第165話

魔道具屋での散財の次は魔法書のお店へ。 


「このお店も僕は来たこと無いや。」


「ウチもや。なんでこないなお店知っとるん?」


「俺だってミーシャさんが案内してくれたから知ってるだけだよ。」


2人とも学園内子大型店舗のお店は行ったことがあっても、個人店には初めて入ったらしい。


テオが言うには大型店にはありきたりな魔道具ばかりであんなにも尖った作品は置いてないとか。


まぁさっきのお店なんて地下にあった作品はほとんど一点物ばかりだったからね。


「…………いらっしゃいませ。」


俺達は特級組なので右側の入り口から本屋に入るとエルフの店員さんが声を掛けてきた。


「あっ…………君は確かラグナ。あってる?」


「はい。ラグナです。魔法書を探しにきました。」


「そう……なら奥へ。いいのが入ってる。」


俺達3人は本屋の奥へと進む。


「やっぱり魔法書って高いよなぁ……」


水の魔法書やら風の魔法書。


さらに聖魔法書やら闇魔法書まで。


でもなんでこんなに高いんだろうか。


魔法書って事は詠唱が記載されてるだけじゃないの?


その詠唱を広めればその魔法が使える人が増えそうだけど……


それとも爆炎魔法書みたいに何かしらの条件があるんだろうか?


奥に進むにつれて本の値段も跳ね上がっていく。


そして最奥に飾られていたのは無記名の本。


説明もただ一言『効果不明。』


「この本はなんだろうね?」


「なんも書いてないのに魔法書なんかな?」


「無記名って初めて見たよ。」


「……この本は全くわからない。魔法書なのか違うのか。仕入れてもいないのに勝手にここに現れた。」


「「うわっ!!」


急に背後から現れた店員さんに俺達3人は驚き思わず声をあげてしまった。


すると、突然俺の目の前に爆炎魔法書が現れた。


しかも浮いてる。


「な、なんで!?」


「……初めて見た。これが爆炎魔法書。」


俺の目の前に現れた爆炎魔法書は空に浮かびながら発光している。


「……魔法書が警戒してる。……あの本を警戒してるのね。」


「なんや……何が起きてるんよ……」


爆炎魔法書がぐるぐると俺の目の前を回転しながら飛び回っていると、展示されていた本が発光し浮かび上がる。


そして……


バーン……


本同士が空中でぶつかり合っている……


バーン、バーン……


「……爆炎魔法書、頑張って。」


こっちに飛んでこようとしている謎の本を、行かせまいとぶつかって防ぐ爆炎魔法書。


「行け!負けんやないで!!」


ルーも応援に熱が入ってきている。


時折フェイントを掛けられて爆炎魔法書は焦っているように見える。


右に左にフェイントを掛けられては毎回引っ掛かりそうになっている。


「あかん!それはフェイントや!」


ルーが叫ぶものの爆炎魔法書はとうとうフェイントに引っ掛かってしまう。


そして……


ぽふっ。


無記名の本が俺の胸元に着地した。


「これはどうしたら……」


「本はラグナを選んだ……本に触って開いてあげて。」


爆炎魔法書が抗議するかのように俺の周りを激しくぐるぐる回ったりピカピカ光ったりしてる。


「あなたは負けたの……大人しく我慢してなさい……」


店員さんにそう注意されるとシュンとしながら俺に寄り添うようにピタッとくっついてきた。


なんとなく犬のように見えてしまって爆炎魔法書を撫でてから新しく現れた本を手に取ると勝手に本が開いてくる。


そして……


『オリジナルスキルを統合しました。以降はキャンプスキルへと昇華します。』


頭の中に響く声の後に一気に情報が頭の中に流れてくる。


「ぐっ……」


「「ラグナ!!」」


あまりにも莫大な情報に思わず膝を突いてしまう。


そして本が眩い光を放ちながらタイトルが刻まれていく。


『キャンプスキルの魔道書』


キャンプスキルの魔道書と『日本語』で書かれていた。


魔法書じゃなく魔道書。


しかも日本語で……


「おめでとう……新たなる書がこの世に産まれた。私はとても光栄な場面に立ち会う事が出来た……」


ルーとテオが本のタイトルを読もうとすると、


ぷいっ。


読ませてたまるかとでも言うような感じで動いていく。


「なんでや!タイトルくらいええやん!」


いやいやとでも訴えかけているような動きをした後に、ピタッと本が俺にくっついてくるとそのまま身体に吸い込まれるように消えていった。


「消えた!?」


急に消えた事に驚いていると爆炎魔法書も俺の顔まで移動してきてスリスリしたあとに吸い込まれるように消えていった。


……


「……爆炎魔法書はワンコみたい。」


あっ……どうしよう。


勝手に飛んできて勝手に吸い込まれるように消えたけど……


商品の代金払ってない!


慌てて本が飾られていた所に目を向ける。


金額『不明』


「店員さん……お金どうしましょう……いくら支払えば……?」


「……お金はいい。勝手にあの子がこの本屋に居座っていただけだから。」


「ねぇ、ラグナ。さっきの本達って自由に出したり出来るの?」


『そう言えば爆炎魔法書は収納魔法に入れてたはずだけど……』


「いや……爆炎魔法書があんな風に飛んだりしたのも初めて見たし、身体の中に消えたのも初めて。普段は僕の部屋に置いてあったんだけど……」


出せるのかな?


「たぶん無理……本達の魔力が無くなったから宿主の身体の中で補給してる……」


宿主って言われると寄生されてるみたいな言い方だな。


そう思っているとチガウヨ!ソンナコトシテナイ!って声が聞こえた気がする。


「えっと……ルーとテオはなんか買うの?」


「今の光景見た後に買えるわけ無いやろ!」


「うん。なんかいろいろ悩んでたのが馬鹿馬鹿しく思えるような光景を見てお腹一杯だよ。」


俺は更に悩みが増えたけどな!!


本屋を後にして寮へと戻る。


そしてルーとテオと別れた後は1人部屋に入るとアムルさんに手渡された手紙の存在を思い出す。


『放置するわけにもいかないか……真剣な表情だったし……』


部屋に鍵を掛けてから収納魔法より手紙を取り出す。


宛名は無記名。


手紙をゆっくりと開いていく。


『やほー!!ウチウチ!覚えてる~?魔道具越しに話し掛けたことあるよねー!!ウチウチ詐欺じゃないよ~。』


はぁぁぁ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る