第223話

賢者リオが予約したという宿の前へと到着したラグナは困惑していた。


それもそのはず。 


目の前にある宿の名前が問題だった。


「この国にもあるのかよ……」


そう呟いてしまうのも仕方がないと思う。 


ラグナの目の前にある宿。


『エチゴヤの宿 マリンルー店』


賢者リオが予約してくれたのはまさかのエチゴヤの宿。


商店があるのはブリットさんから聞いていたけど、まさか宿まであるとは驚きしかない。


それによく見たら、宿の隣にはエチゴヤ商店が……


『そう言えばブリットさんから手紙を預かっていたっけ。あとでお店を覗きにでもいこうかな。』


ラグナがエチゴヤの宿の前でぼーっと考え事をしていると、宿を警備している警備員の人が近付いてきた。


「そこの君、うちの宿に何か用かな?」


警備員さんからはピリッとした空気を感じる。


「知り合いが宿を予約してくれたので地図通りに来たらまさかのエチゴヤの宿だったので驚いちゃったんです。邪魔しちゃいましたよね?すぐに宿の中に入ります。」


通路の邪魔をしてしまったかと思ったラグナは警備員に謝罪して、宿の中へと進もうとしたが……


ガシッと肩を掴まれて止められてしまう。


「冗談はよしてくれよ。君みたいな子供が泊まれるわけ無いだろう?遊び場所じゃないんだぞ。ほら、あっちにいった!」


しっしっと手でジェスチャーされて宿の敷地から追い出されてしまった。


『えぇぇぇ。』


確かに見た目は子供だし、着ている服も貴族が着るような服ではなくどちらかと言えば旅人が着るような服装だけど。


まさか見た目で判断されて門前払いをされるとは思ってもいなかった。


『どうしよう……』


流石にこんな対応をされるとは思ってもいなかったラグナは呆然としてしまう。


どうしようかと悩んでいると、視界の中にエチゴヤ商店が。


『とりあえず、エチゴヤ商店に行ってみるか……』


少ししょんぼりしながら、エチゴヤ商店の中へと入って行く。


「いらっしゃいませー!あら~?お客さん、見ない顔ね~!可愛らしい坊やだことぉ。この街は初めてかしらぁ?」


商店へと入ってすぐに明るい口調で店員のオネエサン(筋肉ムキムキの男性)に話し掛けられた。


「あ、はい。今日初めて来ました。」


やや短いスカートのメイド服を着ているオネエサンのインパクトにより、不安もろとも全てが吹き飛んだ気がする。  


「ならゆっくり見ていってねぇ。何か聞きたいことがあればオネエサンにいつでも聞いてぇ。優しく手取り足取り教えてあげるからぁ。」


フリフリクネクネと動くオネエサンのスカートの中がもう少しで見えてしまいそう。


ラグナはいろいろな意味で意識しないように心を落ち着かせると、オネエサンに意を決して聞くことにした。


「このお店の店長さんっていらっしゃいますか?」


「店長?坊やは店長に何か用事でも?」


ラグナが店長が今お店にいるか聞いた瞬間に、オネエサンの雰囲気がガラリと変わる。


「えっと……この手紙を店長さんに渡してくれと、とある方から渡されまして……」


ラグナが手紙を取り出そうとすると、その前にオネエサンから一言。


「ウチは取引とかしないのよねぇ。ごめんなさいねぇ。」


どうやら取引を持ちかけるような手紙だと勘違いされてしまったらしい。


「あっ、そう言うんじゃないんです。えっと……これで判りますかね?」


ラグナはそう言うと、ブリットから手渡されていたエチゴヤの証をオネエサンへと見せた。


するとオネエサンの目が見開く。


「あらやだぁ。ごめんなさいねぇ。アタシ勘違いしちゃったわぁ~。まさか坊ちゃんはかの方の関係者なのねぇ。本当にごめんなさいねぇ。じゃあ改めて手紙を受け取っていいかしら?」


そう言いながらバチコンと力強いウィンクがラグナに向けて飛んでくる。


『気にしない。気にしない。気にしちゃ駄目だ……』


何度も心の中でそう唱えながら手紙をお姉さんへと手渡すと、オネエサンは『では失礼します。』と手紙の封を開けて読み始める。


ほぅ。


はぁ。


はぁぁぁ?


あぁぁぁぁ?


オネエサンは次第に力強い野太い声へ。


そして……


「ちょっとアタシと奥に行きましょう。ゆっくり落ち着いてあなたと話がしたいわ。」


そうしてエチゴヤ商店の中にある商談室の様な部屋へと案内されたのだった。

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