第212話

ゆらゆら


ゆらゆら


「……ん…ん?」


身体が揺すられて意識が戻る。


「あ、あれ?もう朝……?」


すでに日は登り、外は明るくなり始めていた。


「まさか意識を失ってそのまま寝ちゃってたのか……全然寝た気がしない……それに身体がもの凄くダルいな……」


まるで魔力欠乏症にでもなった後のようなだるさだった。


「それもそうか……牢を掴んだ時に一気に魔力を持っていかれたのに、無意識とはいえそのあと魔力を絞り出していたんだから……」


ゆっくりと身体を起こす。


やっぱりダルい。


「起こしてくれてありがとね。」


ハンモックに変化している魔道書をポンポンと優しくタッチして感謝を伝える。


「うーん……動くのダルいなぁ……」


ハンモックから飛び降りる。


収納からウォータージャグを取り出して木に引っかけ、コックをひねる。


冷たい水を両手で受け止めて顔を洗うものの……


「さっぱりはするけどダルいのは変わらないかぁ……久々だなぁ、こんな感じになるのは……魔族と戦った時に比べれば全然マシなんだけどね。」


今日は移動しても対して距離を稼げそうにない。


「まさか街を出て1日でこんなんになるなんてね……とりあえず蚊取り線香とフェンリルの尿は新しいのに交換っと……」


今日はのんびり1日休憩しよう。


とりあえず……


風魔法で周囲の雑草を一掃。


そのまま刈った草は魔法で吹き飛ばす。


どうせ周囲に人はいないし、身体もダルいので大雑把になっていた。


「後は椅子かぁ……土魔法で作るか……?」


すると例のごとく頭の中に声が響く。


『ローチェアを召喚しますか?』


あれもこれも考えた時は聞こえないのに、こうやってボーッとしながら考えたりすると出てくるんだよな。


「ローチェア召喚!」


今回も魔道書が光り輝くと見事なローチェアへと変化した。


「おぉ、身体が包まれるこの感じはまさに前世で使っていた時のような椅子だ!」


深く座り込むともう動くことすら億劫になりそう。


だらける前に椅子に座ったまま土魔法で目の前にかまどを作り、収納から取り出した炭を乱雑に放り込む。


そして、着火材のジェルをドバドバと適当にかけて火の魔法をポイッと投げつけて着火。


しかし、ここで問題が発生する。


「おわっ!?」


あまりにも適当に着火材のジェルを大量にかけた結果……


一気に炎が広がったのだった……


「目の前であんなに炎があがるなんて……まじでびっくりした……さすがにダルいからって適当にやり過ぎたか。」


ちょっと心臓がドキドキしてしまっている。


前世と違って身体が丈夫になったからと危機感が薄れていたのかもしれない。


「どの世界でも火は危ないって事は忘れないようにしないと……まさかこんな失敗するとは思ってもいなかった……」


ローチェアとなっている魔道書からも激しい抗議が行われている。


ドンドンと椅子に座っているラグナをたたく。


「びっくりさせてごめんって。ん?違う……?」


ローチェアをよく確認するとほんの少しだけだが、焦げたような跡がついていた。


「ちょっと燃えた……?」


手で擦ると焦げたような後は消えた。


煤汚れだったらしい。


ずっと激しくガタガタと動いてラグナへと抗議をしている。


椅子から立ち上がると、見た目ローチェアに変化している魔道書に謝罪する。


「本当にごめんね。次からはもうしないように気をつける。」


さすがに魔道書に怒られてしまった。


お詫びにまだ完全に回復はしていない魔力を魔道書に流し込む。


ラグナから魔力を貰い、少しだけ機嫌が良くなった感じがする魔道書(ローチェア)から次からは気をつけるんだぞとでも言っているかのようなオーラを感じた。


あれだけ一気に着火が燃えたのにも関わらず、かまどに乱雑に置かれた備長炭には着火していなかった。


どうやら適当にジェルを撒いただけでは備長炭に火はつかなかったらしい。


乱雑に置いた炭を一旦収納。


以前焚き火で使用し、着火したまま収納していた備長炭と木の枝、枯れ葉を取り出して並べていく。


すぐに木の枝や枯れ葉に火が移り着火。


そこへ先ほど失敗した備長炭を投入していく。


そして風魔法で優しく風を送り続ける。


30分ほどで新たに投入した備長炭にもようやく火がついたのだった。








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