第211話

「秩序の女神、エミア様……お願いがあります。」


ラグナからの申し出にニヤリと笑うエミア。


『まぁ何を願うかなんて判ってるけどねぇ。』


ラグナは意を決してエミアに願い出る。


「彼女を解放しては頂けないでしょうか?」


あはは、と笑いながら秩序の女神エミアは手でバツをつける。


「それは無理だねぇ。これは決められたルールだからさぁ。」


無理だと頑なにエミアは拒否を伝える。


「しかし、彼女は私を助けるために行動したのです。」


「そこが一番の問題なのさぁ。神々はそう簡単に地上への介入は出来ないのだよ。まして契約者とはいえ、一個人を助けるために他の者を亡き者にしようなどというのは、ルール違反なのさぁ。君だって身を持って体験したはずだよ?何せ新神が暴走した結果、君は命を一度失ったのだから。それと同じさぁ。」


「でも今回は僕を助けるために……」


エミアは首を振る。


「過程はどうあれ、やろうとした事は同じなのさぁ。これでも消滅させてないだけ譲歩したつもりだよ?」


エミアに交渉するラグナに対してサリオラは待ったをかける。


「ラグナ、もういいの。これは未熟な私が暴走した結果の罰なの。私は罰を受け入れているから。」


「でも!!」


「ここでラグナが動いてラグナの身に何かが起きる方が、私はイヤだよ。だから魔力を抑えて。」


サリオラがそうラグナに伝える。


ラグナは感情が高ぶってしまい、先ほどかなりの魔力を吸収されたのにも関わらず無意識に魔力を身体に纏っていた。


「まぁ実力行使をしてもいいけどねぇ。今の君ならば簡単に抑えられるし。そうだ!!いいよ!実力行使をしてきなよ!そうしたら私はルールに従って君を罰する事が出来るからさぁ!罰はそうだね……君が死ぬまで私の物になるってのはどうだろうか?君は魂はどうあれ、まだ身体は幼い。私好みに育てるって経験を一度はしてみたかったのさぁ。もしかしたら将来的君との間に子供が産まれるかもしれない。それはそれで楽しそうだねぇ……」


そう言いながらエミアは舌なめずりをする。


身体中がゾワゾワっとしたラグナはすぐに魔力を抑えて、降参のポーズをする。


「やらないのかぃ?残念。まぁマリオンにもグチグチ言われそうだから、今は諦めるよ。……本当にやらなくていいのかぃ?」


「そういうのはちょっと……」


今まで会った事が無いタイプの女神様にラグナは恐怖を感じていた。


『まさか女神様でもこんな感じの方がいるなんて……綺麗な人だとは思うけど……』


「君はこういうのは好きじゃないのかい?女神だっていろいろいるのさぁ。」


ラグナはすっかり忘れていた。


何故か創造神様や女神様には考えが筒抜けになっていることを……


「ご、ごめんなさい。」 


「なに、仕方ないさぁ。でもまぁ、綺麗って言ってくれたからね。そうだね……このままこの子とお別れというのも契約者としては辛いところだろう?」


さすがにこのままサリオラとお別れなんて辛い。


「このまま別れるのは嫌です……」 


「じゃあこうしようかぁ。今は確か月に一回だけ降臨出来るんだよね。ならば月に一回だけ連絡を取ることを許可しようじゃないか。」


以前のように好きなタイミングで連絡を取ることは出来なくなってしまったが、エミアの提案により月に一回だけ連絡を取ることが許された。


サリオラとラグナは目が合うと頷き、エミアの方を向く。


そして、


「「本当にありがとうございます。」」


「今回だけ特別だよぉ。サリオラ、君は契約者であるラグナ君に感謝するんだねぇ。未遂とはいえ過ちを犯そうとしたのは事実だし、本来なら消滅させられても文句は言えない立場なんだからさぁ。」


「はい……この度は誠に申し訳ありませんでした。」


「まぁ、しばらくは大人しく反省しているんだね。さてと……そろそろラグナ君はあっちに戻らないと。神ではない君が長居してもこの空間は良いことなんてないからねぇ。」


神ではない者が長居してはいけない空間とはどういう意味だろうか。


「それはまだ君は知るべきではないし、私の失態だねぇ。それじゃあもう聞きたいことは無いかい?」


聞きたいことといわれて、頭に思い浮かんだ事が一つだけ。


「マリオン様と連絡を取りたいのですが可能でしょうか?神殿ではしばらく連絡が取れないと言われたので…………」


「あー……それは無理だねぇ。マリオンも創造神のじいさんも魔法神もみーんな忙しいのさぁ。まぁしばらくは無理じゃないかな?」


創造神様も忙しい……?


神界で何か起きてる?


「落ち着いたら、君ならばいつか説明してもらえるんじゃないかな?それじゃあもう時間切れだよ。」


改めてサリオラを見つめる。


「ラグナ……」


「サリオラ……またね。」


「うん、またね。」


はぁぁぁと深いため息と共に意識が遠のいていくのだった。

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