第166話

『やほー!!ウチウチ!覚えてる~?魔道具越しに話し掛けたことあるよねー!!ウチウチ詐欺じゃないよ~。』


アムルさんから受け取った手紙を読み始めてすぐに思い当たる人物?魔道具?を思い浮かべる事が出来た。


こんなふざけた口調の手紙はアレしかいない。


『あの時は魔族を撃退してくれてありがとねー。あの後いろいろ調べたら、魔族の痕跡らしき物が世界中から出てくる出てくる。あたしとしたことが全く気が付かなかったよー!!流石日野っちと同じ世界から来た人間だけはあるね!!えっ?どうして知ってるかって?それは乙女の秘密だよ!いい女には秘密がつきものなのさ!それはそうと……もしも今後何かがあってヒノハバラから出たくなったらウチにおいで。海神国シーカリオンの王都にある神殿で君をずっと待ってるから。それじゃあ、またね~!注意。この手紙は読み終えたらすぐに燃えます(笑)』


「あちぃ!!」


燃えます(笑)まで読み終えた瞬間に手紙が急に発火。


一瞬にして燃え尽きた。


『くそっ!一瞬だったけどまじで熱かった!何が乙女だ!そもそも名前すらわかんないし。誰なんだよ!』


ただでさえ悩みが連続で増えているのにさらにこの仕打ち。


本当に嫌になる。


はぁ……


ベッドにダイブしてペンダントを握る。


『サリオラ、今話せる?』


『最近連絡増えたわね。ふふっ。今さっきのは私も見ていたけど。』


笑いながらサリオラが言ったように最近ちょくちょくとサリオラに連絡を取ることが増えていた。


悩み事の相談やちょっとした愚痴を聞いてくれたり。


『さっきの手紙の件は忘れて。それよりも、あれは何か知ってる?キャンプスキルの魔道書って奴。魔法書と魔道書の違いって何なんだろう。』


しかも日本語で書かれてるし。


『あれが存在してることに私も驚いたわ。話では聴いたことがあるけど、まさか本当に魔道書って物があるなんて……』


どうやらサリオラは知っているらしい。


『教えて貰えるかな?』


『詳しくは知らないわよ?そもそもラグナは魔法書がどの様な存在で誰に作られたか知ってる?』


魔法書が誰に作られたのか……


考えてみたらそうだよな。


あれは誰が作ったんだろう。


『今まで考えたことが無かった。でも人間が作ったんじゃ無いの?』


大量生産されている魔法書もあるし。


『正解は人間が作った魔法書もあれば魔法神様が眷属として生み出した魔法書もあるわ。』


人間が作り出した魔法書は誰でも簡単に読むことが出来て、詠唱と魔力の操作さえ上手くできれば発動出来る魔法。


魔法神様が眷属として生み出した魔法書には一種の意志の様な物があり、魔法書自身が使い手を選別する。


また詠唱を他人に教えても資格が無ければ発動する事は無い。


『じゃあ爆炎魔法書は魔法神様の眷属なんだ。それじゃあ魔道書は?』


『魔道書は創造神様が作り出したとしか知らないの。何のために、何故作り出されたのかはわからないわ。』


まさか創造神様が絡んでいるとは思わなかった。


以前サリオラと話をしていた時に注意されたが、そもそも創造神様と話をする機会があるなんて神界でもほとんど無いらしい。


創造神様を呼んだところで普通なら来て貰うことなど出来ない。


俺への対応は異常だと話していた。


『創造神様には聞けるわけ無いもんね……とりあえず放置するしか無いのか……』


『ごめんなさい。あまり力になれなくて。』


『ううん。話を聞いてもらってるだけで俺は楽になるからさ。ありがとう。』


コンコン


ドアがノックされたのでサリオラに感謝を伝えて会話を終えると返事をする。 


「どうぞ~。」


「失礼します。お荷物が届きました。」


今日の買い物で購入した品が届いたらしい。


ミーシャさんが同僚のメイドさん達と共に荷物を運んで来てくれた。


お礼を伝えると部屋へと収納していく。


『明日も暇だし……今日買った魔道具でも試してみようかな。勉強する気分にもなれないし……』


そして次の日。


朝から学園の訓練所にて俺とテオは魔道具を装着していた。


「昨日これが届いてから試してみたくてうずうずしてたよ。」


「俺が言うのもあれだけど……その靴大丈夫?なかなかにぶっ飛んでるけど。」


本当にテオの買った靴に関しては不安しかない。


「とりあえず少し魔力を流して様子を見てみるしかないよ。僕からやって見てもいい?」


「いいけど……本当に気を付けてよ?」


珍しくテオが積極的なので見守る事にした。


「それじゃあ行くよ。」


テオはゆっくりと『両方の』靴に魔力を流していく。


「あれ?発動しない。もうちょっと流さなきゃダメかな。」


少し前のめりになりながら更に魔力を流していくと突然ボンっという音と共にテオの姿が目の前から消えた。


「テオ!?」


すぐに目線を移動させると吹き飛んだ衝撃でゴロゴロと転がるテオの姿があった。


慌てて吹き飛んだテオの元へと駆け寄る。


「大丈夫!?吹っ飛んだけど!」


「イタタタ……失敗しちゃった。よく考えてみたら両足に魔力を流したらこうなるのも当然だよね。痛いしびっくりしたよ。」


「俺だってびっくりだよ。いきなりテオの姿が消えるんだもん。」


