第176話

「この人は馬の世話をしていた……」


ほとんど寝ることもなく次の日を迎えた俺は、昨日ビリーさんに頼まれた件を淡々とこなしていた。


「この人は判らないです……」


中には損傷が激しく全く判らない人も多かった。


俺が判別した人を、次々とビリーさんから派遣された人がチェックしていく。


そして判別していくうちに気がついたことがある。


『どう言うことだ……?父さんや母さん、メイガにハルヒィさんや村長さん、それに狩人達の遺体が一つも無い。あと子ども達の遺体も……うちの村の住人じゃないと思う人が多数居る……』


何故……?


それに破壊された馬車があったから呼ばれて確認したけど……


あんな馬車は見たことが無い。


それに馬車を一緒に確認した時の、ビリーさんのあの反応は……


半日ほどで村の中で亡くなった方の遺体の確認作業は終了した。


「ラグナ君、本当につらい仕事を頼んでしまってすまなかった。今日も村周辺を探索したんだが……君達のご両親を見つけることが出来なかったよ……」


ビリーさんに聞いてみるか。


「その件なんですけど……変なんです。」


「変?何が変なのかな?ちょっと待ってて。マルクも呼んで食事でもしながら話を聞こう。」


食事……


流石に人の遺体を何人もみた後だと食欲があんまり無いんだけど……


マルクさんビリーさんと共に食事へと向かう。


フィリスにも同席にしてもらう。


村のお祭りでなどで使っていたイスやテーブルはかなりの数が無事だったらしく設置されていた。


「まぁこんな状態だからね。豪華にとは言えないけど準備してくれた者達に感謝しながらまずは食事にしよう。」


パンやスープ、それにステーキが用意されていた。


食事を終えた後は本題へ。


「それで違和感とは何だ?」


「村の戦力である僕の両親や元冒険者のハルヒィさん。村長さんに狩人達の遺体が一つも無いんです。それに村の子供達の遺体も……」


「それは確かに変だねぇ……」


「あぁ、変だな……だがそれならばどこに……」


悩んでいると兵士達が慌てて駆け込んで来た。


「し、失礼します!」


緊張した面持ちで駆け込んで来た兵士が敬礼する。


「どうした?」


「はっ!!先ほど村の敷地内にて地面の中から子供の泣き声がするとの報告が。」


その報告の内容に大臣2人は怪しむがラグナはすぐに気がつく。


「ハルヒィさんだ!!声がするのはどのあたりですか!?」


「あっ、あっちの方角の崩れた建物の付近で……」


そう言って指を指す方向はハルヒィさんの家の方向……


急いで向かうと兵士達がわらわらと集まって地面を掘っていた。


「すみません、ちょっと退いて下さい!!」


俺がそういうと兵士達の視線が俺に集まる。


「お、おい。あの子供は……」


「あぁ、そうだ。」


まるで化け物を見るような視線。


兵士達はすっと退いてくれた。


兵士達の反応は放置して地面へと耳を置く。


『うぁーん!!』


確かに子供の泣く声だ。


俺は慎重に土魔法を発動し周囲の土をゆっくりと移動させていく。


その様子を遅れて到着した3人が見守ってくれていた。


2メートルほど掘り進むと地面にぽっかりと穴が広がる。


それを起点に周囲の土を移動させると……


「お空だ!!」


「外が見える!!」


「ラグナ兄ちゃんがいる!!」


10数人の子供達の姿がそこにはあった。


「ラグナ兄ちゃん、ハルヒィおじちゃんを助けて!!」


1人の子供がそう叫ぶ。


俺は慌てて飛び降りると地面の中に作られた空間の中へ。


「おい!梯子だ!!梯子を持って来い!!」


「子供達を救助するんだ!!」


大臣2人は部下に指示すると子供達の救出を始める。


俺は案内されるがまま奥へと続く空間を進んでいく。


そして奥には……


本来あるべき左肩の根本から腕を無くし、傷だらけになったまま倒れているハルヒィさんの姿があった。


「ハルヒィさん!!」


慌ててハルヒィさんに駆け寄る。


良かった。まだ体温を感じる。


でも呼吸が弱い……


意識は無いみたいだ。


すぐに後ろから兵士達が続いてきた。


「この人を運ぶのを手伝って下さい!!」


瀕死の重傷を負っているハルヒィさんを慎重に運んでもらう。


そしてすぐさま救護所へ。


ハルヒィさんは救護所へ運ばれると水魔法で傷口を洗浄され、包帯などを巻かれて手当されていく。


そして神官らしき人が杖を持つと詠唱を始める。


「我らが守護の女神サイオン様、どうかこの負傷した者に奇跡を!!ヒール!!」


そう言うとハルヒィさんの顔などにあった小さな切り傷などはゆっくりと消えていく。


だが大きな傷は塞がっていない。


無くなった腕や頭からの出血などはそのまま……


『今のが神官だけが使えるらしい回復魔法……』


一回発動しただけで神官の息ははぁはぁと荒くなっている。


「私が出来るのはここまで。あとはこの方次第になります。」


そう言うと救護所から出て行った。


救護所の中には大臣2人とフィリスだけになった。


「フィオナ先生が瀕死の重傷になった時、僕の魔力で傷が治ったんだよね?」


「あれが魔力なのかはわからんが……確かにラグナの何かが私に流れ込んできたが……まさか!?」


「うん。ハルヒィには小さい頃から面倒を見てもらった大切な人だから。チャレンジしてみる。」


大臣2人は目で合図すると外で待機している部下に救護所の入り口を護らせる。


そして何があろうと指示があるまで一切の立ち入りを禁じた。


そしてラグナはハルヒィさんの身体に触れる。


『マリオン様、サリオラ、僕に力を貸して。』


ゆっくりと目を閉じて心の中でそう願いながら魔力を高めていくのだった。

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