第190話
「旦那様、少々よろしいでしょうか?」
リビオは旦那様と呼ぶ人物がいる部屋の前まで来ると部屋をノックして呼び掛ける。
「あぁ、構わん。」
「失礼します。旦那様にお客様がお見えです。」
リビオより旦那様と呼ばれた男性。
エチゴヤ商会代表のブリットはリビオから客と言われた人物を視界に入れると、驚き目を見開く。
「すぐに人払いを。」
ブリットと共に部屋にいた従業員は、指示に従い部屋から退出する。
その後、リビオは部屋の入口の前で警備しますと一言伝えると部屋から退出した。
ラグナはゆっくりとフードを外す。
「いろいろとご心配をお掛けしました。」
ブリットにそう伝えるとぺこりと頭を下げた。
「よくぞ……よくぞ生き残ってくれた……本当に、本当に君が無事で良かった……」
ブリットは涙を流しながらラグナを抱きしめる。
エチゴヤの力を持ってしても守れなかった命。
それがまさか生き残り、自分の目の前に現れるとは思ってもいなかった。
「マリオン様より授かった加護のおかげで生き残ることが出来ました。」
「マリオン様からの加護のおかげか……」
「はい。でもまさかブリットさんがナルタにいるとは思いませんでした。どうしてナルタに?こんな状況ですが。」
「この状況だからこそだよ。街の復興は領主の仕事だが、困っている市民達には1日もはやく日常生活に戻ってほしい。だから私達は市民の為に率先して動くのさ。エチゴヤだからね。それに……アオバ村の住人達の行方も探したかった。」
ブリットはアオバ村壊滅の報を聞いてからすぐさま行動に移っていた。
村にある商店を介してだが、魔物の素材や食料の取引でエチゴヤ商会はアオバ村との強固な繋がりが出来ていた。
そしてラグナが育った村。
最初はナルタが魔物による襲撃で大打撃をうけたとの報告があったので、未だに魔物が彷徨いている可能性がある中、支援物資を大量に積み込みナルタへと向かった。
しかしブリットはすぐに気付く。
ナルタよりも更に奥。
魔の森に接しているアオバ村は更に厳しいのではないかと。
ナルタへと向かいつつも情報を集めさせると、最悪な情報が転がってきた。
『アオバ村、壊滅。生存者は大人1名と子ども達のみ。』
絶望的な状況の中、更に事態は最悪な方向へ。
『守護の女神の神殿が突如としてラグナを異端者として認定。王宮も承認。更に王は全ての大臣を突如解任。新たに大臣の職に着いたのはヨハム公爵の派閥。』
ブリットはその知らせを聞いてすぐに魔導具を使用して王を呼び出すものの、連絡がつくことは無かった。
「いったい王宮で何が起きているのだ……」
リビオを先行させ、ラグナを保護しようとしたものの……
神殿の動きが早すぎた。
エチゴヤが本格的に動き出す前にラグナは捕らえられ連れて行かれてしまった。
その後子ども達も連れて行かれそうになったが、村で唯一の大人の生き残りであるハルヒィ殿の機転により守護の女神の神殿騎士から逃れる事が出来た。
ブリットはすぐさま自分達の護衛を最小限まで減らし、子ども達の保護へと動き出す。
馬車に戻るとすぐさまもう一つの通信の魔導具を取り出し、すぐに呼び掛けを行う。
「エチゴヤ商会代表のブリットです。タチアナ様、緊急につき連絡しました。タチアナ様おられますか?」
若干のバタバタ音と共に返事が帰ってくる。
『タチアナです。ブリット様、何か御座いましたか?』
「守護の女神の神殿が突如ラグナ君を異端者として認定し、連れ去って行きました。あまりにも動きが早く、どうすることも出来ませんでした。」
ガタンという物音と共にタチアナの大きく叫ぶ声が聞こえた。
『ラグナ様を異端者認定!?なんて罰当たりな事を!!すぐにこちらも動きます!!』
「あとラグナ君の故郷であるアオバ村が魔物の襲撃により壊滅。大人1名と子ども達しか生き残りを発見できていない様子。また守護の女神の神殿が子ども達も確保しようと動いているので、こちらを保護するために戦力を送りましたが……出来ることならナルタから神殿騎士を派遣することは可能でしょうか?」
『すぐに神殿騎士を派遣する様に連絡します。ラグナ様の件に関してはすぐさまこちらでも行動を開始します。』
ラグナの件を神殿にも協力を頼むとブリットはナルタへと到着まで祈りを捧げていた。
「どうか、あの子の命が無事でありますように。マリオン様、どうかラグナ君をお守りください。』
しかし、祈りは通じることが無く……
商業の女神の神殿からの重大な抗議にも一切耳を貸すことなく、処刑が実施されたのだった……
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