第206話
「しかし私は本当に驚きましたよ。我々の敵だと思っていたあのエチゴヤが、まさか小さい頃からラグナ様を支援していたと発表された時は。しかもあの国で商いをしているにも関わらず、守護の女神の神殿を真っ正面から非難するとは思いませんでした。」
ラグナはエチゴヤの皆さんが自分を助けようとしてくれた事は聞いていたが、真っ正面から守護の女神の神殿と対立していることは知らなかった。
『ブリットさん、サイさんには本当に迷惑ばかりかけてるな……』
少し落ち込みながらも詳しい話を聞くことにした。
「その辺を詳しく聞いてもいいですか……?」
ラグナからの質問にサボンヌは少し驚いていた。
「そこまで詳しくはわかりませんよ?私が聞いた話になりますが……ラグナ様の異端者認定を取り消すためにエチゴヤが守護の女神の神殿と話し合いを行おうとしたが、その前に神殿が刑を執行したとか、その後に守護の女神の神殿への支援は一切行わないと発表したとかですかね?」
さすがのラグナもそれには驚きを隠せない。
「ヒノハバラで商いをしておられるのに、エチゴヤの方々は大丈夫なのでしょうか……?そこまで動いてくれていたとは知らなくて……」
ラグナは『自分のせいで……』と罪悪感がわいてきてしまった。
「普通ならば……もう商いなど、2度と出来ないのですけどね……しかし、さすがエチゴヤでいらっしゃいます。守護の女神の使徒たるヒノハバラの市民達もエチゴヤの味方となり動いた為、神殿は真っ正面からエチゴヤを非難することが出来なかった様子。何の声明も出してはおりませんね。まさか自分達の神殿の信徒である市民までもがここまでエチゴヤの味方になるとは思っていなかったのでしょう。」
エチゴヤは市民達からの支持により、今の所問題ないと言うことが聞けたラグナは少し安堵する。
「それではもう少し私からもお話をよろしいでしょうか?」
エチゴヤの件で少し安堵した様子のラグナの姿を確認したタチアナはこれからについて話すことにした。
「サボンヌ様はこの様な仕事柄、とてもお口が固いのでラグナ様の件が他へ漏れる事は無いでしょう。しかし……この国の市民、そして商人に、もしもラグナ様が御存命だと知られた場合どうなるか理解しておられますか?」
タチアナからの質問にラグナは考え込む。
「騒がれる……ですか……?」
ラグナのその答えにサボンヌは笑って正解を答える。
「もしもラグナ様が御存命だと判ったら確実に祭り上げるでしょうな。もしも私がこの様な仕事をしていなければそのように動いていますから。」
騒がれて、もしかしたらヒノハバラに生きていることがバレるのかも程度に考えていたラグナはただただ驚くばかり。
「私もそう思います。マリオン様の使徒として祭り上げられる事は確実です。もちろんラグナ様はその様な事を望んでいないと判っていますので、神殿としては今のような対応をしておりますが……もしも祭り上げられるような事になってしまった場合はその流れを神殿として止めることは出来ません。むしろその流れを後押しするしか無い状況になってしまいます。」
それは恐怖でしかない。
「もしも祭り上げられてしまったら、その後は……」
思わずゴクリと唾を飲んでしまう。
「戦争になる可能性が大きいです。」
たかだか1人の存在の為に戦争が起きる。
「な、何でそんな事に……」
ラグナは戦争という言葉に狼狽えてしまう。
「よく考えて下さい。ラグナ様という存在は我々からすれば希望。マリオン様から遣わされた使徒様。その様な大事な御身を守護の女神の神殿は勝手に異端者認定し、事前連絡も無しに処刑しました。これは我々からすれば到底許される事ではないのです。」
シーカリオン側からすれば他国の宗教が自国の神殿の使徒に手をかけた。
それだけでも戦争を行う理由になる。
しかし武力の差は歴然。
既に使徒様は処刑されてしまっては諦めるしか無かった。
でもラグナは生き残る事が出来た。
もしこの件が広まれば再び戦争の気運は高まる。
奇跡的に生き残った使徒様が私達にはついている。
ならば負けるはずが無いと。
守護の女神の神殿としても、ラグナが実は生き残っていたなどと言う事実は許せることではないだろう。
異端者として処刑したのに失敗していたなどという事実は、守護の女神の神殿としては絶対に放置出来る内容ではない。
つまり争いが起きる。
「わかって頂けましたでしょうか?」
「はい……」
この国にいる間は、本当に目立たないように行動していこうと覚悟したラグナだった。
その後サボンヌが新しいギルド会員証を作りに行っている間、タチアナとラグナは王都までのルートを確認していくのであった。
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