第179話

ハルヒィさんが目を覚ましたとの連絡を受けて急いで救護所へ。


「ハルヒィさん!!」


「おぅ、ラグナか。子供達を助けてくれただけじゃなく俺まで地下から助けてくれたって聞いたよ。ありがとう。」


ハルヒィさんには俺が傷を治したことは秘密にしてあるとフィリスから聞いていた。


「うん……でも左腕が……」


「あんなバカでかいドラゴンに挑んで片腕だけで済んだんだ。お前の気にすることじゃない。」


「うん……」


ハルヒィさんの側に行くと抱き付く。


ハルヒィさんはいつものように俺の頭をポンポンしながら呟く。


「村、無くなっちまったな……すまねぇ、守れなくて……」


「ううん……悲しいことは悲しいけど……村の皆が命懸けで子供達を守った事は本当に誇りに思うよ。」


コンコン。


「失礼するよ。」


ビリーさんとマルクさんの2人が救護所へと入って来た。


「体調はどうかね?」


「片腕はこんなんになっちまったけど不思議と身体の痛みが無くてね。高価な回復薬でも使って貰ったんだろう?おかげで助かった。失礼だがあなた方は?」


「あぁ、失礼したよ。私はこの国の戦略魔法大臣をしているビリー・アブリックだ。」


「軍務大臣のマルク・ラヴァンだ。よろしく頼む。」


大臣とのフレーズが聞こえた瞬間、ハルヒィさんの動きが止まる。


そして一気に真っ青な顔色へと変化。


椅子から飛び降りると見事な土下座スタイルへ。


「だ、大臣ともあられる方々に大変なご迷惑を。な、何卒私の命だけで!子供達は何卒!?」


ハルヒィさんが貴族を毛嫌いしているのは知っていたけど……


「頭を上げて欲しい。本来なら我らが君に頭を下げるべきなんだ。」


そう言うとビリーさんがハルヒィさんに寄り添う。


「へっ?」


予想外の返答に驚き間抜けな顔をするハルヒィさんの肩を支えると、立ち上がらせる。


そしてマルクさんがハルヒィさんの前に一歩進む。


「まずは村の子供達を命懸けで守った事。本当に感謝する。子供達は将来我が国を支える大事な宝だ。それを君は命を懸けて守ったのだ。」


ハルヒィさんはマルクさんからの言葉をじっと聞いていた。


「どうか……親を亡くしちまったアイツらが不幸にならない様にお願いします。」


深々と頭を下げる。


「もちろん。私達に出来ることは何でもするつもりだ。」


「感謝します。」


そう言うと深々と頭を下げるハルヒィさんの事を俺はじっと見つめていた。


『決めた。』


「子供達の件は我々に任せてくれ。だが君はどうする?その腕では冒険者稼業は厳しいだろう。」


「俺ならば大丈夫です。気楽な独り身なのでどうにかなりますよ。」


ハルヒィさんがそう言うとビリーさんとマルクさんの視線が交差する。


『私が引き受ける。』


『いや、俺が引き取る。』


無言で視線によるバトルが行われていた。


大人ならば決着が着くまで大人しく見守るんだろうが俺はまだ子供。


2人の思惑なんて気にしない。


「ならハルヒィさん。うちに来ない?これでも一応男爵なんだけどさ……誰もいないんだよね。メイガは俺が引き取る予定だし。どうかな?」


「「なっ!?」」


驚く大臣2人を余所に気がつかないフリをして話を進める。


「ハルヒィさんが居てくれると僕は心強いんだけど……」


ハルヒィさんの右手を両手で掴む。


「俺でいいのか……?所詮平民上がりの元冒険者だ。礼儀なんてわかんねぇし……それに以前のようには戦えないんだぞ?」


「何言ってるの。僕なんて辺境の村で育った『ただの子供』だよ?」


「お前みたいな子供がただの子供な訳あるか。本当に俺でいいなら……よろしく頼む。」


おれは両手で掴んでいた手を離すとガッチリと握手する。


「これからよろしくね。」


大臣2人はため息と共にラグナへと話しかける。


「今回はラグナ君にしてやられたねぇ。」


「全くだ。だがこれで良かったのかもしれんな。」


全てが落ち着いた後にハルヒィさんに仕事を頼むとだけお願いされた。


「改めて何があったのか、詳しく説明してもらってもいいかな?」


そしていよいよハルヒィさんから村で起きた事について語られるのであった。

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