第207話
「お待たせしました。こちらが新しいギルド会員証になります。」
サボンヌさんから新しいギルド会員証とナイフが手渡された。
「やり方は覚えてらっしゃいますか?」
「はい、大丈夫です。」
ラグナは手渡されたナイフで指先を少し傷つけると、ギルド会員証の裏面の窪みに血を一滴垂らす。
すると以前と同様に会員証が発光する。
すぐにタチアナさんからきれいな布が手渡されたので止血。
「無事に登録は完了しました。お疲れ様です。」
ラグナはふと気になることを思い出した。
「俺って商業ギルド内では既に亡くなった扱いなんですよね?それじゃあ、お金とか特許ってどうなっているんですか?」
サボンヌさんが答えるものだと思ったがタチアナさんが説明を始めた。
「ラグナ様の資産については死亡届けが出される直前に全額神殿に資産を移動しております。特許についても神殿が全て買い上げたという形になっております。この件に関しては、ラグナ様の許可を取らずに勝手な真似をしてしまい申し訳ありません。」
何故そうなったか……
タチアナはラグナに語り始めた。
ラグナが守護の女神の神殿の手により捕まり異端者として発表された日。
商業ギルド神殿にてマリオン様からの緊急のお告げがあった。
内容は以下の通り。
『ヒノハバラにて我が使徒の資産を狙う動き有り。早急に資産および特許の移管をせよ。』
マリオン様からの指示はすぐにヒノハバラ王都統括商業ギルド長アムルへと伝えられた。
そしてアムルと極一部の職員の手によりすぐさま手続きは完了。
移動した資産の中には、パスカリーノの家の資産も含まれているらしい。
神殿へのラグナの資産や特許の移動完了の半日後に、ヒノハバラの役人が商業ギルドへと来場。
異端者ラグナの資産を没収するのですぐに資産をヒノハバラ国へと移動するようにと商業ギルドに指示してきたらしい。
しかし、既にラグナの口座には資産が残っていない。
「申し訳ありません。既にラグナ様の口座には資金が入っていない様子でして……」
「なんだと!?では異端者ラグナの資産はどこへと消えたのだ!!」
本当に何も知らされていない商業ギルドの職員は淡々と事実のみを申していく。
「ギルドの口座より下ろされた資金については私共の管轄ではございませんので。」
職員の淡々とした態度が気に入らない役人は、怒鳴りつけながら次の指示を伝える。
「ならば奴が持っていた特許があるだろう!!それを今後は、わが国が管理する!!すぐに手続きするんだ!」
「はぁ。」
役人の横暴な態度に呆れながらも一国の指示だからと渋々調べていく。
そもそも国が相手ならば普段は個室が使用されるのだが、この職員はそんな事をしなかった。
何故なら、ラグナの事を何度か目にしたことがあるから。
王都の商業ギルドで見かけた事もあるし、たまたま学園内にある商業ギルドへと人欠の為の応援に行った際には直接話をしたりもした。
役人の対応をしている女性職員は、以前ラグナが学園内の商業ギルドに立ち寄った際に対応した職員だった。
礼儀正しく、可愛らしい男の子。
あの歳で特許持ち。
更に後で知った事だが、マリオン様の使徒と呼ばれている存在だとも。
ラグナとの更なる関わりを持ちたいと、若干の下心もありながら学園内の商業ギルドへと移動願いを提出したばかり。
もしかしたら玉の輿も夢ではないかもと。
正妻は年齢差で無理だが、側室ならばと考えてすらいた。
そんな事を妄想している中、今日事件が起きる。
守護の女神の神殿による発表。
異端者ラグナの確保および処刑を行う。
いろいろと現実的ではない妄想をしていた職員の野望は打ち砕かれてしまった。
そして先ほど、学園内の商業ギルドへの変更が認められたと通知が来たばかり。
既にラグナは学園にはいないのに……
つまり……
物凄く機嫌がよろしくなかったのだ。
若干わざとらしく気怠げに特許の保有者について調べていく。
そしてラグナの特許がどうなっているのか気が付く。
誰が裏で動いているのかも。
ラグナの資産が無くなっていた理由もおかげで予想ができた。
そして満面の笑みで役人に対応する事にした。
「大変長らくお待たせしました。ラグナ様の特許の件でよろしいのですよね?」
「さっきそう伝えただろう!手続きはまだか?」
「大変申し訳ありません。ラグナ様は『現在』特許を保有しておりませんでした。」
女性職員の返答に一瞬ぽかんとしてしまう役人。
「そ、そんなわけ無いだろう!奴が特許を保有しているのは判っているのだ!隠しても無駄だぞ!」
「隠してると言われましても、私は事実を言ったまでです。現在ラグナ様は特許を保有してはいません。」
「現在だと……?では奴が持っていた特許は今誰が保有していると言うのだ!!」
「現在の保有者ですか?直近の特許の保有者の変更につきましてはあちらの壁に張り出されてるので、ご自身で確認お願いします。次の方どうぞ~!!」
職員は半強制的に会話を打ち切ると後ろに並んでいた次のお客に声をかける。
「お、おい!まだ話は終わってないぞ!」
役人は声を荒げるが、ずらっと後ろに並んでいるお客全員からの視線には絶えきれずに渋々自分で見に行く事にした。
そして……
「そんな馬鹿な!?商業ギルド神殿へと譲渡だと!?おい!どうなっているんだ!!」
役人は他の客を対応している職員の元へと割り込むとどうなっているかと怒鳴り散らす。
「あちらに掲示されている通りになっております。他のお客様のご迷惑になるので、まだお話がありましたら再び並ぶようにお願いします。」
その言葉に我慢の限界を超えた役人が職員に手を伸ばし、掴みかかろうとする直前。
伸ばした手を何者かに掴まれた。
何をすると怒鳴ろうと掴んだ相手を確認する。
役人の手を掴んだ相手。
商業ギルドの護衛も業務の一環として行っている商業ギルド神殿騎士だった。
「商業ギルド内では暴力行為は禁止されております。他のお客様にもご迷惑となっております。退出を。」
役人の腕っ節では神殿騎士に太刀打ちなど出来るわけがない。
悔しさを滲ませながら顔を真っ赤にして役人は商業ギルドから退出してしていくのだった。
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