第204話

突然号泣を始めたタチアナさんをなんとか宥めることが出来た。


『俺はいったい何回同じ事を繰り返すんだ……』


収納スキルが便利だからとよく使うせいで、気がゆるんだときにうっかり使ってしまう……


「では本当にマリオン様の使徒様であって勇者様では無いという事ですね?収納スキルは加護として頂いたと……」


「はい。勇者様といわれたことなどはありません。」


うん。


君は勇者だなんて創造神様に言われたことなんて無いし……


収納スキルは貰ったけどね。


「とりあえず詳しい話は明日にしましょう。もう夜も遅いですしね……一応隣の部屋も押さえてありますが……いかがしますか?」


そういってタチアナさんは自らのベッドをポンポンする。


「ではお言葉に甘えて隣の部屋で休ませてもらいます。」


うん。


タチアナさんは変態。


覚えておこう。


まぁ……


女装させられた時にそう感じていたけど。


そして翌朝、タチアナさんが俺の部屋を訪ねてきた。


「おはようございます。少しは休めたでしょうか?」


「はい。ありがとうございます。あの後、すぐにぐっすりと眠ることが出来ました。昨日は聞くことが出来なかったのですが、ここってドコなんでしょうか?」


見た感じではどこかの宿屋のような雰囲気。


「ここはヒノハバラと国境を接するシーカリオンの国境都市イザスタでは無く、その隣町のエメラダという街になります。本来はイザスタで待機しようとしたのですが、ここ最近イザスタ内で間者らしき人間が多いとの情報がありまして……その隣町であるエメラダまで急遽移動する事になりました。幸いなことにエメラダならばなんとかヨハネスから直接転移出来ることはわかっていましたので。」


「そうだったのですか……このエメラダから王都マリンルーまではどのくらいかかりますか?」


「エメラダからマリンルーまでですか……」


タチアナさんは神殿騎士をチラッとみる。


「エメラダから馬車で急いだとしても約2週間。遅くとも3週間はかからないかと。徒歩では少々厳しいと思います。」


「申し訳ありませんが私達はここから再びヒノハバラに戻らなければなりません……馬車の手配をいたしましょうか?御者と2人旅となりますが……」


知らない人と2人で2週間……


流石につらい。


「移動についてはなんとかなると思うので大丈夫です。」


「後は問題になるとすれば身分証ですね。今まで使用していた商業ギルドの身分証は既に死亡届が出されており使用出来なくなっております。ヒノハバラ王都統括商業ギルド長アムル様より書状を預かっていますので、こちらを商業ギルドへと提出すればすぐに新しい身分証が発行されます。」


タチアナさんより書状を受け取る。


でも新しい身分証か……


もうラグナって名前は公式には使えないって事だよな……


「名前とかはどうすれば?流石に今のままと言うわけにもいきませんよね?」


「名前に関してはラグナ様の名前でも大丈夫ですよ?同じ様な名前の方は何人もいるわけですし。ただ、ちょっと髪の毛の色くらいは変えた方がいいかもしれませんね。」


タチアナはラグナにそう提案する。


元々ラグナの髪色は黒。


黒髪も全くいないわけでは無いがとても珍しい色。


だから余計に人の目につきやすい。


この黒髪を違う色にするだけでもかなり印象を変えるとことが出来る。


黒髪でラグナと言う名前の少年が商業ギルドに登録したとなると探りを入れられる可能性も0では無い。


しかし、これがありきたりな茶髪や金髪ならどうだろうか?


それだけでもかなり警戒度は下げられるとタチアナは考えていた。


「髪色を変えるのは構いませんけど……薬品か何かで染めるのですか?」


「一応染めることが出来る薬品も市販されていますが、あれって髪の毛に良くないと噂されているんですよね。しかし、シーカリオンにいる魔導具職人が髪色を変更出来る魔導具を作ったと伺ったので取り寄せたのがこちらになります。」


そう言って手渡してきたのが小さな魔石が付いているリング状のイヤーカフス。


「簡単に髪色を変更できるのですが問題点が2つほどあります。」


1、使用者の魔力の質により髪色が変化するので色の指定が出来ない。


2、魔石は付いているが髪色を変化させる為に着けているだけで魔石交換タイプの魔導具ではなく、常時魔力を消費する魔力消費型の魔導具だということ。


「魔石交換タイプの作成もお願いしたのですが、あんなものは邪道だと一蹴されてしまいました。」


タチアナのその言葉を聞いてラグナはピンと来る。


もしかして……


「もしかしてその魔導具職人ってアヤト・サトウって名前の方ですか?」


どうやら当たりらしい。


タチアナさんが驚いた表情をする。


「知っておられるのですか?アヤト・サトウ様を。」


「名前だけですよ。会ったこともありませんし……」


「では何故そのお名前を?」


「僕が学園の魔導具屋で買った魔導具は全て彼の作品なんですよ。僕は他の人よりも魔力は結構あるので消費型でも困らないんです。」


「彼の作品はあまり流通していないと伺ったのですが……流石、学園内で経営している魔導具屋ですね。」


確かに店主も困っていたよな。


在庫処分的な価格で売って貰えたし。


イヤーカフス型の魔導具を左耳に着ける。


そして魔力を流してみる。


「黒髪も綺麗でしたが、これはこれで……光の加減によっては少々目立つかも知れませんが、とても綺麗な髪色ですよ。」


そう言いながらタチアナはラグナを部屋に設置されている鏡の前に立たせる。


髪色にラグナは少し驚く。


「ほぼ金髪だけど、毛先だけが銀髪。そして何故か1本だけ青色の前髪……」


まさかの3色。


金髪の中に1本だけある青髪がかなり目立つ。


「確かに黒髪では無くなりましたけど……これって結局目立ちますよね……?」


タチアナは少し顔を背けながら答える。


「金髪に毛先の銀髪は光の加減によってはあまり目立つものでは無いと思います。」


「1本の青髪は……?」


「えっと……その……もしかしたら前髪に青色の糸くずが付いていると勘違いされて終わるかも知れません。」


ちょっと不安と不満が残るが一応第一印象を変えることは出来た。

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