第210話

エメラダの街を出発してから数時間。


ラグナは軽く身体強化魔法を発動させて、ずっとジョギング程度の速度で走り続けていた。


しかしら徐々に日は落ちてきて、暗くなり始めてきている。


周囲には夜営を準備している人影は無い。


何故ならばラグナがいる場所から少し戻った所に、小さいながらも宿泊出来る施設がある村があるからだ。


あまり詮索されたく無かったラグナは、村を素通りしてそのまま走り続けたのだった。


「あそこにちょうど良さそうな木が2本あるし、今日はあの上にハンモックでも張ればいいかな。」


完全に日が落ちきる前に木の上に登り、ハンモックを張る。


「今日は料理って気分でもないし、出来合いの物でも収納から出して食べればいいかな。」


とりあえずと夜営するにあたって必需品の蚊取り線香とフェンリルの尿を設置。


「これで虫除け、獣避けは完了っと。」


ぴょんぴょんと木に登り、ハンモックに腰掛けると収納から食事を取り出す。


ハンモックのバランスがくずれないように魔道書が頑張ってくれているらしく、とても安定して座れた。


そしてラグナの周囲だけを照らすようにLEDランタンを発動させると食事をとる。


今日の晩御飯はエチゴヤで準備してくれた品々。


「ごちそうさまでした。」


手を合わせて食事を用意してくれたエチゴヤのみんなに感謝の気持ちを込める。


「さてと……」


食事のゴミは全て収納スキルに仕舞うと、LEDランタンの光を消して夜空を見上げる。


「この世界に来てから星を見ることが多くなったな。そう言えばこの世界には他の星に生物がいたりするんだろうか?」


そんな事を考えたりもしていた。


そして収納スキルから『ある品』を取り出す。


ゴテゴテに装飾されてしまってはいるが、サリオラから貰った大切な品。


装飾されている部分に向けて収納と頭の中で唱えると、装飾されていた部分だけが収納された。


「良かった。収納出来た。」


サリオラから貰った宝石はどうやら加工する事が出来なかったらしい。


紐を通す穴が開いたままになっていた。


収納からちょうどいいサイズの紐を取り出すと、宝石に紐を通して結ぶ。


そして以前と同様に首からぶら下げる。


すると何かが繋がった気がする。


ビリッとした感触が伝わってきた。




ラグナ……


ラグナ……起きて……


女の子の声が聞こえた気がする。


ラグナ……ねぇ、ラグナ……


何だろう。


身体に力が入らない。


ダルい。


でも目を開けなきゃいけない気がする。


身体中に魔力を込めてようやく眼をあけることが出来た。


すると目の前には……


「ラグナ!!」


「サリオラ!!」


目の前には牢らしき場所に入れられたサリオラが。


そして俺を必死に呼びかけていた。


「今助ける!!」


ラグナが牢屋を触ろうとする瞬間、


「だめぇぇぇ!!」


サリオラが慌てて止めるもののラグナは牢屋の仕切りをがっしりと掴んでしまう。


『えっ……』


掴んだ瞬間に身体中の魔力が一気に抜けていく感覚に包まれ、慌てて手を話したものの膝をついて座り込んでしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ。なんだこれは……」


「おやおや~。誰かが侵入してきたと思ったら、可愛らしい少年じゃないか。」 


突然、ラグナの耳元で囁く女性の声が聞こえた。


一気に魔力が抜けた為、身体が思うように動かない。


そしてふわりと身体が浮かび上がる。


ふわりと浮いた身体はゆっくりと後ろに現れた人物?の方を向いていく。


「貴女は……」


ラグナの目の前には片目に眼帯をしている黒髪の女性が腕を組んで立っていた。


「駄目じゃないかぁ。彼女は今ルールに従って謹慎中なんだから。そもそも君はどうやって……?」


ジーッと見つめられる。


身体の力が入らないのでされるがままだった。


「そういうことかい。君は彼女の契約者であり、マリオンとも繋がりが。そして創造神のじいさんの……ねぇ。だからこっちに飛んでこれたのか。これはじいさんに一言文句言うべきだな。」 


目の前の女性はジーッと見た後に何やら一人で納得していた。


「失礼ですが、貴女は……?」


「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は秩序の女神、エミアだよ。よろしくね?ラグナ君。」


ラグナのもとに現れた人物?はエミアという秩序の女神だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る