この靴はどうやって使うのが正解なんだろう。


そのあとも片足だけ流しては吹き飛んだり、両足に流してはロケットの様に飛んでいったり……


失敗ばかりが積み重なっていく。


「どう使うのが正解なのかわかんない……身体中痛いしちょっと休憩。ラグナのを試して見ようよ。」


勢いよく吹き飛んでいくテオの姿を何度も見ていたラグナはいざ自分の番と言われても少し恐怖を感じていた。


「よ、よし。いくぞ。」


覚悟を決めたラグナはゆっくりとホバーシューズに魔力を流していく。


すると靴底からブォーと掃除機のような音を立てて風が出ると急にフワッとした感覚になる。


「うわっ!」


足元がフワフワしており、中々バランスを取るのが難しい。


「おっとっと!」


少しだけ膝を曲げて前傾姿勢になるとゆっくりと前に進み始めた。


「おぉ!ラグナが地面をスーッと移動してる!」


『ちょっとスキーをやっている時の感覚に似ているかも。』


地面を滑るかのように体重移動でスイスイと曲がっていく。


「いいなぁ。俺も上手く使いこなせるようになればラグナみたいに……」


うん、無理だと思うぞ。


「このまま鎧の方も試してみるよ!」


テオにそう伝えると動くのを止めて制止した後、鎧へと慎重に魔力を注いでいく。


しかし背中から一向に風が出ているように感じない。


「あれ?風が出てこないよ?」


ある程度魔力を流し続けていると背中よりシュォーという音が出始めたけど一向に背中からは何も感じない。


「もっとかな。」


先ほどテオがどんな目にあったのかもすっかり抜け落ちてしまっており、どんどんと魔力を注いでいく。


それは突然だった。


シュォーと言う音が一瞬消えたと思ったらドンっ!と背中から激しく蹴られたような衝撃がくる。


そして物凄い勢いでグングンと加速していく。


「うわわわぁ!!」


あまりにも早い速度で進み始めたラグナはパニックになっていた。


「ラグナ!?」


明らかに馬よりも速い速度。


全力で身体強化をした時のような速さで訓練所の中を暴走していた。


あまりにも速く進むので全く小回りがきかない。


『止まらなきゃ!!』


ラグナはパニックになりながらも止めようと鎧の背部に流していた魔力を前方へと切り替える。


すると今度は前方から何かにタックルされたような衝撃が襲ってくる。


「ぐはっ!!」


身体強化していたとはいえ少なくないダメージをラグナに与えてその場に急停止。


ラグナはそのまま魔力を流すのを停止すると地面へと転がる。


「大丈夫なの!?」


転がった俺にテオは手を差し伸べて起こしてくれた。


「最後の急停止は中々に効いた……」


「うん、外から見ていてもあれは痛そうに見えたよ。急停止した時にまるでラグナが一瞬人形のように手と足と頭がぶらーんってなったからね。そもそも魔力を流すのを辞めたら止まったんじゃないの?」


「あっ……いきなり急加速したせいでそこまで気が付かなかった……」


そっか‥…何も急ブレーキしなくても魔力を流すのを辞めたら良かったのか……


「でも最初のホバーシューズだっけ?それで移動してるときは楽しそうに見えたよ。あれだけでも馬車の移動よりも速く見えた。そのあとの鎧を使った時のスピードは見たこと無いよ。速すぎる。」


本当にあれは速かったよ。


バイクで高速道路をかっ飛ばしてるような感覚だった。


その後も数多の失敗を重ねながら練習していく。


「はぁはぁはぁ……身体中痛いし、もう魔力もスッカラカン。僕はもう終わりにする。」


最初は盛大に吹き飛んでいたテオだったが徐々にコツを掴んできたのか最後の方ではかなりの速度で走っているように見えた。


「最後の奴は上手く行ってたじゃん。」


ぴょんぴょんと高速で跳ねるように移動していたし。


地面にくたぁっと座り込みながらテオが教えてくれた。


「まずこの靴を使うには両足に身体強化魔法を掛けないとダメだったみたい。身体強化魔法を掛けてようやく足が踏ん張れるようになったもん。あとは地面に足を踏み込む直前に魔力を流すと勢いよく進むんだ。それを繰り返せばなんとかって感じだよ。でも急停止が出来ないのが難点だよね。魔力を流すのを止めても僕のは止まらないから。」


俺のとは違って吹き飛びながら移動してるだけだからなぁ。


「ラグナだってスムーズに使えるようになってるじゃん。」


「何とかだけどね。やっぱり鎧のが癖が強いよ。ある程度魔力を流さないと発動しないし、前触れもなく急に動き出すからね。」


ずっと魔力を流して加速し続けるのではなく、ある程度加速したら止めて惰性で進んで速度が落ちて来たら再び発動させての繰り返しが一番楽に扱えた。


「それにしてもラグナはまだ余裕そうだけど僕が使ったらあっという間に魔力が無くなりそうだよ。足元のそれって流しっぱなしでしょ?」


「うん。でも見た目とは違ってそこまで魔力を使ってるようには感じないよ。背中の方が激しいくらい。」


その後も訓練を続けたラグナはある程度自由自在に扱えるようになっていた。

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