第160話
村に帰宅してから4日目。
いよいよワイバーンの討伐へと向かう。
村の出口にて集まるのはベテラン狩人達と父さんと俺。
総勢10人。
村長やハルヒィさん、母さんやフィリスやリビオさんや若手の狩人達は村を守る護衛として残ることになった。
また村に住む人々に対して、なるべく家の外に出ないように昨日声掛けが行われていた。
「まずはワイバーンの痕跡を探す所からだな。」
村の出口から魔の森へと向かう。
そしていざ魔の森へと思った瞬間、狩人達が一斉に警戒を始める。
そして森の奥からはメキメキと木が倒れる音。
ドシドシと何か重い物体が走っている振動を感じる。
「来るぞ!!」
森の奥からこちらにうっすらとその正体が見えてきた。
「ワイルドボアだ!!」
物凄い勢いでこちらに迫ってくる。
「おい、何か変だぞ!!」
俺達を襲うと言うより後ろや上を警戒しているような。
そして異常なほど傷だらけだった。
あと200メートルほどで接敵と言う所で上空から何かが急降下してくるのを感じる。
「何か上から来るぞ!!」
こっちへと向かって疾走するワイルドボアを狙って上空から来た何かが急降下してきた。
そしてその何かはワイルドボアを上から足で押し潰す。
土埃が舞う中現れたのは巨大な翼と足。おまけ程度についている小さいな手。
その正体は……
「くそったれ!ワイバーンを引き連れて来やがった!!」
狩人達は一瞬にして臨戦態勢になる。
しかしワイバーンは人間なんて気にする素振りもなく、息も絶え絶えなワイルドボアの首に噛みつくとそのまま噛み千切る。
身体がビクビクと痙攣したワイルドボアはそのまま動かなくなる。
「グルァァァー!」
ワイバーンは獲物を得た喜びからか翼を大きく広げて雄叫びをあげる。
高さ10メートル前後、翼を広げた時のサイズは20メートルほどだろうか?
『鑑定!!』
ラグナはすかさず鑑定を発動。
『ワイバーン』
頭の中にそう表示される。
『やっぱりもっとこまめに使い込まなきゃダメか!』
そしてワイバーンはこちらを見ながらそのままボリボリと骨を噛み砕く音を立てて食事を始める。
狩人達はこの場で仕掛けることを決意する。
村はすぐ後ろ。
ほとんど離れていない。
このままではいつ村が襲われるかわからない。
「行くぞ!!」
狩人達は一斉に弓を構えるとある一点に狙いをつける。
そして息もピッタリに矢が放たれる。
放たれた矢はワイバーンの翼目掛けて飛んでいく。
目の前にいた小さな生き物を警戒はしながらも食事をしてたワイバーン。
自分から見てあまりにも小さい存在に襲われるとは思ってもいなかった。
しかし翼に突如僅かな痛みが走る。
翼を見ると少しだけ傷ついたのか出血が見えた。
小さな生き物によって食事を妨害されたワイバーンは一気に怒りの感情に包まれていく。
そして怒りの咆哮をあげる。
「グラァァァァァ!!」
弓矢にて攻撃した狩人達にも少なくない衝撃を与えた。
魔物を狩る狩人として10数年。
矢が翼に直撃したのにも関わらず、突き刺さらずに少しの傷しか与えられなかった事に衝撃を受けた。
「やはり硬いか!みんなは援護を!!」
グイドは魔法剣を発動するとワイバーンへと突貫する。
人間の突貫に気がついたワイバーンは口の中に魔力を貯めて炎の塊を吐き出す。
ジュワァァー
炎の塊が水の壁に衝突するとジュワァァーと音を立てながら消滅した。
グイドは息子からの援護に感謝しつつそのまま魔法剣を振りかざす。
「おらぁぁぁ!!」
「ギャオォォー」
風の魔法剣によりワイバーンは片翼を負傷。
痛みに怒り狂うワイバーンはすかさず尻尾を振るいグイドへと反撃。
「父さん!!」
回避は無理だと悟ったグイドは剣を盾にガードし、ワザと吹き飛ばされる方向へと飛び少しでもダメージを軽減するように動く。
