第217話

「何なんだよ、これは!」


目の前の光景に思わず叫んでしまった。


光の道を辿った先にあった物。


それは……


円柱型の巨大な透明の容器。


何かの液体で容器は満たされていた。


その容器には何本ものパイプが接続されており、液体が循環しているようだった。


そして容器の中にいる存在。


まだ10代後半ほどの裸の女性が容器の中に閉じ込められていた。


何か、人体実験でもしていたんだろうか?


「なんて惨い事を……なんでこんな物をマリオン様の神殿が管理してるんだよ……」


『それはだね。何でだと思う?』


「っ!?」


部屋の中から突如声がした。


「誰だ!?」


『誰だとは連れないなぁ~。ウチだよ~、ウチウチ!』


この感じ。


どこかで……


『本当に覚えてないの~??海神国シーカリオンの王都にある神殿で君をずっと待ってるって言ったじゃない!!シーカリオンで僕と握手って!!だから来てくれたんじゃないの??』


この声、この感じは1人?しか思い当たらない。


「……あの意味わかんないテンションの魔道具の声の人?」


ピンポーンっと効果音が鳴る。


『も~、気が付くのが遅いんだからぁ。僕と君の仲だろ~。』


どんな仲だよ!って突っ込みたい気持ちを抑えて、先ずは言わなければいけないことがある。


「あの時は本当にありがとうございました。」


間に合わなかったけど、村の皆を弔うことが出来た。


それに……村の子供達、妹のメイガ、ハルヒィさんを助けることも出来た。


もしもあの場で捕まっていたら……


村に駆けつけることなんて出来なかった。


結果はどうあれ本当に心から感謝していた。


『君の助けになれたなら良かった……それにしても、ここに来るのはもっと後かなぁって予想してたんだよな~。』


「ここは何処なんですか……?それに目の前にいる女性は……」


目の前にいる裸の女性。


あまり見ないように気をつけているけど……


何故かその容器だけ綺麗にライトアップされているので、どうしても明かりを求めると視界に入ってしまう。


『ここはねぇ……シーカリオンの王城の地下施設だよ!流石に今の君を王城に招待するのはいろいろとマズいからねぇ。』


「王城!?マリオン様の神殿の地下施設じゃないんですか!?」


ラグナは更に引っかかる言葉に気が付く。


「王城に招待??」


マリオン様の地下施設だと思っていたら、いつの間にかシーカリオンの王城の地下施設に移動していた。


そしてこの声の主は王城に人を招待する権限を持つ人物……


「あなたはいったい……」


『ふふふ~。ある時は実況中継、ある時は試験の採点係り。またある時は学生達を見守り手助けする聖母。その実体は……』


絶妙な間に思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。


『初代勇者パーティーの1人、賢者リオとは私の事だぁぁぁ!!』


バーンとでも言うような効果音と部屋全体の照明のライトアップと共に驚くべきことを聞いてしまった気がする。


あまりにも驚いてしまい、固まってしまったラグナに満足したのか賢者リオはさらに驚くべき発表をする。


『そして目の前でラグナ君からチラチラと熱い視線を浴びている女性こそ……私の生身のボディーなのさ!』


わぁぁと言う人々の声の効果音が部屋へと響く。


「本当に……あなたは賢者リオなのか?」


確かに勇者ヒノの事を日野っちと呼んでいたような手紙を貰ったから違和感があったんだ。


何故勇者ヒノを日野っちと呼べるのか。


そして俺が勇者ヒノと同じ世界から来たことを何故知っているのか。


『私こそがシーカリオンの初代女王賢者リオ!そして今も国を裏から支えている存在なのさ!』


さっきから驚きすぎていろいろと情報が頭に入ってこない。


「でも勇者ヒノが活躍したのは遥か昔のはず……」


何故数百年もの間、生きているのか……


『だからこその目の前の魔道具なんじゃないか~。君は聞いたことがあるんじゃないか?コールドスリープって言葉を。』


コールドスリープ?


人工的に冬眠状態にさせて人体を保存する技術だっけ?


「でもあれって向こうの世界でもまだまだ技術が……」


『そうなんだよ~。いろいろな生き物で実験したんだけどさぁ……魔法で極低温状態にして仮死状態には出来るんだけど、蘇生が上手くいかないんだよねぇ。』


あっちの世界でも、確かまだ蘇生の技術は確立されていなかった気がする。


『でも私天才だから~!魔道具に意識を移して身体を保存すればいいんじゃね?って事でやっちゃったら出来ちゃったんだよね~!』


簡単に出来ちゃったと言っているが本当に天才なんだと思う。


「でもなんでそこまでして……?」


そこが最大の疑問だった。


何故自分の身体を魔道具に封じてまで生きてく事を選択したのか。


彼女の口からそれは語られるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る