第181話
ハルヒィさんから話を聞いた後マルクさんが話しかけてきた。
「ラグナ、後はハルヒィと言ったか?今後について話がある。」
マルクさんの雰囲気から姿勢を正した。
「村の住人の遺体についてだ。今は魔法師達が凍らせているから腐敗を防げているが……ずっとこのままと言う訳にもいかん。それに……このままでは魔物化しゾンビになってしまう可能性が高い。出来るだけはやく火葬したいんだが……こちらで火葬しても構わないだろうか?」
どうやらこの世界では亡くなった後に適切な処置をせずに遺体を放置すると、理性無き魔物として遺体が動きだし生物を襲い始めるらしい。
特に魔物に殺された遺体はゾンビ化しやすいとか。
それにこのままでは遺体が腐敗し疫病が広がる恐れもあるんだよな……
マルクさんにこの世界での火葬方法を聞いた。
基本的には土魔法師が土を固めて簡易型の竈を作り火の魔法師が遺体を焼却し、残った遺骨や遺灰を壷に入れてお墓へと納骨するらしい。
これも初代勇者が国作りの際に決めたルールだとか。
ただ大量に人が亡くなった場合は丁寧に焼いてる時間が無いので遺体を集めて一気に焼却。
遺骨や遺灰の上に土魔法師で土を固めて簡易的なお墓を作って終わりらしい。
過去に村が壊滅した時はこの手法が取られたとか。
ハルヒィさんと目が合う。
「出来れば皆が楽しんだ思い出がある広場で死者を弔いたい。」
「だが……弔ったとしてもここは本来ならば魔物の領域だ。墓を作った所で破壊されてしまうのでは無いか?」
確かに普通なら魔物に破壊されてしまうかもしれない。
でも俺が全力で魔力を込めた土魔法で作ったお墓ならどうだろうか?
アースドラゴンのような奴が現れない限りは耐えてくれそうな気がする。
それに……
アースドラゴンを討伐してからの兵士達の俺に対する雰囲気がね……
今更能力を隠す必要も無い気がする。
「火や土は僕が準備します。」
そうしてラグナとハルヒィが火葬するための準備をする事になった。
ハルヒィと2人で広場へと向かう。
「まさかこんな事になるなんてな……」
「うん……」
「ただ穴を掘って遺体を燃やして終わりってのもあれだよな……」
「でも……何かやるにしても200人近い遺体を燃やさなきゃいけないからね……」
送り火か……
何か村のみんなにしてやれる事……
巨大な送り火……
キャンプファイヤー……
ふと巨大な送り火を想像したらキャンプファイヤーが思い浮かんだ。
『キャンプファイヤーを召喚しますか?』
突然、頭の中に響いた声に身体がビクッと反応する。
「ん?どうした?」
ハルヒィさんがビクッとした俺に気がついたみたい。
まぁハルヒィさんなら備長炭やらスパイスの事も知ってるしね……
「ねぇ、ハルヒィさん。ハルヒィさんは俺がいろいろ出せるのを知ってるよね?」
「まぁな。俺は誰にも言ってねぇよ。珍しいスキルを持つ苦労は俺自身がわかってるからな。」
本当にハルヒィさんには感謝だよね。
「まだ使った事が無いスキルだからどうなるかわからないけど……ちょっと協力してもらってもいい?」
「まぁ構わねぇけど……」
まずハルヒィさんが遺体を焼くための巨大な穴をスキルで作り出していく。
その光景を俺と現場に居合わせた魔法師や騎士達が見守る。
その際にネックレスを触るとサリオラにとある事を出来るか聞いてお願いした。
ハルヒィさんは時折魔力回復薬をがぶ飲みしながらも、なんとか200人以上の遺体は収納出来るであろう巨大な縦穴を広場へと建築した。
「ふぅ……もう魔法回復薬なんて当分飲みたくねぇな。腹が苦しい。それで?次はどうする?」
