崩壊する日常

第167話

今日から2学年がスタートする。


始業式を終えて俺達は2学年へと進級。


「結局フィオナ先生ってどうなったんだろうね……」


「わかんない……」


今日から新しい教員が担当になると通達された2学年特級組は、まるでお通夜のようにどんよりとした空気が漂っていた。


『フィオナ先生についての真実を話す訳にはいかないしね……』


ガラガラと教室の扉がひらくと成人の男性が教室内に入ってきた。


「お~っす。初めましてだな。新たにおまえ達の教師になったキエフだ。よろしく頼む。」


目の前に現れた男性はフィリスの元部下であるキエフさんだった。


さすがに全く想像していなかったのでラグナは驚いていたものの、立ち上がるとキエフに挨拶をする。


「キエフさん、お久しぶりです。」


「うん?おまえは……」


以前墓参りでキエフさんと出会って以来か。


キエフさんは俺の側に来ると頭に手を置くとわしゃわしゃと頭を撫でてきた。


「隊長の件は話で聞いてる。お前が勇敢に魔族に立ち向かい、隊長の助けに入ったこともな。本当に惜しい人を亡くした……俺があの人の意志を継いでお前達を鍛えてやる。」


どうやらキエフさんは真実を聞いていないらしい……


実際の状況を見ていた生徒達はさらに微妙な空気を出している。


「とりあえず、お前達に自己紹介をしてもらう前に編入生を紹介する。入ってきていいぞ。」


編入生と聞いてざわつく教室内。


そして現れたのは青い髪の女の子。


「皆さん、初めまして。私の名前はフィリス。今日から皆さんと一緒に学べることを楽しみにしていましたわ。よろしくお願いします。」


にぱっとフィリスが笑うとクラス全体の空気が固まった気がする。


「フィリスの席はっと……どうしたお前達。転校生に対してその目つきは。俺は良くないと思うぞ!」


キエフがみんなの表情を見て注意する。


「はぁ。もういいや、ウチが代表して突っ込んだる。髪の毛の色が変わろうとうちらの目は節穴じゃ無いで!何しとるんよ『フィオナ先生』」


ルーが立ち上がると代表して指摘する。


まぁ髪の毛の色が変わったくらいじゃ騙せないよね。


「おぃおぃ。お前達、何を言ってるんだ。フィリスが隊長な訳ないだろう。フィオナ隊長はもう……」


「髪の毛の色が変わっていても私達は目の前でその姿を見てるんですよ?」


ミレーヌさんが追撃を仕掛ける。


「な、何の事やら。私はフィリスですわよ?フィオナ?ではございません。」


再びにぱっと笑みを浮かべる。


「そうだぞ。フィリスに失礼だぞ、お前達。もう亡くなっているから言えるがフィオナ隊長がこんな可憐な美少女な訳無いじゃないか。もっと怖い目つきで……」


あっ、終わった。


俺達はすぐにフィリスの変化に気がついた。


にこにこしていた笑顔が一瞬で消えた後に、いつもの目つきへと変化。


そして一瞬にしてキエフの後ろへと回り込むと首を鷲掴みに。


そのまま前に押し倒す。


「あぁ?誰が怖い目つきだと?美少女な訳が無いだと?好き放題言ってくれたな。」


声は幼いがこの感じ、この雰囲気は確実にフィオナ隊長だとキエフの身体が反応していた。


「う、嘘だろう……隊長が生きているなんて……でもこの感じは確かに……」


キエフは嬉し泣きなのか恐怖を感じてなのかはわからないが目に涙を浮かべていた。


そして改めてフィオナ改めフィリスへと首を掴まれたまま顔を向けると更に爆弾を投下した。


「確かにこの感じ、この目つきは隊長だ……つまり……隊長が『ロリババア』になっただと!?」


「あぁ?お前喧嘩売ってるのか?あぁん?」


動揺していろいろ口走っているキエフに対してフィリスは炎を出すといつもの如く焼き討ちしようとしていた。


ガラガラと再び教室が開く。


そして扉をあけた人物は頭を抱えながら盛大にため息を吐く。


「はぁぁぁ……全く……やっぱりこうなったか……だから髪色変えた位じゃこいつらにはすぐにバレるって言ったんだよ……」


教室に入ってきた学園長はフィリスをペイッと引き剥がすとキエフを立ち上がらせる。


