第159話

村に帰宅してから2日目。


村の狩人達やリビオさんやハルヒィさん、村長や先生、村の子供達が見守る目の前で父さんとの模擬戦。


「遠慮はいらん!本気で来い!魔法も使っていいぞ!」


「それじゃあ遠慮なく行くよ。今度こそ父さんに勝ってみせる!1年前の僕とは違うからね!」


お互いに刃を潰した剣を構える。


そして審判のハルヒィさんが石を上空へと投げる。


地面に落ちた瞬間に模擬戦は始まる。


上空へと投げられた石は重力に従い地面へと落下していく。


そして、コトンと音がする。


ドンとラグナが激しく音を立てて身体強化魔法を全身に掛けた脚で地面を踏み抜く。


「ぐっ!!」


グイドが想像していたよりも数倍に速く加速したラグナに反応が遅れるが、流石魔法剣の使い手。


体制を崩しながらもラグナの振るった剣の力を受け流す。


『この速さにこの力の強さ。学園に1年いただけで何があったんだ!?』


息子の成長に喜ぶべきか、まだまだ負けられないと思うべきか。


たった一撃受け流しただけで、手に痺れが残る。


再びラグナが地面を踏み抜きグイドへと迫るがグイドも負けじと前へ突き進む。


『下がったらやられる!』


「うわっ!」


グイドも同様に前進してきたのでラグナは剣を振るうタイミングがズレる。


グイドが先に振るってきた剣戟を身体強化魔法で無理矢理横に飛んで回避。


「去年よりも出鱈目な動きをしてるな!本当に人間か?」


「自分でも最近疑ってるよ!身体の動きが速く動けるようになったのはいいけど、振り回されてるんだ。」


激しい撃ち合いが続いていく。


お互いに一歩も引かない意地と意地のぶつかり合い。


親は子に抜かれまいと。


子は親を抜いてやると。


交差する2本の剣。


「はぁぁぁ!!」


グイドは剣に風を纏わせる。


「ふっ!!」


風により剣が加速する。


それに対してラグナは魔力障壁を展開。


ペキペキペキ


グイドの魔法剣が魔力障壁と衝突。


魔力障壁に徐々に亀裂が入る。


「貰ったぁぁぁ!!」


魔力障壁が砕けたと同時に剣を振りかざす。


「はぁぁぁ!!」


それに対してラグナも火の魔法剣を纏わせて対抗する。


そしてお互いの魔法剣が衝突する。


そこから激しい鍔迫り合い。


一旦離れると再び魔法剣が交差する。


そして意外な形で模擬戦は終了となった。


鍔迫り合いの後、2度目の魔法剣同士の交差には剣が耐えられなかった。


まるでガラスの様にお互いの剣が砕け散ったのだった。


「そこまで!!両者武器喪失により引き分け!」


わぁぁぁぁ!!


白熱した試合にギャラリーが盛り上がる。


「たった1年でここまで成長するとはな。頑張ったな、ラグナ。」


父さんが俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。


「ありがとう!初めて父さんに引き分けまで持ち込む事が出来た。それが本当に嬉しいよ。」


「でも俺は魔法も使っていいと言っだろ?なんで使わなかった?」


うーん……


「身体強化魔法と魔力障壁は使ったけど攻撃魔法は手加減が厳しくて……」


「手加減なんかいらなかったぞ?」


「うーん……ねぇ、フィリス。どう思う?」


「仮にラグナが爆炎魔法を発動させたらグイドさんは良くて瀕死の重傷、回避に失敗すると即死。たかがファイアーボールだとしても無詠唱だからね。対処は厳しいと思うよ。」


村の子供達は魔法と言う言葉に目をキラキラさせる。


そして魔法を見たいと騒ぎ始める。


「うーむ……爆炎魔法とやらは物騒なので困るんじゃが、ファイアーボール程度なら子供達に見せてやって貰えるかのぅ。」


「それくらいならいいですよ~。」


魔法ー!!


やったー!!


子供達は魔法が見れるとわかるとテンションが一気に跳ね上がる。


「それじゃあ空に向かって発射するよ~!」


ラグナが空に向かって手を伸ばしてファイアーボールを発動。


そのまま上空へと発射した。


……


シーンとなる子供達。


「あ、あれ?びっくりしちゃった?」


ううんと首を振る子供達。


「……思ってたのと違う。ショボい……」


どうやら子供達は派手に爆発するような魔法を期待していたらしい。


でも爆炎魔法は本当に危ないしな。


それならこれでどうだ!!


ラグナは両手を空に向けるとファイアーボールを次々と発動し、まるでマシンガンのように連続で発射してみせる。


次々と発射されるファイアーボールに子供達は大はしゃぎ。


しかし今度は無詠唱で連続で放たれるファイアーボールを見て大人達が黙り込む。


「あ、あれ?俺なんかした?」


大人達からの視線が痛い。


「……なぁ、フィリスさんや。今時の魔法使いはあんな感じで無詠唱でバンバン魔法をぶっ放すのか当たり前なのか?」


グイドの問いにフィリスは首を振る。


「ラグナと同じクラスメイトは無詠唱で魔法を使えますけど……魔力消費が激しいのであんなにもバンバンぶっ放すなんて出来ませんから。あなたの子供だけが異常なんです。」


ラグナの手からマシンガンの様に繰り出されたファイアーボールを見て、先程まで模擬戦をやっていたグイドは冷や汗をかく。


『あんなにバンバン発射されたら防ぎようがねぇだろ!!』


「なぁ、グイド。明日の狩りにラグナを連れていけないか?ラグナがいれば『アイツ』を倒せるんじゃないか?」


「アイツか……確かにそろそろどうにかしなきゃいけないと思ってはいるが……」


グイド達は数週間ほど前に突如現れた魔物によって思うように狩りをすることが出来ていなかった。


このままでは狩り場が荒らされるだけでなく、村が襲われる危険性もあった。


新たにナルタの領主になった貴族には既に連絡はしている……しかし魔物が魔物なだけにそう簡単に討伐部隊を差し向けることが出来なかった。


その魔物は空を飛ぶのだ。


万が一討伐部隊をアオバ村に差し向けている最中にナルタまで飛来し襲われる危険性がある。


「ちなみにどんな魔物なの?」


「その魔物は『ワイバーン』と呼ばれている亜竜だ。」


「ワイバーン?名前は聞いたことがあるけど……どんな魔物なの?」


「ワイバーンは竜のなり損ないと呼ばれている魔物だ。本能に忠実で性格は獰猛。腹が減っていれば手当たり次第襲って食料を食い尽くしていくんだ。王国では数年に1度のペースで村が襲われては壊滅してる。奴らは突然どこからともなく飛来してくるんだ。何度も魔法師団が討伐部隊を組んで派遣されては討伐を行ってきた……と聞いたことがある。」


フィオナ先生は討伐経験がありそうだな。


「嬢ちゃんの言うとおりこのままではこの村が襲われるのも時間の問題だろう。なぁ、グイド。このままじゃ俺達の村が……」


「わかってはいるが……亜竜とは言え、竜だぞ?いくらラグナの実力があるとは言え子供だぞ?」


竜か……うん?


一応戦ったことがあるな。


「ねぇ父さん。一応魔道具で現れた仮想の魔物だけど僕はもうドラゴン討伐経験あるよ?スモールアースドラゴンだけどね。」


グイドは思わずフィリスの方を振り向くと今言ったことが真実だと頷いていた。


「学園って想像以上にやばい所なんだな……」


村のみんなから憐れみの目で見られた。


解せぬ。


そうしてラグナがワイバーン討伐作戦に参加する事が決まったのであった。

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