「村のみんなを穴に収納しよう。辛いかもしれないけど出来れば子供達にもこの光景を見せたい。命を懸けて自分達を守ってくれた彼ら、彼女らにとっての勇者だもん。」
「そうか……そうだな。あいつらにも見せるべきだな。」
子供達を広場に呼び寄せる。
「君たちを命を懸けて守った村のみんなを広場に埋葬する事になった。」
埋葬する事の意味を理解している年齢の子供達に動揺が走る。
心のどこかでは生きているんじゃないかと思っていたのだと思う。
俺自身も両親の行方がわからなく、心のどこかではそう思っているから。
子供達の気持ちには理解出来る。
「この光景を見せるべきか悩んだけど……でもやっぱり見て貰いたい。村のみんなから未来を託された君たちに。君たちにとっての勇者は命を懸けて守った村のみんなだから。僕はそんな村のみんなを誇りに思う。」
子供達はみんな涙を必死にこらえて村のみんなが収納されていくのを見守る。
両親の遺体が見つかっている子には希望があれば髪の毛の一部を切り取り遺髪として持たせた。
イルマの両親の遺髪は既に俺が収納してある。
ついでに遺品の数々も。
兵士達やハルヒィさんがどんどん遺体を穴に収納していく光景を俺達はじっと見つめる。
そして穴への収納が完了。
「英霊達よ。どうか安らかに眠りたまえ。」
アオバ村にいる全員で祈りを捧げる。
そして次は俺の番。
「少し広場から離れて下さい。」
俺が魔法を使うのを察知した兵士達は、慌てて広場から離れていく。
そして俺は土魔法を発動するとハルヒィさんが掘った穴の上にとある形状の形をした建物を作る。
もちろん魔力でガチガチに固めて。
「な、何だこの形は。」
ハルヒィさんが土で作られた建物をさわると驚いていた。
「すげぇ堅いな。」
その言葉を聞き、ビリーさんとマルクさんも俺が作った建物を触る。
ノックすると金属のような音が響いていた。
兵士達や子供達は魔法で建物が作られた事に驚き固まっていた。
「ハルヒィさん、もうちょい手伝って貰ってもいいかな?」
ハルヒィさんに頼んで遺体を収納した穴から俺が作った建物の出口に向かって横穴を掘って貰った。
俺が作った建物はロケットストーブや反射炉の様な形状の建物。
いわゆる火葬炉と呼ばれるもの。
煙突効果で火力が上がるようにしている。
やっぱり焼いている最中のご遺体は周囲の視線に晒したくない。
それにしっかりと焼いてあげて綺麗にそのまま保管したいから。
「それじゃあちょっと燃やす前に仕込みをしてきます。危ないので中には入らないで下さい。」
みんなにそう伝えると祈りを改めて捧げた後に建物の中へ。
そして村の皆が収納されている穴の前へと再び向かう。
『皆に託された子供達。俺1人の力はたかがしれてるかもしれないけどみんなの思いは繋げていくから。キャンプファイヤー召喚。』
火葬炉の中に沿うようにキャンプファイヤー用の櫓が現れた。
『後は……備長炭召喚。』
備長炭を火床へと敷き詰める。
さらにその上に、
『着火剤召喚。』
着火剤を大量に撒くと外へと退出する。
そして外へと出ると火葬炉の横の場所もあけてもらう。
『サリオラ、マリオン様。それにきっと創造神様も協力して頂いていますよね?本当にありがとうございます。2人にはタイミングを任せるけど良いかな?』
『う、うん。』
『わかったわ。』
ラグナは膝をつくと火葬炉の横で祈りを捧げる。
「守護の女神様、海の女神様。どうか我が村の英霊の魂を安寧の地へと導きたまえ。」
俺がそう伝えると上空から金と青の2色の光が地上へと降り注ぐ。
そして……
今日この日。
再び女神が現世へと降臨した。
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