第209話

さほど時間は掛からずに、サボンヌさんは荷物を抱えた職員と共に戻ってきた。


「荷物はそこのテーブルに。」


部屋の中心にあったテーブルに準備した荷物がドスンと置かれた。


置く瞬間、やけに重そうな音に聞こえた。


そして荷物を抱えてきた職員が、ラグナのことをチラ見していた。


この子供がこれを背負うのかと思ったのだろうか?


サボンヌもその視線に気が付いたのか、すぐに職員に話し掛ける。


「ここは私が担当するから君は戻っていいよ。運んでくれて、ありがとう。」


サボンヌは荷物を運んできた職員を労うと、部屋から下がらせた。


「お待たせしました。とりあえずラグナ様は背嚢などもお持ちでは無い様子でしたので、こちらで用意させて頂きました。」


そういえば何でもかんでもすぐに収納して手ぶらになる癖がついていた。


確かに普通に旅をするなら背嚢くらいは背負っていないと怪しまれるよな。


「本当にありがとうございます。助かりました。」


ラグナはサボンヌに心から感謝を伝える。


「こちらこそ、ラグナ様のお手伝いが出来たとあればとても名誉な事です。背嚢の中身ですが、日持ちする食材をメインに調味料や小さめの調理器具、下着などの着替えなども収納してあります。大の大人が背負う量とあまり変わらない為、普通の少年には背負うことも厳しいかと思いましたが……武勇に優れるとのお噂があったのでこの量で準備しました。……大丈夫でしたでしょうか?」


流石に大の大人でも重いと思う量を詰め込んではみたものの……


サボンヌは少し不安に思う。


いくら使徒様でもこの量は厳しいのかもしれないと。


腰を痛めている自分は持ち上げることすら出来なかった。


無理をして持ち上げると、腰が魔女の一撃によって立ち上がることすら困難になるかもしれないとの恐怖を感じるくらいだった。


サボンヌのそんな不安をよそにラグナは軽く身体強化魔法を発動させると背嚢を持ち上げて背負ってみる。


『ちょっと重いのかな?でも、これくらいなら身体強化魔法を使わなくてもいけるよな。』


ラグナは身体強化魔法を切るとその場で軽く跳ねたりしてみせた。


軽々とあの背嚢を持ち上げ、更に飛び跳ねる姿を目の前で見たサボンヌは改めて使徒様は素晴らしいと再認識する。


許されるのならばラグナ様に向かって祈りを捧げたいくらいだと。


「サボンヌさん。本当にここまでして頂き本当にありがとうございます。お金の方は僕の口座から引き落として貰えますか?」


ラグナからのお願いに首を振るサボンヌ。


「それくらいはラグナ様のお手伝いをさせて下さい。」


「でも……」


ここまでしてもらっても返せるものが無い。


「ラグナ様は嫌がるかもしれませんが……やはり我々からすればラグナ様は希望なのですよ。長期にわたり行われてきたヒノハバラから嫌がらせ。武力をちらつかせながらの和平交渉や商品の取引。一方的な搾取。現王になってからはだいぶマトモになりましたが……ここ最近は雲行きが怪しい。今後はどうなるか判らない。だからこそラグナ様は我々の希望なのです。もちろん私には立場もありますし、マリオン様の願いを破るわけにもいかない。ならばせめてこれ位はお手伝いさせて下さい。」


サボンヌはラグナの両手を再びがっしりと掴むと笑顔でそう答える。


ここまで言われてはラグナも相手からの好意を断ることなど出来なかった。


「……ではお言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます。」


「いえいえ。こちらこそ、本当に生きていて下さり本当にありがとうございます。」


ヒノハバラとは違い、この国ではマリオン様の使徒という言葉の意味が重い。


少しばかりプレッシャーを感じてしまう。


「それじゃあ、そろそろ出発しようと思います。」


ラグナはプレッシャーから逃げるように出発を伝える。


個室から出るとそのまま裏口へと案内された。


「それでは王都までの旅の安全をお祈りしています。お気をつけていってらっしゃいませ。」


サボンヌは裏口の扉をあけると、ラグナに対して無事を祈る。


「こちらこそ、ここまでしていただき本当にありがとうございました。それじゃあ行ってきます。」


身体に似合わないサイズの背嚢を背負ったラグナはエメラダの街を後にするのだった。




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