第169話

ゴブリン、ホブゴブリン達を撃退した後はあちこちで黒煙が見えるナルタへと急行する。


「ぎゃぁぁぁー!!」


「くそっ!マイクが殺られた!もう城門が持たない!」


領主軍の必死の抵抗をあざ笑うかのように、城門はワイルドボア達の突撃により破壊された。


「市民は早く避難を!!」 


「走れ!!はやく!走るんだ!」 


「このままでは街が!」


魔物たちが破壊した城門より数体流れ込んできた時に異変が起きた。


「アースウォール!!」


城壁の外から子供がそう叫ぶ声が聞こえた。


「なんで子供が外に!?」


城壁の上から必死に抵抗していた兵士達は、外から聞こえた子供の声に驚き振り向いてしまう。


「な、なんだあれは……」


声の主を探し見つけると目の前の光景に唖然としてしまう。


「こ、子供が地面を滑るように移動してる……」


しかも炎の剣?を振りかざし、迫り来る魔物をバッタバッタと切り刻んでいる。


「ゆ、夢じゃないよな。」


子供が魔物を簡単に討伐している光景を見て、兵士達は信じられない気持ちでいっぱいだった。


兵士達の目の前で戦っているラグナは、


「あの兵士達見てるだけで何もして無いじゃん!」


援護するでもなくただ呆然と見て来るだけなのでイライラしていた。


「こんなんキリがない!あんまり魔力使いたくなかったけど仕方ないか……」


魔道具達に魔力を一気に流し込むと城壁までジャンプして上がって行く。


そして詠唱を開始する。


「燃やせ、燃やせ、燃やし尽くせ!エクスプロージョン!!」


ナルタへと押し寄せる大量の魔物達の目の前に巨大な炎の塊が出現。


そして一気に炎が圧縮され激しい爆発が起きる。


「ひ、ひぃぃぃ!」


城壁からその光景を見ていた兵士達は腰を抜かし座り込む。


爆発の中心にいた魔物達は骨すらも焼き尽くされ、離れた位置にいた魔物も炎と爆風により重症を負っている魔物が多数居た。


「ふぅー。ちょっとは減ったかな……まぁすぐに増えるんだろうけど……」


無傷の魔物達は怪我を負った他種族の魔物を襲うと、食らい始めた。


「魔物達が協力して人間を襲っていた訳じゃない……?」


様々な種類の魔物が一斉にナルタへと押し寄せて居たので、てっきり協力関係でもあるのかと思っていた。


でも目の前で繰り広げられている弱肉強食の世界を見ると、どうやら違うらしい。


「たまたま向かう目的地が同じだっただけ……?そんなことあるのか……?」


ラグナが魔物達を観察していると、突如悲鳴が聞こえた。


「きゃぁぁぁ!!」


慌てて声の主を探すと街の中にすでに入り込んでいた魔物達が暴れており、少女がワイルドボアに襲われそうになっていた。


「こ、来ないで!」


少女を護衛していた兵士は地面に倒れ込んでおり、口からは血を流しながら動かなくなっていた。


「私なんて…た、食べても美味しくないよ!」


あまりの恐怖に腰を抜かしてしまって動けない……


『このままじゃ食べられちゃう!どうしよう、どうしよう!』


「ブモォォォー!」


ワイルドボアは少女に狙いをつけると声をあげて突進を始める。 


一歩も動けない少女は突進してきたワイルドボアを見て自分の終わりを覚悟するとギュッと目を閉じた。


『私はここで死ぬんだわ……』


そう考えていた。


しかし一向に衝撃が来ない。


『…………あら?……まだ生きてるの……私。』


恐る恐る目をあけると目の前には人の後ろ姿が。


「君、大丈夫?」


目の前の人物が振り向くとそう語りかけてきた。


「だ、大丈夫ですわ……助けていただき感謝しま、ひぃぃぃ!」


話しかけてきた人物の後ろには頭にぽっかりと丸い穴があいたワイルドボアが倒れており、ピクリとも動いていなかった。


「もう死んでるから大丈夫だよ。」


先程から優しく声を掛けてくる人物を座ったまま少女は見上げる。


『男の子……?』


目の前には自分よりも少し背が低そうな男の子。


そして顔をよく見てみる。


「ラ、ラグナ様!?」


思わず目の前の人物の顔を見て声をあげてしまう。 

まさか自分を助けてくれたのがあの『ラグナ様』だったなんて……


ラグナはラグナで見ず知らずの少女が急に自分の名前を呼んできたので驚いた。


「どこかで会ったこと会ったっけ?」


少女の顔を見ても全く見覚えが無い。


とりあえず少女の手を取ると立ち上がらせる。


「こうして会うのは初めてですわ。命を救って頂き感謝します。私は元ペッツォ伯爵家、現ナルタ辺境伯家長女のペトリ・ナルタです。」


元ペッツォ伯爵家?


現ナルタ辺境伯家?


ん?どういう事?


「あっ、えっと……パスカリーノ男爵家当主のラグナ・パスカリーノです。間に合って良かったです。」


少女は少女で驚いていた。


まさかラグナが英雄フィオナ・パスカリーノ様の跡取りだとは思っても居なかった。


誰かがパスカリーノ家を引き継いだとは聞いたことがあったが、まさかそれが目の前にいる少年だとは……


「そう言えば僕の事は何故知っているのですか?」


「えっと……魔法学園と騎士学園の交流戦の時に私が通っている学園も観戦していましたの。」


そういえば貴族学園ってとこも観戦してたよな。


つまりこの子は貴族学園の生徒か。


「とりあえず早く避難しましょう。」


まだ魔物が街の中を彷徨いているかも知れないので急いで避難場所まで連れて行く。


『時間もないし仕方ないか。』


彼女の足では移動が遅すぎるので一言『失礼します。』と声を掛けるとお姫様抱っこに切り替えてホバー移動を開始する。


「それで、どちらに向かえばいいでしょうか?」


ラグナはペトリの指示通りにスイスイと街中を進んでいく。


そして時折現れる魔物には無詠唱の魔法で撃退していく。


しばらく進むと懐かしの領主の館へと到着した。


「お父様!お母様!」


ペトリは兵士より報告を受けて慌てて出てきた両親の元へと駆け寄って行く。


「ほ、本当に。よくぞ、よくぞ無事で!」


「もう駄目かと……」


両親がペトリの元へと駆け寄る光景をラグナは冷たい目で見ていた。


『魔物に攻められ街が滅ぶかもしれないと言う危機的状況の中、領主は屋敷に引きこもっているとは……兵の指揮すらしていないのか?』


前領主もあれだが新しい領主もこれか。


確かにこれならワイバーンがいると報告した時に、自分周辺の守りを固めていただけはあるな。


早々に立ち去ろう。


「君が助けてくれたのかね!」


ペトリがラグナによって命が救われた事を説明していた。


「たまたま近くに居ましたので。助けることが出来て良かったです。それではこれで。」


ラグナは立ち去ろうとすると呼び止められる。


「ま、待ってくれ!!どうか、どうかナルタを救ってはくれないだろうか?」


ナルタを救う?


冗談じゃない。


こんな領主の為に戦うくらいなら俺は直ぐにでもアオバ村に向かいたい。


ラグナが拒絶しようと返事をする寸前、上空に魔力を感じる。


「まさかもうここまで来ているとはな!」


『嫌なタイミングで……』


学園長が空を飛んでラグナの元へとやってくるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る