第218話

「でもなんでそこまでして……?」


自分自身を魔道具に封じ込めてまで永き時を過ごす意味がラグナには理解出来なかった。


『うーん……何でそこまでしてかぁ。長くなるけど聞きたい?』


彼女の雰囲気が少し変化した気がする。


ふざけているような感じが消えた。


「ここまで知ってしまったので。出来れば聞きたいです。」


『仕方ないなぁ……んじゃとりあえずほれ。』


彼女の肉体の目の前に一人用の椅子が突如現れた。


「流石にこの位置は……」


本人の裸を見ながら普通に会話など出来るわけがない。


『別に照れること無いじゃないかぁ。見る分ならタダだよ!鍛えていたから自信はあるんだけどなぁ。』


そう言われると悲しいかな。


チラッと確認してしまった。


『おっ!!興味が無い訳じゃないのかぁ。どうよ私の身体は?』


少し恥ずかしいが、正直に答えることにした。


「可愛らしく、とても魅力的だとは思います。」


そう答えるラグナの顔は既に茹で蛸状態だった。


『そうか、そうか。照れるくらい魅力的なのか。』


「そ、それよりも何故ここまでして?」


これ以上はイジられてたまるかとラグナはすぐに話を戻すことに。


『もうちょっと付き合ってくれたっていいじゃないかぁ~。まぁいいか。本当に長くなると思うから椅子に座ってよ。』


椅子に座るように促されたのでなるべく前を見ないようにしてラグナ君は椅子に座る。


『きっかけは簡単。国作りの前に身体が持たなかったんだよ。』


「身体が持たなかった?」


賢者リオのその言葉が気になり、改めてチラッと目の前の女性の身体を見てしまう。


『そんなに興奮しながら私の身体を見たって表面的にはわからないさぁ。』


ラグナは動揺しないように心掛けて、普通に話す。


「内臓とかって事ですか?」


『うーん……なんて説明したらいいのかなぁ。まぁいいや。ちょっと昔話をするよ。』


そして賢者リオは語り始めた。


それは魔王討伐直後の話。




「わレがコんな所でェぇェ-!!ぐぁァぁァ!!」


勇者ヒノの持てる全てを振りかざし、遂に魔王を討伐。


「はぁはぁはぁ……倒した……はぁはぁはぁ……ついに魔王を倒したぞーー!!」


勇者パーティーは満身創痍になりながらも魔王を討伐する事が出来た。


「うっ……」


賢者リオは痛みが走りお腹あたりを思わず手で押さえてしまう。


リオは魔王やその配下から放たれた魔法をひたすら魔法防御の魔道具を発動して味方への攻撃を防いでいたが……


最終決戦の際に魔王から放たれた魔法を現状の魔道具では完全には防ぐ事が出来なく、身体のあちこちを負傷していた。


「あら?リオさん、怪我をしていらっしゃったのですね?勇者様に夢中で気がつきませんでしたわ。」


聖女アージュはわざとらしくリオにそう伝える。


この時リオは内心『絶対に気がついていた癖に』と思いながらも口にすることは無かった。


「さすが魔王だよ。四天王の魔法すら完全に防ぎきったこの魔道具が魔王相手には通じなかったんだから。」


「仕方ありませんわねぇ。まだ魔力に余裕はありますので。ほらっ。」


聖女アージュの回復魔法による治療。


賢者リオの悲劇は全てはここから始まったのだった。



『最初はね。魔王討伐っていう激しい戦闘の後の疲れが溜まっていたんだろうと思っていたんだよ。でもね、月日が経つにつれて明らかに体調が悪くなっていったんだ。』


賢者リオは話しながらもため息を吐くような仕草の声を出していた。


『流石にこれはおかしいと思ったんだよ。だんだんと目が回りまともに歩けなくなってきたり、吐血するようになったり……ポーションを使おうが神官に回復魔法を掛けてもらおうが全く効果は無くてね。本気でヤバいと思ってマリオン様に連絡をしたんだ。』


ラグナはこの話を聞きながらどんな病気だったのだろうか?と想像していた。


しかし、


マリオン様からの回答はだいぶ予想とは斜め上の答えだった。


『回復魔法を悪用されています。』


リオですら最初は理解出来なかった。


回復魔法に悪用もなんもあるのかと。


『意図的に負傷した部分を正常に回復させないで違う器官などと繋がるように回復させられています。』


マリオン様からの回答にリオは驚きつつも、やはりと納得してしまった。


『聖女アージュはね。私のことが邪魔だったんだよ。勇者を手に入れるにはね。』


まさか聖女と呼ばれる存在の人がそんな事をしていたのかと、ラグナは動揺を隠せない。


『聖女アージュは何としても勇者ヒノを伴侶としたかったんだよ。最低でも勇者の子種は手に入れたかった。そうすれば聖女アージュと言う存在がより神格化されるからね。でもね、日野っちにはその気が全く無かったんだよ。あの人は他に思いを寄せている存在が居たからね。アージュは日野っちが思いを寄せている存在が私だと勘違いしていたんだ。つまり私を消せば、悲しみに暮れている勇者ヒノを落とすことなど容易いとね。』


あまりにも衝撃的な告白に言葉が出なかったラグナであった……

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