第189話

フィリスと別れたラグナは途轍もないピンチを迎えていた。


「困った……こんな事になるなんて……フィオナ先生に聞いておけば良かった。シーカリオンって……どうやって行くんだ?」


この世界に転生したラグナはこの世界の地理をほとんど知らない。


地図なんてものは軍事的に重要な物資なので公開されていない。


前世ではスマホを取り出して調べれば地図なんてすぐに判る状態だった。


この世界にはスマホなんて便利なものは無い。


そう言えばこの世界に転成してから世界地図なんて物は見たことが無い。


「本気で困ったな……王都に忍び込む訳にもいかないし……」


地図が手には入りそうな場所で行ったことがある街と言えばナルタしか無い……


「仕方ない。ナルタに行くしか無いか……それにしても本当に収納してあって良かった。」


そう言いながらラグナが収納スキルから取り出したのはダッシュメイルとホバーシューズだった。


ダッシュメイルとホバーシューズを装備したラグナは顔を布で目と口以外をぐるぐる巻きにして隠すと行動を開始する。


「顔は隠せるけどはっきり言って不審者だよなぁ。でも仕方ない。それじゃあ行くか。」


そうしてラグナの旅がスタートした。


王都出発から8時間。


人の目が届かない場所を爆走し続けた結果、以前よりも時間が掛かったが無事にナルタの街の近くまで到着する事が出来た。


ナルタの街は未だにあちこちの城壁が崩れたままになっている。


「忍び込むのは夜になってからだな……何とかエチゴヤの店舗に行ければいいんだけど……」


きっとエチゴヤの店に行けばなんとかなる気がする。


あとは誰にも見られないで潜入する、スニーキングミッションか……


まさか散々遊んできたゲームをリアルで経験するなんて……




2時間もしないうちに日が落ちて辺りは暗くなる。


「そろそろ行くか……」


木の上から飛び降りると羽織っていたカモフラージュローブを収納する。


「面白いから買ってたけど……どうせなら街中でも使えるローブがあれば良かったのに。」


ラグナが先程まで羽織っていたローブは、以前魔導具屋でダッシュメイルと共に購入して収納に入れっぱなしになっていた品。


森林の中では効果が抜群だった。


時折野生動物などが匂いを嗅ぎながら木の近くまで来ていたが、匂いが遮断されているお陰で全く気付かれる事が無かった。


「さてと……」


星の明かりを頼りに、街の様子を伺う。 


「昔は城壁の上で兵士が巡回していたけど、城壁が破壊されたから街の外を巡回してるのか。」


松明を持った兵士の姿を確認出来た。


「これなら行けそうだな。」


兵士の巡回のタイミングを伺いながら、徐々に街へと近付く。


そして巡回している兵士達の数十メートル後方をラグナは息を潜めて着いていく。


『ヤバい、めっちゃドキドキする。』


城壁が完全に崩れた場所があったので巡回している兵士達のストーキングを止めると、街の中の様子を伺う。


『建物が邪魔でよく見えないな……』


街の中で兵士が巡回してるのかもよくわからない。


兵士が居ないかきょろきょろ確認しながらまだ崩れていない城壁の上へと身体強化魔法を使いジャンプして登る。


『こちら、ラグナ。目的地へと到着。これより探索を開始する。』


本来なら集中しなければいけないのだが、どうしても大好きだったゲームと同じ様な事をしていると思うと気分が高揚してしまっている。


城壁の上に登ったラグナは寝そべると街中を覗く。


『うーん……これは困ったな……』


街中では崩れた建物の廃材が集められおり、大通りではたき火で暖をとる人々や街中を歩いている市民がいるのが見える。


そして松明を持った兵士達がやはり街中でも巡回していた。


こんな状態では逆に顔を隠している方が余計に目立つんじゃないだろうか……


ラグナは顔を隠していた布を解くと収納し、フード付きのポンチョを羽織ると地上へと降りてなるべく人混みを避けて進んでいく。


一度だけ兵士に呼び止められてドキドキしたが、『帰る家はあるのか?街がこんな状態だからすぐに家に戻るんだぞ。』と注意されただけだった。


到着したのはエチゴヤの宿ナルタ店。


エチゴヤ商店はバタバタしているのか、いろいろな人が出入りしていた為近寄れなかった。


エチゴヤの宿ナルタ店の目の前には宿の護衛の人だろうか?


もの凄く厳重に警備されている様子だった。


「以前はこんなにも厳重に警備なんてされていなかったのに……」


宿の様子を伺っていると宿の扉から1人の男性が照明の魔導具を持って出て来ていた。


「……!!」


ラグナはその男性の姿を見ると安堵し、宿に近寄って行く。


「誰だ!!それ以上近寄るならば攻撃する!!」


警備をしていた護衛と宿から出て来た男性は剣に手を掛ける。


フードを深く被り顔を隠したままの小さい子供らしき人物。


小さい子供は両手をあげると宿から出て来た男へと話掛ける。


「僕だよ、リビオさん。」


その声を聞いた瞬間にリビオは誰だか理解する。


昨日、守護の女神の神殿により処刑された筈の子供。


「ラ……いや、まさかお前が……お前達、この子は大丈夫だ。このまま警備を続けてくれ。旦那様のお客だ。」


フードを深く被り、顔を隠したままの子供をリビオは宿の中へと案内していくのだった。

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