの!?」


再び野太い声になった化粧が崩れたままのエイミーさんに、両肩を掴まれて激しく揺さぶられる。


「そ、そうです。妹はブリットさんが保護してくれています。」


「あの2人が行方不明になるなんてね……驚くしかないわ。」


エイミーさんは一時期冒険者をやっていたらしい。


そして父さんと母さんともチームを組んでクエストに行ったこともあるとか。


戦闘スタイルが母さんと同じだったらしく、よくお酒を飲みながら語り合うほどの中だったらしい。


「あの2人なら仲間もよく知ってるわぁ。特に疾風は目を付けられてたからねぇ。2人の事はアタシに任せなさい。」


「今の所、何も情報が無いのでよろしくお願いします。」


「いいのよ。これも縁ってやつかしらね。」


そう言いながらエイミーはチラッと時計を確認する。


「そろそろいい時間ね。今日の宿はどこに泊まるのかしら?それともまだ?」


エイミーさんからちょうどいい質問が来たので、相談する事に。


「実は……」


ラグナからの相談を聞くうちにエイミーは鬼の形相へと変化。


「エチゴヤの看板に泥を塗るような、舐めた真似しやがって!しばき倒してくれるわ!」


化粧が崩れたまま鬼の形相……


まるで何かのモンスターじゃないのだろうかと思いたくなる風貌のまま、エイミーは店を飛び出して行くのだった……

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