第188話
ゆらゆらと揺られながら星空を見るラグナ。
「初めて魔道書を使ってキャンプスキル発動したけど……まさかこんな事になるなんて……」
魔道書を手に取り、スキルを発動させた所までは良かった。
しかしこんな事になるなんて考えてもいなかった。
「時間がある時に試しておくべきだったよ。まさか魔道書のお前がハンモックに変形するなんてな……」
光り輝いた魔道書はラグナが思い浮かべたキャンプギアへと変貌を遂げた。
驚いた?とでも言いたいのか、ハンモックがゆらゆらと不自然に揺れる。
「備長炭とかスパイスみたいに召喚出来るものだと思っていたんだけど……ハンモックは召喚じゃないんだね。」
いまいちスキルの発動条件がよくわからない。
スパイスや備長炭は物質として召喚出来る。
ガストーチやLEDランタンは魔法のような感じで発動する。
そしてハンモックは魔道書が変身して現れた。
「それにしても……初めてのハンモック泊だな。前世ではいつかやろうと思って買ったまま使う前に死んじゃったし。」
前世では木の下の方でハンモックを張るのが当然だった。
しかし今ラグナがゆらゆらと揺られているのは木の上部近く。
だいたい地上から20メートルほど。
今の身体能力を持ってすれば木登りなど簡単に出来る。
前世ではこんな高所でハンモックを張るなんて考えられなかった。
前世での身体能力では落下したら無事では済まないだろう。
でも……
今の身体能力を持ってすれば、例え落ちたとしても痛いくらいで終わると思う。
ハンモックに揺られながらぼーっと夜空を見上げているうちにそのままラグナは眠りにつくのだった。
………ゆさゆさ
…ゆさゆさ
ラグナ………
「起きろ、ラグナ。」
不自然にハンモックが揺れた後に、懐かしい声と共に頭に衝撃が来る。
「いっつ……」
何かで突っつかれた痛みがはしる頭を押さえながらハンモックから身体を起こすと、ハンモックを結んでいる木にフィリスがよじ登っており手には木の枝を持ち、足でハンモックを結んでいるロープを揺らしていた。
「フィリス!?なんでここに??」
「いろいろあったんだ。あまり時間が無いから手短に伝えるぞ。とりあえず降りろ。」
「う、うん。」
ハンモックから起き上がるとそのまま地面へと飛び降りる。
「まず、村の子供達は無事だ。ラグナは神殿の連中に連れて行かれてしまったが、子供達はエチゴヤが全力で保護している。国も神殿もそう簡単には手が出せまい。ついでにハルヒィ殿も一緒だ。そして最悪な事にビリー様やマルク様は大臣から解任され、領地へと戻ることになった。」
子供達が無事だと判明し、安心したのも束の間。
とんでもない爆弾を放り込まれた。
「な、なんであの2人が??」
「詳しくはわからん……お二方が王都に戻った時には王城の様子がおかしかったらしい。そして王に報告するために謁見の間に向かった所、王の隣にはニタニタと笑うヨハム公爵がいた。そして淡々と大臣の職を解任すると王がお二方に伝えると半強制的に王城から追い出されたと仰っていた。」
「なんでそんなことに……」
「わからん。お前の処刑が守護の女神の神殿により実行された後にマリオン様から商業ギルドの神殿にお告げがあったんだ。ラグナは生きていると。そして手紙を渡すようにとの指示が商業ギルド経由でエチゴヤへ。そこから私に内容が伝わってここにいるって訳だ。」
どうやらマリオン様のお告げにより俺の位置が伝わり、フィリスがやってきたとのことだった。
「それでマリオン様は何て?」
そうラグナが聞くとフィリスは懐から手紙を取り出して手渡す。
封がされたままの手紙……
「マリオン様から直接ラグナに手渡すようにとの事だ。」
ラグナは慎重に手紙を開くと1人で読み始める。
『ラグナ君へ。』
『今回の件、助けることが出来なくて本当に申し訳ありません。本当ならば手を差し伸べたかったのですが……神々にもルールがあり、助けることが出来ませんでした。本当に申し訳ありません。詳しいことは話すことが出来ませんが、守護の女神の神殿についてです。ラグナ君には信じて頂きたいのですが間違っても神界から誰かが神託した様な事実は御座いません。この件に関して残念な事にサリオラが地上に介入しようとして、現在罰として謹慎中となっております。よって、しばらくの間はサリオラとの連絡を取ることが出来ません。また現在私の神殿と守護の女神の神殿にて多少のいざこざが発生しております。今後の為にもシーカリオンへと移動して下さるといろいろと助かります。ご検討よろしくお願いします。この度は本当に力になれず、申し訳ありませんでした。』
手紙を読み終えた後、そのまま収納にしまう。
「そっか……うん。決めた。フィリス。いや、フィオナ先生。僕はこの国を出ていくよ。」
「やはりそうなるか……」
フィリスは深いため息を吐く。
「フィオナ先生も……」
ラグナの提案にフィリスは首を振る。
「本音を言えばついて行きたいがな。しかし、学園にいるあいつらの事も心配だ。何せ王室の雰囲気が怪しいからな。私は万が一を考えて学園に戻るよ。」
「そうですか……」
ラグナが少し落胆した様子を見せたのでフィリスはラグナを優しく抱きしめる。
「でも本当にお前が無事で良かった……お前を助けようとしたが、ビリー様達と共に大量の兵に監視されていたので何も出来なかった……すまない……あいつらが無事に学園を卒業したら私もシーカリオンへと向かう。だから待っていろ。」
「……わかりました。みんなの事をよろしくお願いします。」
ギュッと力を込めて抱きしめた後に2人は離れる。
「もし何かあったらすぐにシーカリオンへと皆で逃げてきて下さい。」
「あぁ、わかった。それじゃあ気をつけて行くんだぞ。」
『あの件だけは伝えておこう……』
ラグナは考え込むとフィリスへとある事を伝える。
「先生……もしかしたら、後数年以内に魔王が産まれるかもしれません……万が一の時は本当に国を捨ててお逃げ下さい。」
ラグナから衝撃的な事を言われて驚くフィリス。
「ま、魔王だと……?魔王が出現するのか……?」
「はっきりとは言えませんが……そのつもりで行動をお願いします。」
「あぁ……この事は広めても……?」
うーん……
どうなんだろうか……
「広めたせいで万が一の事が先生に起きても困るので……ちょっと待っていて下さい。」
収納から紙と筆と台を取り出すとすらすらと手紙を書く。
そして折り畳んで先生に手渡す。
「これをブリットさんかサイさんにお願いします。」
「わかった。確実に届ける。」
「お願いします。本当に気をつけて下さい。」
「お前もな。じゃあ私は学園に戻る。気をつけてな。」
「はい。先生も気をつけて。」
そしてラグナはフィリスと別れ、シーカリオンを目指して行動を始めるのだった。
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