しかし尻尾は一向に襲ってこない。
目の前に透明な盾の様な物が現れており、尻尾からの攻撃を防いでいた。
すかさずグイドは後ろへと後退し息を整える。
「サンキュー、ラグナ。」
「本当に気をつけてよ!」
狩人達からは絶えず弓矢による嫌がらせが続いている。
ワイバーンが羽ばたき空に逃げようとするが片翼を負傷していてはどうにもならない。
一旦飛ぶことを諦めて先ほどからチクチクとするものを撃ち出している集団へと向かい炎を吐き出す。
「散開!!」
狩人達は一斉に横っ飛びをするとワイバーンの炎の塊を回避。
そしていよいよラグナが動く。
『ガストーチソードからの身体強化!!』
両手の指先から轟々と激しい音を立てて燃える炎の剣が出現。
そして地面を踏み込み前方にいるワイバーンへと突っ込む。
さらに小さい人間が恐ろしい速度で突っ込んできた事に気がついたワイバーンは尻尾を振り回し迎撃を仕掛ける。
ジュワっと音を立てて振り回してきた尻尾を切断。
動揺するワイバーンに対して容赦なく追撃を行う。
ワイバーンは身体のあちこちを切り刻まれて傷を負い、動きが鈍る。
そして怯んだ隙にガストーチソードを首めがけて振るう。
「グル………」
小さく声をあげた後、ワイバーンが動かなくなりゆっくりと倒れる。
そして倒れた衝撃で首が地面を転がっていく。
あまりにも呆気ない終わり方で狩人達は呆然とその様子を見ていた。
「勝った………」
「俺達……生きてる……」
もしかしたら今回の戦いで命を失うかもしれない。
その覚悟を持って今回の討伐に挑んできた。
村にいる愛すべき家族、仲間。
自分の命を賭けて守ってみせると。
結果はどうだ。
回避時に負った多少の切り傷があるのみ。
誰一人欠けること無く、五体満足で討伐は完了した。
そして狩人達の視線はラグナへ。
今回の狩人達ベテランメンバーは村を開拓し始めた時に集まった古株達。
つまりラグナがグイドの本当の子供で無いことを知っている数少ない初期メンバーである。
まだ赤子であるラグナを村人総出で受け入れることを快諾し、『みんなありがとう。』という声が頭の中に流れた奇跡を体験している。
そしてその後に、まさに神とも呼べるお方が上空へ降臨なされてラグナを『普通の子供として育てよ』と言う御告げも聞いている。
狩人達は神の指示に従い、ラグナを普通の子供と同じ様に村全体で育てた。
そしてだんだんとこの様なことがあったことを忘れていき、気がつけば本当に普通の子供として接していた。
「ラグナ、本当にこの村に来てくれてありがとう。」
「お前のお陰で子供の結婚を見ることが出来そうだ。」
狩人の人達に囲まれて、それぞれから感謝の言葉を伝えられる。
「全く……俺だってワイバーンくらいなら討伐出来たのに。」
「息子に負けたくないからって見栄を張るなよ!安心しろ、お前の息子はもう父親を超えている!」
「あぁ、違いねぇ!特に最後のあの動きに手から出た炎は本当に凄かった。流石、俺の自慢の弟子だ!」
「何が俺の弟子だ。俺達の自慢の弟子だろう!!」
緊張から開放され、笑顔が戻る。
村の近くで戦闘が始まったのを祈りながら見ていた人々が駆けつけてくるのが見えた。
「ラグナー!!」
フィリスが身体強化を使い全力で走ってくる。
そしてジャンプしてきたフィリスをラグナは受け止める。
「終わったよ、フィリス。」
「うん、見ていた。流石、私の教え子だ。」
2人はお互いの身体を抱きしめながらくるくると回る。
そんな2人を村長は微笑ましく見ながらワイバーンの屍を見る。
「こんな巨大な魔物……どうやって運ぼうかのぅ……」
村長が1人小さく呟くのであった。
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