第205話
若干の不安は残っているが髪色を変更したことにより印象を変えることは出来た。
机については調べる時間が無いと、タチアナさんは悔しい表情をしていたが……
「とりあえずこの街の商業ギルドの場所を後で教えていただけますか?後で申請に行こうと思います。」
その言葉を待ってましたという雰囲気をタチアナさんが放つ。
「それでは今から行きましょうか?」
「今からですか?」
「すぐに着きますので。」
部屋を出るとすぐに階段を降りてすぐにある個室へと案内された。
「えっと……」
タチアナさんは満面の笑みで言い放つ。
「ようこそ、商業ギルドへ!」
どうやら俺が泊まった部屋は、商業ギルドや神殿の人間が寝泊まり出来るように用意されている部屋らしい。
すぐにドアがノックされて1人の職員が部屋に入ってきた。
「これはこれは、タチアナ様。お久しぶりに御座います。昨夜は挨拶出来ずに申し訳ありません。」
タチアナさんにペコペコと頭を下げる男性。
「こちらこそ、到着しても挨拶に行くことが出来なくすみませんでした。エメラダ支部ギルド長サボンヌ様。」
ラグナ達がいる部屋に入ってきた男性の正体はこの街にある商業ギルドのギルド長だった。
「では、今回はお互い様と言うことで……それで今回エメラダへとお越しになったのは……?商業の女神マリオン様からの御神託でしょうか?」
「それもありますが、どちらかと言うとお使いでしょうかね?」
「お使いですか?タチアナ様ともあろう御方が?」
タチアナがラグナの肩をトントンとする。
「先ほど手渡した書状をギルド長へとお渡し下さい。」
ローブの中に手を入れて収納スキルから取り出したのを誤魔化しながら書状をギルド長へと手渡す。
「お願いします。」
「君は……?」
サボンヌは先ほどからタチアナの隣にいた少年の事が気にはなっていたが、従者だろうとあたりをつけていた。
しかし、どうやら違っていたらしい。
ラグナから書状を受け取ると失礼しますと一言添えて書状を開く。
『この少年の身元は私の名をかけて保証する。ヒノハバラ王都統括商業ギルド長アムル』
わざわざ統括商業ギルド長が身元を保証する意味を必死にサボンヌは考える。
「失礼ですがお名前は……?」
ラグナは困った様にタチアナをチラッと見る。
するとただ一言。
「この方は信じるに値する御方です。」
この言葉によりラグナはサボンヌへと名を告げる。
「サボンヌ様、初めまして。ラグナと申します。」
「ラ、ラグナ……様……」
サボンヌの頭の中で歯車がカチリとハマる。
「わざわざヒノハバラの統括商業ギルド長が書状を渡した意味。そしてヒノハバラ商業ギルド神殿が動いている意味。更にそのお名前……しかし聞いていた髪色とは違う……でもほのかに感じるマリオン様の気配……よくぞご無事で……」
サボンヌはラグナの両手を涙を流しながら、がっしりと握りしめる。
ラグナは思いも寄らぬ行動にただただ困惑するばかり。
「も、申し訳ありません。使徒様がご無事だった事に安堵してしまい、とんだ醜態を……」
「い、いえ……」
『何でこんな事に!?』
困惑したままのラグナに対してタチアナは理由を語り始める。
「何故この様にサボンヌ様が反応するのか疑問に思っておられますね?」
「は、はい。正直な所……」
タチアナから語られた真実はこうだった。
ラグナがマリオン様の使徒だと言うことは商業ギルド神殿より正式に発表されていた。
敬愛な信徒達はその事に盛大に歓喜した。
女神の使徒という存在が現れぬまま数百年。
まさか自分が生きているうちに自分たちが崇める女神であるマリオン様に選ばれた使徒が現れるとは思ってもいなかった。
半ば伝説の物語の様な存在。
語られるだけの存在。
それが自分が生きているうちに誕生した。
それならば出来ることならばそのお姿を一目でいいから拝見したい。
お声を聞きたい。
しかしマリオン様からの御告げによってそれは叶わぬ事に。
使徒である少年は今だ幼く、学業に身を置く存在であると。
成長を暖かく見守って欲しいとマリオン様から願われてしまっては敬愛な信徒達は守るしかない。
いつか立派な青年へと成長した暁には一目拝見しようと。
それまで元気に生きていこうと。
しかし信徒達の願いは叶わないまま終わりを迎えた。
守護の女神の神殿からの異端者認定。
この国に住む信徒はラグナを助けるべく開戦を願い、他国に住む信徒も守護の女神の神殿への抗議活動を行っていた。
しかし……
現実的に考えて開戦など出来るわけが無い。
武力の差は歴然。
ではヒノハバラとの商いを中止しようか検討しようにも、あの国にはエチゴヤという絶対的な強者がいる。
エチゴヤに敵対することだけは絶対に出来ない。
シーカリオンでは勇者よりもエチゴヤの方が市民から支持されているからだ……
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