第219話

『もうすでに誤った方法で治されてしまったからね~。元に戻すには腹を裂いて、誤って治された器官を再び切って回復魔法を掛けるしかないんだ。』


「つまり手術をするしかないと?」


『そう。問題はそこなんだぁ。日野っちや君が居た世界で行われていたという手術って言葉がこの世界には無いんだよ。』


リオからの衝撃の事実にラグナは驚きを隠せない。


「手術って言葉が無い……?」


『無いんだよ。でもそれは仕方のない事なのかもしれないんだ。』


「仕方のない事?」


『だって考えてごらん?この世界では怪我をした時にはどうする?』


「怪我をした時……?あっ……」


ラグナは賢者リオが言おうとしている意味を理解した。


『気がついたかい?そうなんだよ~。困った事に、この世界ではポーションと呼ばれる回復薬や回復魔法っていう便利な魔法があるんだよ。おかげで外科手術と呼ばれる技術がこの世界には生まれなかったんだぁ。』


確かに怪我をしたりした場合は軽傷ならポーションで。ある程度の重傷でも高位の回復魔法さえ掛ければ治療出来る。


「でも回復魔法でも治らない事だってありますよね?」


『そりゃあるよ。その時はせっかく回復魔法を掛けたのに残念だったね。で終わりなのさ。』


「そんな……」


『君達の世界では魔法が無い替わりにそういう技術が発展したんだよ。日野っちからスマホってやつを一度だけ触らせて貰ったけど、この世界の文明ではあんなものは作れない。充電?出来るような魔道具を作れないか相談されたけど、仕組みがさっぱり判らなかったからね~。』


賢者リオはカメラの仕組みを魔道具で何とか再現出来るようにしたらしいが……


『あれは戦争に便利だからね~。仕方ないけど封印したんだぁ~。ラグナ君が欲しいならあげるよ?その代わり約束は守ってもらうけど。』


カメラの件はとりあえず後で詳しくという流れになった。


『まぁ後は国作りと同時に以前から研究していたコールドスリープの魔道具を本格的に研究して間に合わせたって感じかなぁ~。いや~、あれは以前から研究してなかったら確実に間に合わなかったよ。あの時は一番焦ったかもしれないね。』


本当にギリギリだったんだろうなぁと感じる雰囲気だった。


「そういえば、マリンルーにも王城があるって事は王族が居るんですよね?リオ様が魔道具に入ったって事は誰かが替わりに王族になったって事ですよね?」


『私には様付けなんていらないよ~。私の愛する一番弟子であり、一緒にこの国を作り上げた人物。つまり私の妹が二代目のシーカリオンの女王になったのさぁ。』


「二代目??」


『まぁ一応初代シーカリオンの女王は私って事になってるけどねぇ。あの時は大変だったなぁ。やっと国として形になってきたくらいで身体の限界を迎えちゃってね~。もう誤魔化せないって回復魔法も通じない病気になっていることを公表したんだよ。』


賢者リオがそう発表すると、勇者ヒノがやや暴走気味に単身でシーカリオンへとやってきた。


そして超がつくほど貴重な材料で作られた回復薬をリオへと飲ませようとしたらしい。


『その時に持ってきてくれた回復薬が今私が入っている容器の中の液体の一部なんだぁ~。もしかしたらあの回復薬が無ければとっくに息絶えていたかもしれないよぉ。』


勇者ヒノには失敗する可能性もあるけど魔道具の中で生き続ける事を選択したって事を教えたらしい。


なんで回復魔法さえ効かない病気になったのかと、何度もヒノはリオに対して問いただしたが……


リオは原因不明としか言わなかった。


「なんで言わなかったんですか?」


『え~。そんなの簡単じゃん。元々アージュにはいい感情を日野っちは持っていなかったからね。裏で聖女なんて存在は幻だったのかってぼそりと呟いていたからさぁ。あの2人に何があったのかは知らないよ?つまり、私がこうなったのはアージュのせいだ~なんて教えたら……確実に戦争だったよ。』


魔王という世界の驚異がやっと無くなったというのに、人族同士で戦争になるなんてリオは嫌だった。


『だから日野っちには言えなかったんだよ。まるで本当の妹のように彼には可愛がって貰ってたからね。一応、私が魔道具に入った後に妹がこの国を継ぐ事を日野っちに伝えると、彼も支持するって公表してくれる事になったんだ~。私の妹も一流の魔道具職人としてだけでなく、国作りを共に行ってきた重要なメンバーだとは市民に知れ渡っていたけどね。それだけだとちょっと不安だったんだ。だからマリオン様に御告げで後押ししてもらう予定だったけど、更に魔王討伐を成した勇者ヒノの支持も加わって盤石な体制を築くことが出来たんだぁ。』


そして多少の混乱はあったものの、妹へと国を託していよいよ魔道具の中へ。


『あの日は妹と日野っちと初代エチゴヤの3人だけでなく、守護の女神サイオン様とマリオン様も現世へと降臨してくれてね。ある意味最強の存在の方達に見守られながら魔道具の中に入ったんだ。そして日野っちとサイオン様とマリオン様の魔力?が魔道具に注がれた後に、妹がスイッチを入れて魔道具が起動したんだぁ。』


「マリオン様だけでなくサイオン様まで……」


現在よりもやや身軽に女神様が現世へと降臨していたことに、やはり驚きを隠せないラグナだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る