第175話
家に飾ってあったガントレットがアースドラゴンに突き刺さっていた時点で、村にある程度被害があることは覚悟はしていた。
でもきっと村の人たちは無事に逃げただろうと、無意識にそう思いこんでいた。
ラグナの目の前に今現在広がっている光景は想像していなかった。
村の広場には次々と白い布で包まれた何かが運ばれてくる。
白い布で包まれた何かを兵士が地面に置こうとした時に布がチラリとずれてしまい中が見えてしまった。
見えてしまったのは人の顔だった何かだ……
思わず俺はその場で嘔吐してしまう。
「ラグナ……もう戻ろう……」
フィリスにそう言われるが俺は首を振る。
「……行く。」
ゆっくりと村の中を進む。
無事な建物などほとんど無い。
大きな石が直撃したのか家の木材が砕かれたりしている。
村の広場には多くの白い布で包まれた遺体が並べられていた。
ラグナは吐き気を我慢しながら広場近くに建てられていたイルマの両親が経営する商店があった場所へ。
以前商店があった建物は、ぐしゃりと潰れていた。
無惨にも破壊された建物の前で呆然と立ち尽くしていると、潰れた建物の隙間から手のようなものが見えた。
「っ!!」
身体強化魔法を発動すると慎重に瓦礫を退けていく。
フィリスも無言で身体強化魔法を発動すると共に手伝ってくれた。
数分後に現れたのはイルマの父と母の2人の遺体だった。
「旦那さんが咄嗟に奥さんに覆い被さって崩れてきた建物から守ろうとしたんだろう……」
フィリスが隣で祈りを捧げていた。
俺はただ……
2人の遺体を見ていることしか出来なかった。
その後も村長の家だった建物の残骸やハルヒィさんの家だった瓦礫を退けていったが2人は見つからなかった。
そして……
いよいよ我が家へ。
「…………」
俺を拾い育ててくれた思い出の家は崩れ去っていた。
そして我が家の周辺には大量の魔物の死骸が。
「この傷は魔法剣で切り刻んだ時に出来る傷だ。疾風がこの周辺の魔物を倒したのだろう。」
フィリスの言うとおり魔物には切り刻まれた傷があった。
溢れ出る涙を拭くのも忘れて、ただ無言で丁寧に瓦礫を撤去していく。
「居ない……」
父さん、母さん、妹のメイガの姿は無かった。
瓦礫の中から奇跡的に壊れなかった両親や妹の私物を集める。
そして収納を発動させる。
フィリスの目の前だと言うのに。
フィリスは目の前で遺品を集めているラグナをじっと後ろから見つめていた。
『ラグナ……』
どう声を掛けていいかはわからなかった。
ラグナがおもむろに遺品へと手をかざす。
すると信じられない光景が目の前で起きたのだ。
遺品が一瞬で目の前から消え去ったのだ。
「えっ!?」
思わず声が漏れてしまった。
その声にラグナはビクッと反応するとゆっくりとフィリスの方を振り向く。
そして一言。
「……内緒でお願い。」
フィリスは驚きつつも、今のラグナには問い詰める事なんて出来ない。
ただ頷くことしか出来なかった。
その後は淡々と兵士達に混ざり黙々と瓦礫を撤去していく2人。
夕方には村の敷地内で亡くなったアオバ村の住人の亡骸を広場に集めることが出来た。
「ラグナ君、君には明日とてもつらい仕事を頼まなくてはいけない。無理ならば断ってくれてかまわない。」
ビリーさんから頼まれた仕事はわかる範囲で亡くなった住人の確認。
本来なら子供に任せる仕事ではないが……
今のところ生存者の発見が出来ていないので俺に頼むしかないとの事だった。
アオバ村周辺のほかの村でも同様な光景が広がっているらしい。
「大丈夫です。僕が……確認します。」
「こんなことになってしまい、本当にすまない……」
ビリーさんが俯きながら俺に謝罪する。
そして俺の両親の2人の遺体は見つかっていないとの報告だけ教えてもらえた。
パチパチ。
パチパチ。
焚き火の火を地べたに座りながらじっと見ていた。
俺の隣にはフィリスが座っており、同じ様にただじっと火を見つめている。
「ラグナ……」
ただ焚き火をぼーっと見ているラグナの側に居ることしか出来ない自分にフィリスは悔しかった。
イアンから聞いたアースドラゴン暴走の原因。
第一魔法師団。
また奴らが暗躍したせいだ。
「僕が住んでいた村が……こんなにも簡単に破壊されるとは思ってもいなかったよ……」
村には頼りになる狩人達や村長、それにハルヒィさんや父さん達だって居たはず。
それなのにこんなことになるなんて……
何も考えられなくただじっと焚き火を見つめ、そのまま朝を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます