第168話

『お困りのようだねぇ!!お姉さんが助けに来たよ!!』


ふざけた声が頭の中に聞こえている。


一瞬だけイラッとはするものの自分では強行突破するしか手段が残っていないので、素直に返事をすることに。


『めっちゃ困ってる。すぐにでも助けて欲しい。』


『そうか、そうか。ならば闘技場までおいで!待ってるよ!』


学園から直通で外に出れるルートは兵士達によって封鎖されてしまっているので、闘技場へと急いで進む。


既に学園内をうろうろしているような生徒は誰一人として存在していなかった。


そんな中1人ラグナは学園内を爆走。


あっという間に闘技場へと到着した。


闘技場は魔族の襲撃の際に破壊されたまま、修復があまり進んでいない様子。


瓦礫は運ばれたみたいだが、後はボロボロのままだった。


『闘技場へようこそ~!!』


今度は頭の中では無く実際に声が聞こえた。


「いろいろ貴女には聞きたいことがいっぱいあります。でも今はそんな時間が無い。僕を助けて下さい。」


『意地を張らずに、よく言えた!カッコいいぞ、男の子!実は魔族の襲撃時に魔力貯蔵タンクが破損しちゃってね~!だからこの国にある魔道具達はもうじき全停止しちゃうんだ。だからもし聞きたいことがあるなら、シーカリオンで僕と握手!時間もないし直ぐにでもここから外に飛ばしてあげる。それじゃあリングの中心に立ってくれるかな?残りの魔力は全て君の為に使ってあげるよ。』


気になること聞きたいことは沢山あるけど、今は村の皆の元へとすぐにでも向かいたい。


リングの中心に立つとぶわっと魔法陣?が展開される。


そして青白く発光を始める。


『転移される先は王都のちょっと先。ごめんね。ここまでが限界。』


「いえ、ありがとうございます。」


『それじゃあ行くよ~。死んだらダメだからね。頑張れ!』


耳元でそう囁いた声を聞いた後、突然視界が真っ白になり浮遊感を感じる。


まるでジェットコースターが下り始めたようなふわっとした感覚。


そして足に着地したかのような衝撃が来ると真っ白だった視界は突如消え去り、目の前に広がる景色は変わっていた。


後ろを振り向くと王都の城壁。


そしてすぐ目の前には街道が広がっている。


街道は必死に王都へと逃げる商人や市民で溢れていた。


『こんなに街道に人がいるとナルタ方面まで走るのは厳しい……こっちの草原を進むしかないか。』


収納魔法に入れていた魔道具を取り出すと装着していく。


『本当なら今日の授業終了後に皆にお披露目する予定で収納してあったんだけど……持ってきていて本当に良かった。』


ラグナはホバーシューズに魔力を流すと地上から数cm浮き上がる。そして前傾姿勢になると移動を開始。


障害物が無いところではダッシュメイルに魔力を流して加速。


それ以外はホバーシューズで移動。


1時間も爆走すると街道から人の気配が無くなった。


王都からナルタまでは約200km


ナルタからアオバ村までは約100km


「よし。人も居ないから街道を進もう。」


ラグナは街道に出るとダッシュメイルに魔力を流して高速移動する。


王都出発から約3時間。


所々休憩を挟みながらもナルタが視認できる距離まで移動してきた。


「黒い煙が上がってる!!」


街の外周部、防壁付近からは黒い煙が上がっているのが見えた。


「っ!!」


突如、大きな石がラグナめがけて投石されてきた事に気がついたラグナは魔力障壁を展開。


大きな石が魔力障壁と衝突するとパァーンと激しい音を立てて石が粉砕した。


「グギャギャキャ!!グギー!!」


騒ぐ声と共に目の前に現れたのはラグナよりも少し小さい110cmほどのサイズの魔物。


緑色の肌を持ち、口には鋭い牙。


木の棒を持っていたり、どこかで拾ったのか剣や槍、斧など様々な武装をしていた。


身体のサイズに合っていない鎧を付けている魔物もいる。


そして集団を指揮しているのは2メートルほどの身長を持つ魔物。


目の前にいる小さな魔物をそのまま大きくして、ムキムキの筋肉を手に入れた感じ。


更に手に持つのは身の丈ほどの巨大な斧。


「こいつらゴブリンとホブゴブリンって奴か!!」


そういえばナルタに来る前にどっかの領地が陥落って言っていたな。


そこで力尽きた人達から武器や防具を奪ったのか!


「グギー!!グギャ!ギャギャガ!!」


ホブゴブリンが何かを指示すると、ゴブリン達が一斉にラグナの元へと突っ込んでくる。


対するラグナは魔道具を起動させるとガストーチソードを右手に発動。


こちらに向かってくるゴブリン目掛けて突撃する。


『こんな奴らを相手にしてる時間なんて無い!!』


ガストーチソードはゴブリン達が持つ武器を軽々と溶断。


そのままゴブリン達を真っ二つに切り刻んでいく。


「邪魔だぁぁ!!」


一瞬にして仲間を殺されたゴブリン達はラグナから逃げようとするが、そのうちの1体がホブゴブリンに頭を鷲掴みにされる。


そしてグシャッと頭を握りつぶす。


「グギャギャキャ!!グゲェ!!」


ホブゴブリンが何かを叫ぶとゴブリン達は腰が引けながらもラグナへと武器を振りかざす。


次々とラグナに襲いかかっては殺されていくゴブリン達。


ホブゴブリンはゴブリン達のそんな情けない姿に憤慨する。


「グーギャーー!!」


ホブゴブリンは大声で叫ぶとしびれを切らしたのか大斧を両手でがっちり握ると、ラグナの元へとドシドシと巨体を揺らしながら向かっていく。


ラグナも同様にガストーチソードを構えるとホバー移動をしながらホブゴブリンに向かって高速で移動。


そしてホブゴブリンの射程圏内に近寄るとスキルを発動する。


『LEDランタン!』


「ギャギャァ!!」


高速で移動してくるラグナに対して、大斧をふりかざそうとしていたホブゴブリンを突如真っ白な光が襲う。


目が焼かれているかのような痛みで大斧から手を離し目を押さえてしまう。


『いまだ!!』


ラグナは一気に加速するとホブゴブリンを一刀両断。


ホブゴブリンの身体は呆気なく上半身と下半身が別れてどさりと音を立てて倒れる。


その様子を見ていたゴブリン達は手にしていた武器を投げ捨てて、散り散りに逃げて行った。


本来ならナルタに立ち寄らずにそのまま村に向かいたい気持ちもあるが、状況が全くわからないので黒煙がモクモクとあがっているナルタへと向かうのであった。

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