第180話

全員が椅子に座るとハルヒィさんが村で何があったのかを語り始めた。



あれは魔物が攻めてくる半日前。


俺はちょうど夜の門番の勤務でな。


日が昇ったばかりの時間帯に馬車が数台、村を訪れて来たんだ。


早朝も早朝だぞ?


しかも何台かの馬車は何かに攻撃されたのかあちこちボロボロに破損していたんだ。


そして集団の中で一番大きく立派な馬車の扉が開くと中から出て来たのは俺達に因縁のある奴だった。


そいつは元ナルタ辺境伯で今は何だったかな?忘れちまった。とにかく奴と家族、それに使用人達が馬車に乗って現れたんだ。


奴は馬車から降りると、


「すぐに門を開き村長をここに呼べ!」


といきなり命令してきた。


俺には門を開ける権限が無いと突っぱねて、仕方ないが奴の言う通りに村長を呼びに向かったんだ。


「村長!緊急事態だ!起きてくれ!」


室内から物音がし、扉が開く。


「なんじゃ、こんな朝早くから。」


「こんな時間から何台もの馬車が来たんだよ!しかもアイツだ。元ナルタ辺境伯が!」


元ナルタ辺境伯と言う名を聞いた村長は苦々しい顔をする。


あの貴族とはいろいろと因縁があるアオバ村。


村長の元想い人でもあるアオバ村の産婆の女性を強制的に拉致。


その後に反抗したとして殺害。


更に数年前には自身も含めて冤罪で捕縛され連行されたりもした。


「えぇぃ、面倒な……だが放置などすれば後で何をされるかわからんからな……仕方ない、儂が出迎えよう。」


そうして村長が奴を出迎えると村の食料をすぐに差し出せとか、王都にすぐに向かわなければ行けないから狩人を護衛に付けろとか……


しまいには馬車に何人かの怪我人がいるから村で手当と世話をしろだの好き放題言って来やがったんだ。


何で怪我をしたのかを聞くとうるさい!と言い理由を教えてくれなかった。


最終的に手を貸さなければ、


「反逆者の集団として国に報告する。」


と脅されて渋々手を貸すことになったんだ。


その後は村の中での騒ぎに気が付き起きてきた村人達の協力の元、狩人達の準備が進められた。


そして村の狩人達と村長自らが奴に着いて行く事になったんだ。


村から出る前に村長は俺達に伝言を残した。


「奴は何かを隠しておる。儂等が村を出た後は警備を厳重にし、万が一の為にハルヒィは地下に避難場を作って食料の備蓄を振り分けておくのじゃ。」


確かに奴は何かを隠しているような感じだった。


それに王都に行くならわざわざうちの村まで遠回りしないで、自分の領地からナルタに向かえばいいのに。


村長達が村を出た後、俺はすぐに地下の避難場の整備。


村人達に手伝って貰いながら備蓄品の移送をしていたんだ。


村に取り残された怪我人達を手当てしながら怪我の理由を聞いたらしいが、何故怪我をしたのか答えたのは1人も居なかった。


そして昼過ぎ。


村の街道側からワイルドウルフが一匹現れたんだ。


ワイルドウルフは直ぐに村に残った狩人達によって狩られたんだが……


何で街道側から現れたのか。


一匹だから偶々なのか?


そんな話をしていたら次は集団のワイルドウルフが現れたんだ。


集団のワイルドウルフも狩人達によって狩られたんだが……


すぐにまた魔物の襲撃があったんだ。


次はワイルドボアが。


「何か変だ。ハルヒィ!悪いが村の周りに堀を作ってくれ!」


そうグイドが俺に頼んできたから俺は村の周りをぐるっと囲むように堀を作ろうとしたんだよ。


「グイド!ハルヒィ!緊急事態だ!かなりの数のワイルドボアが来やがった!!」


慌てて俺達が外へと向かおうとしたらタイミング悪く街道側の門が破壊されて、村の中にワイルドボアが入り込もうとしてきたんだ。


グイドは魔法剣を発動すると魔物達を一閃。


村に入ろうとしていたワイルドボアを切り刻むとそのままワイルドボアの集団に立ち向かっていったんだ。


俺は破壊された門から外に出ると急いで堀の作成。


後は門の所を繋げたら完成と言う所で更に異変が起きた。


魔の森側から大量のワイルドベアやらゴブリンやらその他の見たこと無い魔物まで一気に現れて村に突撃。


堀に何体もの魔物が落ちていったんだ。


アイツ等は普通じゃなかった。


目が必死だったんだんだよ。


堀に落ちようが何だろうが気にせずに突っ込んで来るあの光景は忘れられない。


村の防壁の上から見た景色はまさに絶望だった。


「魔物達のスタンピード……」


誰かがぼそりとそう呟いた。


「くそったれが!アイツはこれを隠してやがったのか!」


奴が隠していた正体はスタンピードだったんだ。


防壁の上から弓矢、投石などで応戦していたけどあまりにも数が違いすぎた。


必死に応戦していたら徐々に地響きを感じたんだ。


地響きは徐々に大きくなり魔物達は慌てて村を避けるように走り去って行った。


そして、


「グラァァァ!!」


アースドラゴンの襲撃。


奴の尻尾一振りで村の防壁が崩れ去ったんだ。


俺達はすぐに覚悟を決めてアースドラゴンを村から遠ざけるべく戦いを挑んだ。


でもな……


狩人達の矢は確かに刺さるんだが有効打にはならなかった。


自然とグイドが攻撃のメインになっていったんだ。


俺はアースドラゴンの足下の地面を掘ったりしてバランスを崩させて攻撃のチャンスを作っていった。


結果、アースドラゴンには俺が目障りだったんだろう。


そこからはグイドが攻撃しようがひたすら俺に対してアースドラゴンは攻撃してきたんだ。


最終的にもろに奴の前足の引っかきを受けちまって片腕が無くなった。


そのままアースドラゴンは口をあけて俺を喰おうとしたんだろう。


あの時は、俺も喰われると覚悟したんだ。


「吹き飛べや!!」


口をあけて俺に迫るアースドラゴンの横顔目掛けて誰かが突っ込んだのが見えたんだ。


ズドン。


空気が振動したように感じたよ。


殴りつけた正体はなんとミーナだった。


ミーナが口をぽっかりと開けてるアースドラゴンの横顔を殴りつけたんだ。


殴られたアースドラゴンはどうなったと思う?


信じられるか?


小柄な女性がアースドラゴンの横顔を殴ったらあの巨体が倒れたんだぞ?


グイドが以前酔っ払いながら、ミーナは俺よりも実は強いと一度だけ聞いたことがあったんだ。


その時は何の冗談かと思っていたんだけどな。


俺も何回か一緒に戦ったことはあったけど、ここまでの力があることは知らなかったんだ。


ミーナが時間を稼いでくれたおかげで俺は何とか村に戻ることが出来たんだ。


そのあとは子ども達から聞いた通り。


子ども達を村の皆から託された俺は地下へと避難したんだ。


あの後アイツ等がどうなったのかは俺にはわからないんだ……

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