「だ、団長……」


動揺しているキエフの肩を叩くと全員を座らせて教室の鍵を閉める。


「バレた場合は説明してもいいと言われているからな。今から話すことは他言無用だ。判ってるな?」


全員が頷いたのを確認するとフィオナについてのこの国の決定事項やラグナの立場について全てを説明し始めた。


説明をし終わった後にぐったりとしていた双子が居た。


「もっとはよう知りたかったわ……実家に帰ってから母上がピリピリしとって大変やったんやから……」


「父上に限ってそれはないだろうとは思ってたけど……本当に良かった……」


アブリック家の双子はフィリスという庶子がいると父が母に話してからと言うもの凄まじいほど夫婦仲が悪化してしまい、本当に家にいることが辛かった。


母からは常に結局男なんてという愚痴を聞かされる毎日。


しまいには母が庶子を呼び寄せるから学園へ戻れと、強制的に学園に戻ることになっていた。


「2人には悪いことをしたと思ってはいるが……ちなみに書類上では正式にお前達と家族だからな。そうだ、兄上と姉上とでも呼ぼうか?」


ニヤリと笑うフィリスに対して双子は苦笑いをしながら息ピッタリで答えた。


「「フィオナ先生の方が実際には年上なんだからお姉様で。」」


双子のリアクションに教室内に笑いが響く。


「まぁとりあえずこんな感じだ。明日から授業は始まるがキエフが担任で宜しく頼む。困った時はこっそりフィリスが手伝ってくれるさ。」


この時までは……また明日も平穏な日々を過ごすと思っていた……


ビィー!ビィー!ビィー!


突然王都全体に鳴り響く聞いたことも無い音。


「緊急戦時体制アラートだと!?」


学園長やフィリス、キエフの雰囲気が一気にピリピリとしたものに切り替わる。


『緊急事態発生!!緊急事態発生!!ペッツォ伯爵領にて魔物のスタンピード発生!!すでに領地は陥落!!現在ナルタ領に大量の魔物が向かっている模様!!繰り返す!!緊急事態発生!!緊急事態発生!!魔物のスタンピード発生!!現在ナルタ領に大量の魔物が向かっている模様!!』


「なんだと!?」


ナルタ領に大量の魔物……


父さん!母さん!メイガ!それに村の皆が危ない!!


「ラグナ!!」


ラグナが動き始めた事に気がついたフィリスが止めようとしたが、全力で移動を始めたラグナを止めることは出来なかった。


ラグナは窓を開けるとそのまま外へ。


あっという間に視界から消えていった。


「くそっ!!あいつは!お前達は大人しくしてるんだぞ!!」


学園長はラグナを追いかけたい気持ちをぐっと堪えると、国からの指示を仰ぐべく王宮へと急行する。


「お前達、緊急戦時体制が発令された意味は判っているな?場合によっては私達学生も戦力として戦場に向かう可能性がある。普通ならば上級生を連れて行くんだろうが……すでに国にはこのクラスの実力が知れ渡っている。覚悟を決めろ!」


子供達にもピリピリとした空気が広がっていく。


フィリスはラグナが出て行った窓から空を見上げる。


『絶対に死ぬなよ……死んだら許さんからな……』


その頃勢いよく教室から飛び出したラグナは冷静に行動していた。


『どうせこのまま突き進んで学園から出れたとしても、王都の城門は封鎖されているかもしれない。それなら……』


ラグナは学園の出入り口とは反対方向へと突き進む。


『たしか学園から直接王都の外へ出れる場所があるって聞いたことがある。』


上級生が王都の外へ演習に行く際に使われている通路を探す。


『ここでもない、こっちでもない……』


出入り口の反対側にある壁に到着すると、すぐに目的の場所は見つけることが出来た。


しかし既に兵士らしき人達がわらわらと集まっていた。


『まずい……強行突破するしか……』


すると突然あの声が頭の中に響く。


『お困りのようだねぇ!!お姉さんが助けに来たよ!!』


ふざけた声の存在が話し掛けて来たのだった。

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