第208話

ラグナの資産はマリオン様と商業ギルド、商業ギルド神殿の素早い対応にて守られた。


「ラグナ様の資産については、後ほど新しく作られた口座へと移動するように手続きいたします。特許のお金については、月に一度商業ギルド神殿よりラグナ様の口座へと振り込みますのでご安心下さい。」


「わかりました。本当に、いろいろとありがとうございます。」


ラグナは改めてタチアナに感謝を伝える。


「それでは私達は手続きを完了次第、ヒノハバラへと戻ることにします。改めて、この度は守護の女神の神殿の暴走を防ぐことが出来なく申し訳ありませんでした。」


タチアナさんと何故かサボンヌさんも頭を下げて謝罪してきた。


「マリオン様の神殿は一切悪くないですよ。こちらこそ、いろいろと協力していただき本当にありがとうございました。帰りはお気をつけて下さい。もしも会うことがありましたら、アムルさんとブリットさんにも本当にありがとうございましたとお伝えして頂けますか?」


「一字一句、必ずお伝えします。それでは失礼します。」


タチアナさんはとても綺麗な動作で頭を下げると部屋から退出していこうとしていた。


思わず見とれてしまう。


ドアをあける直前、タチアナさんがこちらに振り向く。


「一件だけ。例の机ですが……王都マリンルーにある商業ギルド神殿へと渡して貰えると、とても助かります。」


「商業ギルド神殿へですか?わかりました。マリンルーの商業ギルド神殿に到着したら引き渡しますよ。」


ラグナがそう伝えるとにっこりと微笑んで『それではまた会う機会がございましたら今度はお食事でも。お元気で。』と言葉を残して退出していった。


さて。


俺も動き始めるか。


ルートは頭に叩き込んだし。


「ラグナ様、商業ギルドにて馬の手配を致しましょうか?流石にマリンルーまで徒歩というのは、いささか無謀かと思われますので……」


サボンヌさんもタチアナさんと全く同じ事を考えていたらしい。


でも知らない人と2人旅もやりたくないし……


だからといって1人で馬の世話をするのも大変だ。


「どうにかなると思うので大丈夫です。」


サボンヌは本当に大丈夫か不安になるが、すぐに答えに行き着く。


「あぁ、そういう事ですか……我々には話すことが出来ない使徒様用の何かしらの移動手段があるのですね?それは失礼しました。」


『なんか勘違いしてるけどまぁいいか。確かにダッシュメイルとかホバーシューズはあるけど。流石に間者に見られたらすぐにバレそうだから、当分は使う予定は無い。』


にこにこと笑いながらサボンヌさんの勘違いをそのまま誤魔化す。


「それでラグナ様はこれからどうするので?本来ならば是非この街の観光でもとオススメしたいのですが……最近この街でもちらほらと間者らしき怪しい人物がこの街に来ていると報告が先日あったばかりでして……」


「もしかしてヒノハバラからですか?」


「まだ確定では無いのですが……たぶん、ヒノハバラからでしょう。ここ最近あの国の動きが怪しいのですよ。まぁ一番怪しい動きをしてるのは公爵ですがね。」


確かに。


あの王が何故か公爵を処罰しないで大人しくしている時点で違和感しかないし。


あんまり思い出したく無いけど……


処刑場で王と目があった時の違和感。


ただジッと見つめられていた気がする。


まぁ、今更考えたってどうにもならないけど。


「今回は観光を諦めて最低限の買い物だけして出発する事にします。それで一つお願いがあるのですが。」


「お願いですか?ラグナ様からのお願いでしたら出来る範囲で最大限努力致します。」


「そこまで無理難題を言うつもりはありませんよ!ただ旅に必要な食料品や調味料、保存食を売っているオススメのお店があれば教えて頂きたいのですが……」


「その程度でしたら商業ギルドで用意しますよ?うちのギルド併設のレストランでも使うので食料品は魔道具の倉庫で保存しているのですよ。」


「確かに、僕では目利きなど出来ませんし……じゃあお願いしてもいいですか?」


「承りました。何日分ほど用意致しましょうか?さすがに王都までの分ですと莫大な量になってしまいますので、隣町への移動日数分+数日分でいかがですか?」


『さすがにサボンヌさんに収納スキルを見せる訳にはいかないし。エチゴヤで用意してもらった分も大量にあるからな。』


「それで大丈夫です。そういえば隣町って確かカーリントーって名前ですよね?変わった名前をしてますよね。」


カーリントーってどう考えても『かりんとう』だし。


「確かに変わった名前をしていますが、それは由来があるのですよ。それについては街についてからのお楽しみと言うことで。それではご所望の品を用意致しますのでしばらくおまちください。」


そう言い残してサボンヌは部屋を退出するのだった。

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